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序章
「ああ、薬の時間だ」
少女は呟きポケットからピルケースを取り出す。
病的なまでに透き通った白い肌に絹のような白く長い髪、そしてその存在を主張するように鮮やかな緑の瞳を持つこの少女。雲に覆われた暗い空に対抗するかのように儚げに存在していた。
この世界は彼女とは仲良くなれそうになかった。不純物もないただの空気に息が苦しくなるのは生まれてからずっとだ。
だから一日数回この薬に頼っているのだ。辛くはないしもう慣れたのでいちいち嘆いたりはしない。
「さて着いたよ。ここが君の新しい家だ」
隣で少女と手を繋いで歩いていた男が水筒を差し出して言った。
水筒を受け取って薬を飲み込む。
「ここまで連れてきてくれてありがとう。じゃあね」
手を離す。知らない男だったが親切にしてもらったので乾いた感謝の言葉を投げる。
「……」
目の前には圧倒されるほど巨大な建物がそびえていた。