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真・仙極無双 戦国破壊伝  作者: 悠樹 久遠
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一の段其の四幕 戦国に立つ







「主様。久遠が立ちましたよ」

 部屋に入ってくるなりそう言った妻さよの言葉に、江田郷(えだごう)の長である森国光はほほを綻ばした。

「まことか。仙人さまのおっさったとおりじゃな。この前這い出したと思うたらもうか」

「はい、りつ様のお乳を貰ったあと、お座りのりつ様の肩につかまって立ったんです」


「そうか。んであれか。りつとはうまくやっとるか」

 にこにこと笑う若妻の顔を見て何か思うところがあったのか国光は笑顔をひっこめてぽつりともらすように問う。


「はい。乳の出が悪いわたしに代わって久遠に乳をあげてもらってますし、今日も久遠が立ったとき一緒になって喜んでくれて」

 さよは邪気のない心底の笑顔で楽しそうにそのときのことを国光に語って聞かせた。


「そうか。そうか」

 国光もその妻の様子に再び笑顔となってそんな妻の話にうなづきながら聞き入った。

 

 いつの間にかひぐらしが鳴きはじめ、(くりや)から夕餉の干魚を焼く匂いが漂ってきている。



 久遠はそんな二人の様子を庭に放った猫の目を通じて見終えると、次に郷中(さとぢゅう)に放った猫達と近隣の山に住まう狼達、そして最も近い城である日出城の上空を舞う大鷲へと次々と視界を移し変える。

 

 ‘使鬼術’で改造したすべての動物達との視覚、聴覚、嗅覚のリンクは正常に働いているようだった。

 護衛を一から創るのは手間がかかるので使い魔を造る技術を応用できないかと考えて造ったが、予想以上の出来だ。


 本来、術者と感覚共有を行えるような自律型の護衛用使鬼を創るには、1日1体創るのに数千ユニット程度のナノマシンが必要だ。


 だが、使い魔を‘使鬼術’で改造するだけなら、固体のサイズにもよるが十分の一程度で可能だった。


 何故かといえば、自律型の護衛用使鬼を動かすには、人間の脳と同等以上の判断力を持つ人口頭脳を作らなければいけないが、自前の脳を持つ使い魔にはその必要がないからだ。


 そのぶん高度な知能は持たず、指示には従うが基本的には賢い動物でしかない。

 それでも緊急の保安対策として、大鷲と猫と狼そして新たに造った猿の使い魔を、強化することにしたのだ。


 久遠は、これらのハイブリッドな使い魔を、従来の使い魔と区別して、‘式揮’と名付けることにした。


 毛や羽毛と武器となる骨格や角質部分に鋼並の強度を持たせ、本来の十数倍の力を出せる筋肉でそれを振るう今の‘式揮’なら妖怪にもひけをとらないはずだ。


 特に狼は、この辺り一帯をなわばりにする群れのリーダーを使い魔化してあるので、戦力としては数十人規模の武装兵に匹敵するだろう。

 

 ‘式揮’の性能を確認し終えた後も、久遠は、猫の‘式揮’達に、(さと)の周囲を引き続き監視するように命じ、目を閉じたまま思案を始める。

 その隣では、もう一人の母、りつに見守られ、姉、かえでが、ぐっすりと眠っていた。


 並んでいても、既に久遠のほうが大きくなっているので、妹に見えるのだが。

 精神年齢で言うなら、それどころではない。


 この子のためにもこの(さと)は守らねばと、まるで祖父のような感慨を抱きながら、久遠は(さと)の土壌改良を終えて使えるようになったナノマシンを、(さと)から離れた洞に作った作業部屋へと移動させる。


 近代のテクノロジーと魔術と仙術をもとに、改良に改良を重ねた本来の護衛を創る作業を始めるためだ。


 それは、生まれ変わる前の久遠が護衛兼秘書として使っていた自律型生体アンドロイドで、その記憶データも、久遠は転生時に自らの魄の一部に保管していた。


 感応魔術を使ってそれを再現すれば、理論上は完全に転生前の世界に残してきたものと同一の固体ができる。


 この美亜と名付けられていたアンドロイドは、対外的には久遠の妻ということになっていて、戸籍も取得した名実ともにパートナーと呼べる存在だった。


 だから本当なら一番先に創りたいところだったが、最近の情勢を考えればそうもいかなかったのだ。


 それというのも少し前から日出城辺りで夜盗の噂があったからだ。

 守護の軍に追われて府内から逃げ出した連中が、この付近に逃れているのではという話だ。


 万全の久遠なら、近代兵器で武装した軍隊でも、自分も相手も無傷で捕縛できただろう。


 だが、今の状況では収容施設もなく、相手を無力化するのさえ難しい。

 圧倒的にナノマシンの生産量が足りないのだ。


 巨大な機械と違い稼動中のナノマシンは細菌やウィルスなどのせいで常に多くが破壊されていく。

 自己複製能力にも限りがあるので常に生産しなければならない。

 前世でそれを克服した装置を造るには色々と足らないものが多い。

 

 できれば何事もなく過ごせればいいのだが。

 そう考えながら久遠は、新たなパートナーの身体を創り始めた。



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