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真・仙極無双 戦国破壊伝  作者: 悠樹 久遠
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二の段其の伍幕 貿易と資源集積





 博多。現在の福岡県福岡市にあるこの地は古来から日本の表玄関としての役割を果たす京都以上に古い歴史を持つ地だ。


 その起源は大陸から弥生文化を伝えた渡来民族の拠点である。

 当時の日本は多民族による移民和合共同体であり、国家が成立する以前のアメリカのような状況にあった。


 ただ違ったのは、彼らが強者の略奪や征服統治から逃れてきた人々の集まりであり、暴力による征服統治より協調による和合をもって社会を運営しようという人々であったことだろう。


 イスラエルという国家の消失により流浪を重ね東へと旅を続けてきたユダヤの失われた氏族や中東や中央アジアの少数民族国家の難民達によって形作られた主に陸路で日本まで辿りついた山の民。

 オセアニアに広がった大海洋文明末期に小氷河期の終わりによる海面上昇で沈む故郷を離れ黒潮に乗って渡来した海の民。


 様々な文化を持つ弱者達が協調して生きる和合共同体こそが、九州にあった邪馬台国といわれるものの本質であった。


 多くの民族を和合で持って受け入れて来た国家を、後に乗っ取る事となった武力を中心とした国家という概念を文化の根本に持つ中国朝鮮系の移民達が拠点とした地。

 それが博多を中心とした北九州の地であった。

 

「銭ではなく金での払いとなると少々時がかかりますが」

 そう探るように切り出したのは、その博多で海外貿易を扱う商家の中でも有数の大店を仕切る男だ。


「それで構いませんが相場は今この時のもので御願いしますよ」

 にこにことそれに応えるのは現代風のスーツに身を包んだ一人の‘式貴’だ。

 普段は‘式樹’によってコントロールされているが今は久遠に直接操作されていた。


「それはもとよりですが、よければ金が御所望の訳を御聞かせ願えますか?」

 

 特に戦国の世では顕著だが、商家とはもともと武家の文化圏で雑役を行っていた人々なので、彼らの商売の本質は、和合ではなく略奪の論理に基づくものだ。


 暴力を使わない富の奪い合いを常とする男だけあって、既に契約は済んでいるというのに情報の収集を怠ったりはしないようだった。


「大した理由ではありません。私達、農協ではこの国の銭が通じない地でも多くの取引を行っていますので金のほうが都合がよいのです」


「さようですか。そちら様の陶銭であれば大概の土地で通用しそうですが」


「そういう地もあればそうでない地もありますね。この国のように美や雅とは縁の無い地もありますからね」


 さり気なく尋ねる男に男の意図などまるで解っていないように無防備に答えているように見える‘式貴’。


感情を決して悟られぬ‘式貴’と海千山千の商人の遣り取りは、狐と狸の化かしあいというよりは、狐狸(こり)地蔵(じぞう)の問答のようであった。






「この物資を基に新規の製造計画を建ててくれ」

 感情を完全に制御して商談の後の雑談と言う情報戦を続けながら、久遠は今回の商取引で得た金で作る電子装置の製造計画を‘式樹’に指示する。


 仙術科学とナノマシンによる創造物は、表に出すするつもりがない為、久遠は科学のみで造りだせる文明を発展させる計画を美亜に建てさせていたが、その科学技術の供与自体も段階を置かなければならないということもまた心得ていた。


 だから、これらの電子装置も当分の間、表に出る事は無いものだ。

 如何に手練の商人であっても、金をそのように使うとは想像もつかない。

 まさしく、久遠と商人の間にあるのは、菩薩(じぞう)(こり)の如き、悟性の差であった。


 知識のみではなく、銭を富としか考えない商人と物資を交換する為のシステムとして捉えている久遠では、商売に関する在り方が違うのだ。


 久遠がこの男を取引相手に選んだのは金の調達相手として、この男が最適であると知っていたからにすぎない。


 だから、男がこの取引で相場より安い額で久遠が持ってきた塩や作物を買ったことも、久遠が広めようとした陶銭を買い叩いた事も気にしてはいない。


 商人にとって久遠が操る‘式貴’はカモにみえたことだろう。

 だが、商人は知らない。

 陶銭の相場が農協内部では男の換算の数千分の一の価値しかないことを。

 高値で売れるだろうと踏んだ珍しい作物が、見知らぬ異郷ではなく、豊後の地で取れた産物であることも。


  原則としてお互いに損がない取引を心がける気がないこの男は、農協に誘われることはなかったが、久遠は良心的な商人には農協で働くように働きかけていた。


 自らの儲けのみにこだわらず、商売が世の為にあるという倫理を胸に刻んだ人間を、その想いを広げる為に、雇う。

 それが久遠がこの貿易を行う事にした第一の理由だった。


 それは細心の注意と‘先視’などによる監視システムのもとで人知れず行われ、彼らは表向きは店を畳んだり別の地へと移るということで農協に合流する。

 こうして久遠の‘人材’という最高の資源集積は物資の集積とともに秘密裏に進んでいった。










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