第三話
少女はきょとんとした表情でこちらを見ている。
やっぱり、変な奴だと思われたのだろうか。
「あの……そんな簡単な事でいいんですか?」
簡単な事、だと……?
こちとら生まれて17年間、友達らしい友達は誰一人としていなかった。
友達を作る事は簡単じゃない。相当な勇気と覚悟が必要で、TO内のどの難関クエストよりも難しい。と、思っていた。
「えっと、私の名前はヒリンといいます。貴方の名前は?」
「その……メグルっていいます」
「メグル……それじゃ、メグ君って呼んでもいいかな。これからよろしくね、メグ君」
何という事だ。
こんな、たやすく友達ができるなんて……しかも、あだ名までつけて頂けるなんて。
「ああ、よろしく」
やった。遂に俺はやったぞ。友達ができた。しかも女の子だ。
小躍りしたいところだが、表面上はあくまで平静に。平静にだ。
さて、友達ができたところで、次は何をすればいいのだろうか。
そうだ、フレンド登録。それから――
「ヒリン、君は初心者なんだろ? よかったら、レベル上げ手伝おうか?」
「そ、そんな。そこまでしてもらう訳にはいかないわ」
「僕はソロが多いからさ。高レベルの支援タイプの人と一緒に、一人じゃ進入不可能なダンジョンに行ってみたいんだ。レベルが充分に上がったとき、それに付き合ってもらえればいいさ」
「そう? なら少しだけ、手伝ってもらえると嬉しいわ」
鬱蒼とした森の中を、とある動物達が駆け抜けた。
狼――ウルフというそのまんまな名前のモンスターだ。
俺は槍を構える。そして、風に乗るようにして駆けた。
敵の目の前で跳躍し、空中で一回転。
狼の群れのど真ん中に飛び込み、その場で回転切り。
5、6匹ほどの狼にヒットしたが、手加減は極力してあるので敵はまだ死んでいない。
今回ばかりは、死んでもらっては困るのだ。
「よし。僕が引きつけている間に攻撃してくれ」
「あわわ……ウルフって地味な割に、かなり強いモンスターって聞いてるど……そんなに抱えて大丈夫なの?」
「全然、平気だよ」
俺はレベル99なのだから、当然である。
「そ、それじゃ……ホーリー!」
ヒリンの杖が白く煌く。
するとたちまち光の球が無数に現われ、狼達へと降り注ぐ。
……しかし、僅かにダメージを与えただけで倒せていない。
これまた当然だ。彼女のレベルはあまりにも低い。ダメージが発生しただけでも御の字だ。
「あと10発ぐらい食らわせれば、倒せるんじゃないかな。MPは足りそう?」
「10発!? それはいくらなんでも、ムリ……」
「それじゃ、倒しきれなくてもいい。MPが尽きるまでホーリーで攻撃して」
彼女は指示通りに行動する。ウルフ達のHPが5割を切ったところで、ヒリンのMPは尽きた。
「とどめは僕がやるよ。……十字切り!」
深々と傷を負ったウルフ達は遠くへと吹き飛んだ後、呆気なく散った。
通常攻撃でも問題なく倒せるのだが……特に意味もなくMPを消費した俺はその場に座り込む。
こうしていれば、HPとMPを徐々に回復させることができるのだ。
「君も座るといい」
彼女はその言葉に従い、俺の隣にちょこんと座った。
「今のでどれくらいレベル上がった?」
「凄かったわ。今までレベル28だったんだけど、44まで跳ね上がったもの」
よし、上々だ。
「このゲーム、レベル70あたりまでは簡単に上がるんだ。大変なのはそこからだよ。公平パーティを組むためにはメンバーのレベル差が10以内じゃないといけないから、89までがんば……?」
「め、メグ君。後ろ……!」
彼女の様子が変だ。がたがたと震えながら後ずさっている。
俺は座ったまま後ろを振り返った。
――ボスだ。名前は確か、フェンリル。
そうだ、稀にこいつが出現するのを忘れてた。
俺はゆっくりと立ち上がる。
するとフェンリルがものすごい勢いで突進してきた。
俺は回避行動をとる訳でもなく、ただ呆然と立っていた。
「メグ君、危ない!こっちへ逃げないと!」
「平気だよ、僕はね」
フェンリルはこのまま突っ込む気だ。
予想通り、フェンリルは俺にタックルをかましてきた。
びりびりと振動がはしる。だが、痛みはない。
フェンリルは幾度もタックルしてきた。しかし体の表面に結界が張られているが如く、俺への侵攻は許されなかった。
攻撃されるたびに、フェンリルと俺の体が白く発光する。
LUC避けだ。
フェンリルは必中攻撃を持ってないから、わざわざ避ける必要はない。
俺は天文学的な確率の幸運を確実に掴みとり、なおも生き永らえている。
「さっさと終わりにしようか」
狙うはフェンリルの胸部。一撃で終わらせてやる。
「雷光一閃!!」
雷の槍で貫かれた敵は、グアアアと雄叫びを上げながら散った。




