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真・仙極無双 戦国破壊伝  作者: 悠樹 久遠
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一の段其の弐幕 戦国に生まれて






神子(みこ)様が、もう喋んなさったようじゃ」

「ほんにかい。やはり神子(みこ)様じゃったか」

「神仏の告げは確かじゃったな」

「それだけじゃのうて大鷲が山神様より神子(みこ)様に使わされたとか」

「それで、長の家ん屋根に大鷲がとまっとるのか」



 久遠、誕生より三月。

 江田郷(えだごう)の住人は、常ではあり得ぬ兆しを見せる神子(みこ)の話に賑わっていた。


 山の主の大猪や狼、大鷲が神子(みこ)に従うように現れた。

 乳飲み子でありながら言葉を発し母に望みを告げた。

 自ら守役を選んだ等どれも御伽噺のような出来事だった。


 それを演出するのに久遠が行ったのは精神感応による野生動物の使い魔化。

 西洋魔術の秘儀の一つであり、ナチスから救った魔女に教えられた術だ。

 

 かの魔女は数十匹の狼と鴉を自在に操っていたが、久遠が操れるのはせいぜい数匹。

 それは技術というより体質の差だ。

 特異な遺伝子構造を持つ天性の者と仙術で自己改造をした者の違いというべきだろうか。


 しかし、それだけで久遠にとっては充分すぎる成果だった。

 なぜなら久遠が求めたのは知識であって力ではなかったからだ。

 だからその代価として久遠は魔女に道士としての力を与えそれに報いた。


 道士の力は、仙人が音声入力起動のナノマシンとその命令権を与えることによって仙人の持つ技能を擬似的に一般の人間にも使えるようにしたものだ。


 仙人と違いナノマシン自体の増産やプログラムができないために、その能力を他者に与えることも新たな力を開発することもできないが、与えられた力は仙人同様に使える。


 ナノマシンによる肉体改造で道術士としたわけではなく、あくまで力を与えただけの道士だが、ナチスから身を守るのにはそれで充分だったので、二人の出会いはお互いにとって有益なものとなった。


 普通は弟子にしか与えない力だが、アストラル界と呼ばれる精神領域を一種のプログラムとして使うという新たな技術を得た代償としては、小さなものだったかもしれない。

 そう、そのおかげでナノマシンを得ることができるかもしれないのだから。


 久遠は、かつて悠姫から聞いたナノマシンの生産施設。

 仙化の秘跡がある山へ使い魔とした大鷲を制御して飛ばせながら、これからの事を考えていた。


 今は天文四年。西暦でいえば1535年だ。

 この世界が前世と同じ歴史をたどっているならば豊後国は大友氏がその本拠として征服統治しているはずだ。


 大友氏は1550年に大友宗麟による簒奪に近い代替わりが発生するまでは比較的に安定した状態を保っているはずだが、それは大きな歴史の流れでしかなく、この先、久遠の行いにより大きく変わっていくことになるだろう。


 まずは仙人となり、この(さと)を治め、人材を育成しなければならない。

 現在の日本の多くの(さと)は多夫多妻制に近い乱婚を行っているが、この(さと)は平氏の落ち武者を祖とするせいか、武家と同じ基本は一夫一妻で財あるものは多くの女を持つ一夫多妻制だ。

 

 その割りに女衆などの女性だけによる議会組織もあるために、女の発言力は武家ほど低くはない。

 これは殺し合いを生業(なりわい)にする武家と、生産を生業(なりわい)とする農家の違いだろう。


 人材を男性に限る必要は無いのは利点であるため、久遠は男女同権と文民統制を基本とした社会を建築することを基本方針に決める。

 この(さと)は隠れ里という性質のせいで原始共産制に近い状態なので、社会制度の構築は比較的容易だ。


 この(さと)を中心に勢力を広げていかなければならないのだが、そのために久遠が目をつけた組織モデルは農協だった。

 現代知識で運営される農協組織は、百姓達がほとんどを占めるこの国においては魅力的なものだろう。

 様々な知識を独自の感応魔術で魂に刻み込みナノマシンを操れる久遠には、それができる。


 武家勢力がいる以上は対立は必至だが、武家の人間を使って近代組織を運営できるようにするにしても、その精神性を考えれば反乱や内部分裂は必ず起こるだろうからリスクは同じだ。


 いや、どちらかといえば内部を気にしながら勢力を伸ばすよりは、そのリスクは小さいものになるだろうと久遠は考えた。

 武家にとっては久遠のつくる社会は一向宗などと同じ扱いになるだろうが、その内実が違うことに気づく武将はそう多くはないだろう。


 武家勢力が分裂している今ならば近代技術を仙人の力で再現することで日本を統一することができるはずだ。


 それには仙化の秘跡を見つけることだ。

 ここで使い魔の制御を手放せばそれが遅れることになる。

 それはできれば避けたい。 


 久遠は大鷲の使い魔の目を通じ、まだ自然に埋もれた日本の大地を見ながら、そう考えて必至に眠気と戦っていた。







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用語解説 権威無き民俗学者の覚書(民明書房刊)より一部抜粋




神子(みこ)

 神の意思を体現する為に誕生した子供。権威に組み込まれた存在を言う場合が多く、救世主などと呼ばれるのは在野であった場合が多い。当然二つは同一視されることもある。


乱婚:

 フリーセックスなどといえば新しいように聞こえるが、聖書宗教の意図により性行為が他の欲望と区別され管理される以前の古代欧州や昭和の初期の農村では極普通の行為。


聖書宗教の意図:

 古代イスラエルの崩壊後もユダヤ民族を一つの勢力として残そうとした組織が結婚を管理して民族的な繋がりを残そうとして行った妄執的な行い


妄執的な行い:

 そのカルト的性質は軍国主義と結びつき、呪いのように様々な思想の根幹に潜み、21世紀に至る現在まで人類を蝕んでいる。


女衆:

 武家のように男尊女卑の考えがなかった農村では、子供が大人と認められるときに、男女を問わず性行為の仕方を教える風習などがあり、ほとんどの村では女が主導でその儀式を行っていた。






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