第16章 魔女の研究室
「ふーん……それでー君たちはーこんなところに来ちゃったとなー」
気が進まなかったが部屋の中に招かれた二人は今までの経緯を話した。テオはかちこちに固まってしまって今にも泣き出しそうだった。それもそのはず、ドアからちらりと見えた光景よりも実際はもっと強烈な印象を残す部屋だったのだ。
さほど広くない部屋の真ん中にはテーブル、壁際には作業台のようなものが置いてある。その上には見たこともないような生き物の黒光りしている皮のようなものや巨大な爪などが散らかっている。さらにはどろりとした蛍光緑の液体の入ったビーカーにはさらに目玉のようなものも浮かんでいる。作業台の反対側にある大きな戸棚には雑然と得体の知れないものが入っているようだ。時々中から物音が聞こえてくる度にドキッとしてしまうのを堪えた。
怪しい物が溢れた部屋に似合っている目の前の少女もてんで変な趣味を持っているようだ。
先程のドクロの仮面は今は首にかかっており、その下には大きな石が数珠状に連なったネックレスが蝋燭の光を反射している。だぼっとした黒いローブのポケットには様々な色の液体を入れた試験管が入れられている。それはお伽話に出てくる魔女のようであった。
とにかく怪しい。食べられてしまうのではないかと現実味のない想像をしてしまうくらいには謎の迫力があった。
「そ、そうそう。協力者を集められたらなと思って」
口の中が乾いてうまく喋られないが手元のティーカップは縁が欠けておりくすんでいる上にその中の液体は紫色をしている。とてもじゃないが飲めそうにない。
(もう帰りたい…)
隣からテオの弱弱しい呟きが聞こえてくる。無視してニーナがビアンカにその素性を聞いた。
「ボクー?ボクは教団所属の魔法研究者だよー。特に物の持っているー潜在的な魔力を抽出する実験をしてるんだー」
教団内にいる魔法研究者はシャドウアタッカーより多く、様々な分野で活躍している。魔法は便利ではあったがその恩恵に甘えた結果がこの暗い世界であるので、それは全くの善とは言えない。
シャドウアタッカーも魔法を使うが魔法によって魔法によって動いている影を消そうとしているだけであり、その点では大きく矛盾しているとも言える。魔法が存在する限り影は絶えない。
ビアンカはニーナとテオに自分の研究内容をペラペラと喋った。本人は分かりやすく喋ったようだが二人にはちんぷんかんぷんであった。
「そこでエーテルによる不純物除去を行い純粋な魔力を抽出することによってその構成を読み取ることができるようになり」
気のせいかそれまでの間延びした喋り方ではなく、忙しなく早口になっている。ニーナも正直帰りたくなってきた。
「あ、あのう」
テオが小さく手をあげた。
「ごめん、もっと分かりやすく話して……」
ビアンカはにぃっと口角を上げるとさらに喋るスピードをあげた。全ての説明が終わる頃には二人は戦闘もしていないのにへとへとになっていた。