第24章 不器用な愛の表現
遠くではクムエナとエイブラハムのコンビが着々と相手の体力を奪っているようだ。もうほとんど相手の動きが見られない。さすがは普段からこの格闘場で戦っているからか迷いと無駄のない見事なコンビネーションを見せている。エイブラハムが下から華麗にアッパーカットを決めれば、上でクムエナが待ち受ける。天から地へ振り下ろされるかかとが脳天に命中した。そのまま地面に叩きつけられ完全に動かなくなる。
「テオもう大丈夫だよ。起きれる?」
肩を揺するとテオは寝起きのように呻きながら目を覚ました。ぼんやりしていたが、我に返ったように目を見開く。
「はっ!あいつは!?俺はあいつにやられて、そして……?」
あの屈辱を思い出したが、目の前のニーナを確認して氷が溶けるように緊張を解した。
「心配いらないよ。クムエナとエイブラハムが倒してくれたからね」
ニーナの頬が土で汚れて黒くなっている。テオは手を伸ばしてそれを拭った。その手をさらにニーナの女の子とは思えない手が包む。
「テオが死んじゃうかと思った。もうあんな思いをするのは嫌だよ。私を置いて行かないで」
「俺は簡単に死なないよ。ニーナがそばにいてくれるんだろ?」
クムエナがテオとニーナの二人のやり取りのむず痒さに血管が浮き出るほど手を握りしめている。エイブラハムはそんな彼女を落ち着かせようと必死だった。
「大したこともしてねえくせによ!あんなにラブラブされていらつかない奴がいるかっての!」
「まあまあいいじゃないか。思春期の男女がお互いの愛を確かめ合うなんて、なかなかこの世界じゃ拝めないもんだよ」
次の瞬間クムエナがエイブラハムの足を思いっきり踏んだ。骨が砕けるのじゃないかと思ったが、さすがにそこまでは鬼ではないらしい。エイブラハムに構うのに飽きたのかテオとニーナの元へ近付いていった。
「あんたらの戦い見せてもらったよ。ニーナはともかくあんたの体力とスピードの無さには驚いたね」
テオの頭を上から押さえつけているように見えたがこれはクムエナなりのスキンシップだった。しばらくテオが痛いと叫ぶのを面白がっていたが満足したようだ。腕を組んでテストの結果を伝える。
「分かったよついていってやるよ。あんたらが戻ってこなかったらあたしらにつまらない仕事が入ってきちまうからな」
女を守れないような男なら死んだ方がマシだよと念押しする。
「何だか楽しそうだね」
ニーナが隣のエイブラハムに話しかけると彼も微笑んだ。
「クムエナにはたくさん兄弟がいるみたいだからね。教団に来る前のことを思い出しているんじゃないかな」
テオの必死の行動により心強い仲間を増やすことができた。今までほとんど顔すら合わせていなかったシャドウアタッカー達が力を合わせて戦うということにワクワクしているニーナがいた。




