第23章 繋いだ手と手
まだ戦闘開始から5分程度しか経っていないのにその力の差は歴然だった。テオは息を切らして動きが鈍くなっており、見るからに辛そうだ。そして全身からは魔力が漏れ出し一見すると黒い翼を羽ばたかせているように見える。
「くそっ、こんなの反則だろ」
相手はというと未だにキズ一つついていないように見える。床に染みを作りながらゆっくりこちらに向かってくる。そろそろとどめを刺すつもりか。
エイブラハムは隣のニーナの素早い動きに反応することができなかった。ニーナはひらりと観客席から飛び降りテオの元へ駆けていく。どこからともなく自分の愛刀を取り出して相手の懐へ飛び込んだ。
「もう見てられないよ!テオ、安心してね私がテオを守るから!」
「ニーナ……?」
そのまま空中で体勢を柔軟に変え、捩じ込むように剣を振り抜いた。
「仕方ねえから援護してやるよ!」
気付くとクムエナもすぐそばまで来ており、ニーナと入れ違いで鋭い蹴りを食らわせる。助走の勢いをそのまま受けた相手は後ろに仰け反るしかできなくなる。
エイブラハムはその隙をついてテオに回復魔法を施す。肩に腕を回し支えるとフィールドの端まで連れていき座らせた。
「よく頑張ったな。あとは任せておいてくれ」
テオがゆっくり深呼吸すると魔力の暴走も収まった。まるで歯が立たなかった。次はニーナが危ない。手を伸ばそうとするが綿を詰めたかのように腕が持ち上がらない。
「ちくしょう……」
赤い瞳が一瞬鈍く光りそしてまた元に戻った。目の奥が燃えるようだった。
エイブラハムがテオを避難させてくれたことを確認したニーナは剣を持ち直した。いつもはテオがはじめに魔法をかけてくれないと持ち上げることもかなわない大剣だが今は何もしなくても軽々振れるようになっている。先程ビアンカから受け取ったテオの魔力結晶が入った試験管のおかげだった。
「断ち斬る!」
息を整えてクムエナの攻撃の終わりと同時に地面を蹴った。地面すれすれを滑空するように突進し、横に薙ぎ払った。その後おまけとばかりに下から斜めに斬り上げる。
「!!」
攻撃ばかりに気を取られて右から叩かれるまで気がつかなかった。離れたところにいるテオのところまでふっ飛ばされる。
「痛たた……」
テオはあちこち傷だらけだったが命に支障はないようだ。眠っているのか気絶しているのか分からなかったが、とにかく無事でよかったとニーナは胸を撫で下ろした。それと同時にもっと早く助ければ、いやはじめから一緒に戦えば良かった。そうすればこんなに怪我をすることもなかった。
「ごめん。私達、パートナーだもんね。どんな時も一緒だよ」
握った手がほんのり光を放った。




