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第22章 圧倒的戦力差

 大歓声に気圧されたテオを遠くに見ながらニーナは不安そうにしている。

 地下に円形にくり抜かれたコロシアムは半径100メートルほどの大きさでそこに1人ぽつんと立っている。目の前とその後ろに扉が2つあるだけの簡単なつくりであった。そしてフィールドを囲むように設置されている観客席はほとんど満員になっている。参加者がどんな風に殺されるかを楽しみとし、その血が見たい狂気の人間だ。

「こんな辛気臭い世界じゃ、これが密かに流行るのも理解できるな」

 気が付けば隣に座ったエイブラハムがニーナの心の中の疑問を読み取ったかのように答えた。その隣にクムエナがドカッと座る。

「あたしにとっちゃあこれくらいのスリルがないと面白くないね。影は所詮ちょっと凶暴な人間だ。捻るなんて造作もない」

 ニーナの手に力がこもった。無言でテオを凝視する。

(どうか怪我だけはしないで……)


 テオは鉄格子の奥から圧倒的な魔力の放出を肌で感じ取っていた。今まで戦ってきた敵とはまるでレベルが違う。冷や汗が頬を伝って落ちた。

「これは人生最大の危機かな……!?」

 しかしここでもし相手を倒すことができたなら、仲間を集めることなくそのまま逃亡中のモンスターを追うことができる。ニーナを危険に晒すことなく。


 そんなことをぼんやりと考えているとついに鉄格子が開けられた。

「かかってきな!」

 テオは威勢よく声を出して自分を奮い立たせると自分の周りに6本の魔法剣を作り出す。先手必勝で姿を確認する前に叩こうという作戦だ。そのまま投げナイフの要領で敵に集中させると砂煙を立ててしばらく相手の様子を見ることができなくなった。

「やったか?」

 しかしその希望はあっさりと打ち破られる。砂煙から黒い物体が飛んできたからだ。小さく先の尖ったそれはテオに何百と突き刺さる。

「……!!」

 突然のことで身を守ることなく攻撃を食らってしまい雲行きが怪しくなる。一個一個の身体ダメージは大したことはないが、闇属性魔力により精神を蝕まれた。恐怖が増大し死のイメージが鮮明に脳裏に映る。

「こんな攻撃を見るのは初めてだ……」

 自分が殺されるビジョンを必死に振り払い相手の姿を確認する。

「しかもこいつはなんだ?」

 説明するならそれは巨大なカラスのようなもので、影と同じ闇属性魔力を放っている。そいつの周りの空気は黒く淀み空間すらねじ曲がっていそうだ。常に身体の何処かが腐り落ちつつ再生を繰り返している様はおぞましく、そしてこの世のものとは思えなかった。

 自分に突き刺さっている先程の攻撃は相手の羽が飛んできたものらしい。しばらくすると粒子となって消えていった。

「遠距離攻撃があるなら俺も遠距離で対抗だ!」

 すぐに自分の武器、腰ほどまである大きなブーメランを呼び出し、身体の全身をバネにして投げる。ブーメランはテオ唯一の物理攻撃だ。

「当たれっ!」


 その希望も打ち砕かれる。ブーメランは不自然にその軌跡を曲げ地面に突き刺さった。重力操作の魔法だ。

「嘘だろ」

 相手が動き出すのを確認しながらテオは次の魔法攻撃を用意し始めた。

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