第1章 ルビーの瞳
威圧するように立ちはだかる門に圧倒されながらも、男に背中をそっと押され敷地内に足を踏み入れる。
「ここがあの有名な教団……」
見上げれば首が痛くなるほど高い建物、いや城と言ったほうが正しいのかもしれないがその扉も随分と大きい。自分がまるで小さなネズミになってしまったかのような錯覚を起こしそうになりながらも少女ニーナはドアノッカーを掴んだ。
「こんにちは」
ノックの音は硬い木によく響きどこまでも伝わるような気がした。鍵はかかっていない。ドアの隙間から中を窺うと埃をたっぷりと被ったシャンデリアが照らす玄関ホールを確認することができた。
人の気配がしないので首を傾げたが、すぐに身を竦めた。奥から走ってくる小さい影を見つけたからだ。
「来た!」
明るい声で近付いてくる人物はニーナと同じくらいの歳の男の子だった。ここには大人ばかり所属しているものだと思っていた。なので緊張していたのだが、そんなことはないようですぐに警戒を解く。
男の子は黒い癖のついた髪にルビーのような赤い瞳、屈託のない笑顔を持っている。ニーナの目の前まで走ってきた。
「こんにちは。君、今日から俺達と一緒に暮らすんだよね?名前は?どんな魔法使えるの?」
ニーナは突然の質問攻めに面食らった。目の前の男の子の勢いについていくことができない。
「あの、えーっと」
まずは名前。名乗ろうと口を開く前に少年はニーナの手を掴んだ。
「よろしくね」
ドクン。
握手されていると気付いた頃にはもう遅かった。バタバタ走ってくる数人の足音とその人達の叫ぶ声、それと内側から沸き立つ持病の発作の症状と見開かれるルビーの瞳。
「うっ」
男の子が倒れた。解かれる友好の手は大理石の床に落ち、身体はぴくりとも動かない。
「だ、大丈夫!?ねえ起きてよ」
ニーナが近寄ろうとするが、多分教団の人間だろう大人達に抑えられた。彼らのはめているグローブから嫌な臭いがする。ニーナは床に押し付けられ見知らぬ薬を飲まされた。
男の子が大人達に連れられていく。友達になれそうだったのにと心の中で思いながらゆっくり目を閉じた。