第9章 担当医の苦悩
「テオはいつも通り健康体!心配要らないわね」
そう言ってテオの膝を叩くのは団員でありテオとニーナの担当医のヘレナだ。ホワイトアッシュの長い髪をゆるく巻き、白衣を着ている。テオもニーナも入団当初から優しくてそれでいてお姉さんのように接してくれている。
「痛い!」
叩き方が強かったのかテオはオーバーに痛がった。
「ほんとうに馬鹿力なんだから」
ヘレナに睨まれて声が小さくなる。
「…何でもないです」
テオにしっしっと手を振り、次はニーナに向き直った。手の中のカルテを見て眉をひそめる。
「ニーナはまた身体に魔力が溜まり始めたわね。実は今も胸が痛かったりしない?」
付き合いも長いからか的確な指摘にニーナは胸を押さえて頷いた。5年経っても持病は簡単には治らず、今もときどき発作症状を起こす。教団の最先端医療とニーナ自身の魔法操作技術によりほとんど生活に支障がないほどまでには改善している。
「ええ!ごめん俺気付かなかった……!」
「あんたはもう少し彼女の体調に気を付けてあげなさいよ」
定期的に身体に溜まった魔力を除去しておかないと、手足の痺れや頭痛、それから心臓発作も起こしかねないというのがヘレナの考えだった。
「また影をたくさん倒したんでしょ?倒したあとのあの霧にニーナは特に弱いんだから、本当は前衛に出したくないって何度も上に頼んでるんだけどね」
溜め息をついて椅子から立ち上がり戸棚の方へ歩くヘレナにニーナは困ったように笑った。
「得意な戦法がこれだからなあ」
武器を消したりする簡単な基礎魔法なら問題ないのだが、テオの魔法のような属性がついた攻撃魔法となると話は別だ。人はそれぞれに水や炎などの魔法属性を持つが、ニーナの魔力は解析不能で属性が未だに分かっていない。
「でも俺のサポートのおかげでニーナは前衛でも十分戦えてるぞ!」
「それが問題だって言うんだこのバカ彼氏!あんたが前に出なさいよ!」
「あはは……」
テオとヘレナのやり取りを見ているのが楽しくなってきた。頬をつねられて涙目になっているテオにニーナは外に行っているように頼み、彼もそれを了承した。
「テオも本当は前に出たいんだよ。でもこれは私達の戦い方だからさ」
ヘレナも分かっているとばかりに困った顔をする。
「危ないと思ったらすぐに退くのよ。バックアップはちゃんとしてあげるからね」
ヘレナは専用の道具を用意し魔力除去を開始した。