第25章 後輩と雨
テオとニーナの二人が談話室に戻るとリリーとイグナーツがすでに戻っておりソファに座っていた。
「あー、おかえり!」
「遅かったな。相当手間取ったようだな」
イグナーツの得意げな顔を見る限り、向こうも収穫があったようだ。二人は彼らの元へ走って行った。
ソファの背に隠れて見えなかったが暖炉で温まっているのは確かにシャドウアタッカーだ。名前は知らなかったが男二人のコンビで何度か顔を合わせたことがある。
「よお、こんにちは……って!?」
こちらに気付いてゆるく挨拶をしてきた片方が急に声を荒げる。
「に、ニーナさん!テオさんも!」
頭に鉢巻を巻いて、長めの髪から見える顔はまだ幼い。新しく少しぶかぶかな制服に身を包んでいる。テオとニーナを確認するや否や勢いよく立ち上がり頭からつま先までピンと伸ばして敬礼のポーズを取った。
「俺!……いや、僕は前からニーナさんとテオさんの大ファンでして!まだ入団して一年しか経っていませんが、一緒に戦えるなんて夢のようです!よろしくお願いします!」
ハキハキと元気よく話す彼はクラウスと名乗った。
「多分直接話すのは初めてかな?どうぞよろしくね」
「はい!」
ニーナが右手を伸ばすと両手で力強く握手を返してくる。続いてテオも手を差し出した。
「クラウスだな?よろしく。それでもう一人は?」
クラウスの勢いに負けじともう一人の緑色をした男の子が立ち上がって口をぱくぱくと動かす。クラウスが背中を押して前に立たせる。
「こいつヨハンって言うんです!元々ちょっと声が出なくって。でもちゃんと戦えますし安心してください!」
ヨハンはクラウスの紹介に頷いて深々とお辞儀をした。元気なクラウスとは対照的に優しそうな子だ。握手をするときも二人の手をガラス製品のように握っていた。微笑む姿がとても印象に残った。
「大丈夫、私も身体弱いから。偏見なんてしないからね」
ニーナの微笑みにテオもうんうんと頷く。クラウスもヨハンもさらに笑顔になる。ソファの背もたれに座っているリリーがにやりとした。
「聞いて聞いて。この二人、テオとニーナの話をしたらすぐに行くって言ってくれたのよ!」
「はい!憧れの先輩が困っているならお手伝いするのは当然です!」
先輩と呼ばれるのはくすぐったかったがその反面嬉しくもあり、二人は顔を合わせて照れた。
テオとニーナも強力な助っ人を呼ぶことができたとみんなに伝えた。
「じゃあそろそろモンスター討伐といきますか」
イグナーツが合図をすればその場にいる全員が真剣な面持ちになった。まだ見ぬ強敵を想像すると震えが止まらなくなる。これは恐怖からの震えなのか、武者震いなのかは分からなかったが無事に帰ってこれることを各々祈っていた。
厚く黒い雲から雨が降ってきた。




