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第21章 逆らえない脅迫

 完全に伸びてしまったテオを軽々担いだニーナが訴えるような目でクムエナを見つめると、彼女は盛大にため息をついてドアを開けた。

「なんで女に抱かれてんだお前はよ」

「二人に話とお願いがあるんだ」

 ソファに降ろされたテオをよそに、ニーナは説明を始めることにした。


 強い影がいること、仲間を集めていることをかいつまんで説明し終わるころには目の前のエイブラハムとクムエナを話に引き込むことには成功していた。二人とも驚いたようにそれぞれ反応を示していたからだ。

「それで協力してほしいと」

「うん。みんなで戦わないと駄目みたい」

 エイブラハムはニーナに向かって笑顔を作って応える。

「もちろん俺達二人も手伝うよ」

 すんなり協力を集められたことを喜んだのも束の間クムエナが威嚇するように机を叩いた。

「エイブ、勝手に決めてんじゃねえよ。あたしがいつ良いと言った?」

「クムエナ……」

 威圧的な彼女を見てエイブラハムは宥めようとする。だがどの言葉もクムエナの神経を逆撫でするだけだったらしい。どんどん空気が険悪になっていく。


「あたしは強い奴が好きだ。まだひよっこのお前達に命令される気はない」

 しかしニーナの話を聞いて気になることがあったらしい。新しく息を吸って言葉を繋げた。

「そのモンスターは見てみたい。いや、もうあたしは見たことがあるかもしれない。この予想が当たってんならかなりまずいことになっているかもしれねぇよ?」

「俺もそれは思った。クムエナはこの教団が秘密裏に管理している賭博格闘場で毎日凶悪な相手と戦うが、そいつらもお伽話に出てくるようなモンスターなんだよな」

 普段この二人を見ないと思ったらそんなところにいたんだとニーナは心の中で思った。口に出したらまたあの鋭い蹴りが繰り出されてしまう。

「いってもグロテスクで到底お伽話に出てくる気はしないが……」

「ということはそこから逃げ出したと考えてもいいのかな」

 ひとつの恐ろしい考えに足がすくむ。しかしそんな相手と毎日渡り合ってるこの二人ならきっと強力な助っ人になる。諦めることはできない。


「どうしても駄目かな。倒せないともっと被害が増えちゃうの」

 粘り強く頼みこんでもクムエナはちっとも首を縦に振ってくれない。

 その時、ようやくテオが目を覚ました。

「あれ?何がどうなって……?」

 寝ぼけ眼のテオを見てクムエナは何か思いついたようだ。意地悪な笑みを浮かべて冷たく言い放つ。

「それなら賭けをしよう。テオを賭博格闘場へ出場させる。勝ったらあたし達はあんたらについていくよ」

 目覚めの冷水のような言葉にテオの顔がまた青くなる。今日はつくづく運が悪いようだ。話が読めない上にクムエナに襟首を掴まれて宙に浮いており、更に混乱することになる。エイブラハムは小さくごめんなと謝った。

「お前が強いかどうか白黒ハッキリつけようじゃないか。やるよな?」

 これは脅迫である。テオは泡を吹いてまた気絶した。

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