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真・仙極無双 戦国破壊伝  作者: 悠樹 久遠
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二の段其の四幕 孤児救済と苗穂集め





 

「お父、人買いにうめを売るってホントか」

 十を過ぎたばかりの娘がそう言って自分を睨むのを見て一つ溜息をつき男はぶっきらぼうに告げる。

「間違いだ。うめは奉公に出す」


「奉公って生まれたばかりの赤子をか!?」

 そんな言い逃れは聞かないと言わんばかりの娘に、今度は母親が割って入った。

「心配せんでもうめは大丈夫。うめを引き取ってくれるんは立派なかたじゃ。親のない子や食えなくなった家の子を引き取って育ててくれるんよ」


「お前も農協のことは聞いとるじゃろ」

 父に言われて娘は、この頃、この奥州の地に訪れた不思議な一団の事を思い出した。


 見た事もない不思議な道具や乗り物を操るその集団は、もとは仙人に導かれた九州の百姓で武家の征服統治の届かぬ地で百姓の治める農協という組合を建てたという。

 その仙人は乱れた今の世を糾すために戦国の世で生まれた不幸を減らそうと彼らを遣わしたのだそうだ。


「そんなの何かの企みかもしれん。ほんとに仙人などおるんか怪しいものじゃ」

 尚も言い募る娘に父は首を横にふる。

「お前は見ておらんからそう言うが、あれは人の業で作れるもんじゃない」


 驚くほどの早さで走る見た事もない車や空を飛ぶ船。

 久遠の仙術科学の結晶はこの時代の人間には神仏の起こす奇跡としか思えない。


「それでも──」

「わたしらも九郎を手放したくててばなすんじゃないよ」

「わしらの商いがうまくいっとらんのはお前も知っとるだろう」


 親娘のそんなやりとりを部屋の隅に止まった小さな虫はただ見ているだけだった。






 だが、その虫、‘先視’を通じてその様子を見ていた久遠は、ただ見るだけで終わらせる気はなかったようだ。


「美亜。あの娘をどう思う?」

 久遠の簡略化された問いに美亜は普通の人間なら反射的に応えたのではないかと思う早さで返した。

「‘道士’としての適正値は87%程度ですが‘学士’と‘工士’の適正値は90%を超えています」


「そうか、では──」

「子供の引き取り時に勧誘致します」

 最後まで聞かずに言った美亜の返答に(うなず)くと久遠は早速、‘式樹’に次の‘先視’からの情報を受け取った。


 日本全国で始めた孤児救済兼人材収集に於ける問題点などがあれば報告するように言われた‘式樹’からの情報に久遠は追われていた。


 口減らしで殺されそうな子供などの救済といった生命の救済活動。

 そういった明白な案件は、久遠に判断を仰がず‘式樹’が自動的に救済を行ったが、その後の精神的ケアや情愛に関する案件は久遠が判断していた。


 物理的な問題には完全な対処を行える‘式樹’だが情緒面では美亜にとうてい及ばない。

 情報は美亜が一度(ふる)いをかけていたが、それでも最終的な判断を久遠が行う報告は大量にあった。


 脳の機能を数十倍に引き上げる仙術による肉体強化でコンピューターのクロックアップのように情報処理速度をあげることで対応はしているが、美亜に一部の最終判断をまかせるまでに久遠は仕事に忙殺されていた。


 秘書としての美亜はそれが自分本来の役割であると考えているせいか、その卓越した能力を惜しむことなく発揮している。

 久遠が今現在やっていることを完全に把握しているだけでなく、その意図を正確に理解しサポートする少々怖くなるほどの完璧ぶりだ。


 それは、美亜を創ったのが久遠で無ければ確実にフランケンシュタインコンプレックスに陥っていただろう優秀さだった。

 

 美亜を使うのが普通の人間ならば自分を超える能力と知性を持つ相手に嫉妬や恐怖を覚えたことだろう。

 その感情の源は、群れの中で生きる獣としての人間の本能でしかないと知っている久遠は仙人としての能力で完全にそういった負の感情を消し去っている。


 これが、その感情の本質を理解せずにただ否定するだけの人間ではこうはいかない。

 己の器量の無さを嘆くか逃げ出す為に美亜を遠ざけようとしたか、あるいは美亜を傷つけようとしただろう。


 だが、久遠と美亜そして‘式樹’の組み合わせは、多くの国々を滅ぼしたそんな負の感情に惑わされることなく、‘式貴’を使い無数の命を救い続けていた。


 久遠と美亜に‘式樹’といったこの時代に在り得ない存在がいなければ、失われていただろう多くの命は未来を変える人材となるだろう。

 久遠が望んだのは強者を束ねて未来を創るのではなく、弱者を救って未来を繋ぐ道であった。


 戦国時代と呼ばれる時代、人々を不幸にする最大の最大の問題点。

 それは、近代で言えばアフリカの多部族国家やアフガンなどのような治安維持の為の組織の欠如だ。


 ならばと、短絡的に強者である武家達が自らが秩序たらんと相争う世界。

 それが、戦国の世の本質だと久遠は洞察していた。


 それは前世界を地球規模で見た場合も同じである。

 様々な国家が自らの利益の為に争うことで興亡を繰り返していく世界だ。


 戦国の世の本質によって起こった様々な問題の対処を忘れて、対立原因のみを潰そうとすることでその方法論は現在でも、更なる不幸を生み出している。


 それが武家の歴史の罪であり武家の征服統治とその後継たる商人の征服統治世界の原罪ならば、それを糾す事が新たな歴史を綴る事だと考えた久遠による‘青田刈り’ならぬ‘苗穂集め’は、こうして日々続いていた。

 








 





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用語解説 名も無いゴーストライターのSF論(民明書房)より抜粋



フランケンシュタインコンプレックス:

 小説フランケンシュタインに描かれた人間の被造物である知性が反逆するという主題を基にした恐怖感。

 近年のラノベでは、でたまかシリーズの電子人格に対するものがそれにあたる。

 SF映画などでもよく取り扱われ、古くはハルからエイリアンのアンドロイドやあるいはスカイネットといったSF全盛期における長い期間に関連した様々な作品が作られた。


被造物である知性が反逆するという主題を基にした恐怖感:

 その根源には神への畏怖があり、人間の不完全さへの警告がある。


人間の不完全さへの警告:

 アメリカ国内で原発廃止を促進した時代背景もあって作られた核戦争やバイオハザードによる人類の滅亡を描いたSF作品群も根本にはそれらのテーマがある。

 だがそれらのヒットを受けて作られた模倣作には単にシチュエーションを借りただけのものも多い。


模倣作:

 オリジナリティとテーマ性と一般受けのバランスは作家にとって永遠の課題。

 なろうにも多くのそういった作品があるが、スチームパンクなSFや高畑京一郎氏の短編にMMOという要素を入れて発展したソードアートオンラインのように模倣のみに終わらないものもある。







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