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真・仙極無双 戦国破壊伝  作者: 悠樹 久遠
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二の段其の弐幕 ベビーラッシュと運命回帰








 天道歴0003。江田郷(えだごう)は空前のベビーラッシュを迎えていた。


 久遠の創りだした排卵誘発効果のある実をつける植物の影響だ。


 不妊症の治療に使われる薬物に五つ子や六つ子を誕生させるものがあるが、それと同種の効果がこの‘子宝の実’にはあった。


 稲や麦などの穀物を中心とした遺伝子改良で食料生産量が数十倍に跳ね上がった為、計画的な(さと)の人口増加を狙ったものだが、その為に必要な作業は多かった。


 獣腹という言葉にあるように双子以上の子供を嫌う風潮が中世以前には一般的だった。


 これは、食糧事情に直結したものだったが、貧しい村などではそれが口減らしと呼ばれる行為に発展しやすい。


 食料の有り余った二十一世紀の日本では非道とされる行為だが、生きるか死ぬかの極限状況に近い場所では、現代でも行われていることだった。


 その為に、先ず食料の確保が行われたのだが、その手段として、久遠は農業の機械化と仙術を使った遺伝子操作による品種改良を推進したのだ。


 そして食の問題と併行して、衣服や住居の確保の為に、土木工事で村の拡張を行い、綿花を基に創りだした新植物の栽培や新たな繊維加工技術の導入を行い、建築技術の職工を育成しと、わずかな期間で久遠は次々と(さと)に革新をもたらす。


 それは、急激な変革によって起きる可能性のあった摩擦や不平等をあらかじめ検討して潰していくというこの時代では画期的な手法で行われた為に不満はどこからも起こらなかった。


 欲望の肥大した現代でなら、こんな急激な技術革新は多くの不平等や犯罪の誘発に繋がっただろうが、隠里という閉鎖環境と元来の生活環境の素朴さもあり、計画は順調に進んだ。


 もっとも、これは美亜という優秀な官僚が存在していたからで、久遠一人ならとうていこんな急ピッチでの作業は行えなかっただろう。


 24時間不眠不休でも作業効率の落ちない数百人分に相当する有能な労力。


 久遠もそれに近い能力はあったが、あくまで人間の精神を持つ久遠には限界もある。

 この革新は美亜なしではとうてい成しえない事だった。


「おめでとう。無事産まれましたよ」


 その美亜はと言えば、今日も世界初となるだろう産婦人科医院の女医として活躍していた。


「美亜さま!」


 その言葉に子供の泣き声が聞こえなかったことで心配していた男は、分娩室前のソファーから立ち上がり感謝の声をあげる。


「ありがとうございます」


 ナノマシンによる保護を受けて産まれる子供の乳児死亡率は0%だ。


 先天性異常の事前排除すら行うこの医院は、まさに奇跡ではあったが、それが知れ渡ることは決してない。


 そのことも完全防音の部屋の存在も知らないで心配していた男は、生まれてきた赤ん坊たちの父親。

 郷長(さとおさ)のもとで働く男で、家電の御披露目の日に結ばれた夫婦の一人だ。


「男の子と女の子の双子ですよ」


 そう言って美亜は男に笑いかける。


「説明したとおり赤子が健やかに育つように保育器で数日間、過ごす事になりますから、その前に顔を見てあげてください」


 男にこの場で待つよう言にって、分娩室に戻りながらも美亜はいくつもの‘式貴’や‘先視’を使って同時並列作業をこなしていた。


 そしてその中で美亜は全てに優先すべき重大な報告を久遠へと行う。

 それは、この双子の一人の女の子の誕生についてであった。







「久遠様。御報告があります」


 (さと)の外れに作られた久遠の研究室のスピーカーから美亜の声が流れてくるのを聞いて、久遠は‘武士’達の装備を作る手を止めて応える。


「判っている。私も感知していた」


 そういう久遠の顔も声も、珍しく何かを懐かしむような趣を見せている。


「よく知った気配だ。間違えることなどないよ」


 それは十を少し過ぎたばかりの外見とはうらはらの深い年輪を思わせる気配だった。

 

「……そうですか。こういう時に正しいのか判りませんが、おめでとうございます」


 久遠のいつにない様子に、どこか嬉しげな響きの声がそう告げた。


 美亜は、こういう時の久遠がとても眩しいものに感じられるのだ。

 それは、人らしくありながらも人間離れした久遠の仙人の(かお)だ。


「未だ誰も遭遇しなかっただろう事態だ。定型の言葉など存在しないだろう。だが、確かに誕生を祝うには相応しい言葉だな」


 照れているのか、どこか迂遠な表現で美亜の祝福を受けた久遠は微かに頬をゆるめて続けた。


「言祝ごう。古にして未来の大魔女メイアの再誕を」


 








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