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真・仙極無双 戦国破壊伝  作者: 悠樹 久遠
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一の段其の終幕 貨幣経済と情報戦略








 天文六年改め天道暦2年。

 江田郷(えだごう)では、久遠が転生した年を基準にした暦が、使われ始めていた。


 これは、西暦のようにキリスト教勢力が国王の上にあると示す為に作った暦ではない。

 西暦のように国王の死により変わることのない太陽暦は農業技術の発展には意味のある行為だということで始められたのだ。


 久遠の誕生を基準にしたのは単に美亜の提案をさして興味のなかった久遠が無条件に承認したせいで、そこに権力誇示の意味合いはない。


 美亜の提案も久遠への想いから生まれたもので他意はなかったのだが、江田郷(えだごう)の住人がそれをどう受け止めたのかは別の話だ。


 久遠によってもたらされた奇跡のような技術の数々は、郷人(さとびと)に新しい時代の到来を感じさせ、暦の制定はその象徴であった。

 

 年賀の挨拶に郷長(さとおさ)の屋敷に集まった人々からその空気を感じ取った久遠は、|改めて様々な抱負に思いを馳せる。


 今年は木下藤吉郎が生まれたとされる年だ。

 太陽暦に変わり正月がずれても、それで歴史に影響があるわけはなく、もう直ぐ生まれてくるだろう。


 50年後の天正十五年に豊臣秀吉と名を変え大和朝廷の実質的征服統治者となった彼の命により江田郷(えだごう)のある九州は征服され戦国時代は一旦終焉を迎える。


 久遠が転生する前の年に生まれている織田信長と違い、彼と秀吉の誕生時の地位はさして変わらない。

 大和朝廷によって作られた枠組みの中で、彼が戦国の世を治めるまでに50年。

 

 果して、自分はその50年を縮める事ができるだろうか?

 計画では、彼の所属する織田の勢力が力を持つ前に、九州と中国四国までの西日本の大半を押さえる予定だ。


 それが、できなければ久遠の前には国主としてではなく、国の中央を抑え大和朝廷の大儀で東日本全土を動かす織田信長が立つ事になるというのは美亜の予想だ。


 そうなれば、簡単に事は進まないだろう。

 大量の血が流れる怖れがある。

 織田勢力とは武家勢力を動かす理念とは別の近代の軍のような合理的非人道性で動く集団だからだ。


 だから、これは時間との戦いである。

 そうなっても久遠は引かない決断を下していたが犠牲を容認してはいない。

 犠牲は出てしまうものではあっても容認していいものではないからだ。


 そうでなければ、目的を優先することで、ある程度(・ ・ ・ ・)の犠牲がでてしまい、決して最小限の犠牲で済ますことなどできなくなるからだ。


 近世の戦争は犠牲を容認し人間の命を駒に行われる経済ゲームに堕してしまった。

 軍事理論の進化だと当事者達は嘯くだろうが、それは生命の尊厳を踏みにじり人類全体の利益と反した行為でしかない。


 だから久遠は犠牲を容認はしないと決定していた。


 混乱を助長する暗殺や道義に反する大量虐殺を行えば、もっと簡単に早く事は済む。

 細菌学など存在しない現在、ナノマシンを使えば特定の人間であろうと人類の大半であろうと滅ぼせる技術を久遠は持ってしまった。


 また人類を滅ぼすに足る多種のウイルスや細菌を創り出すこともできた。

 転生前であっても、ただ人類を滅ぼすだけなら簡単にできたのだ。

 だから、それらの使用は決して行われる事はない。

 久遠は既にそう決定していた。


 人ならば感情に溺れ狂う事で万が一がある。

 だが、久遠は仙人だ。

 彼が決定した事は決して変わらない。


 仙人は仙道の道義に基づき、禁忌と決定したことは覆さない。

 それは、都合が悪いから、事態が変わったから、そういった尺度で変えられる決断とは別の次元での決定だ。


 判断は(あらかじ)め変更の可能性を見越して行われるもので変更は前提として行われる。

 決断は、目的を達成できない事態になれば変えられる可能性は残る。

 決定は、決して変わらない。


 人間が、区別せず、混同し、あるいは本末転倒して見失いがちなそれらの行為を、仙人は常に区別して使い分ける。


 そして、道士として育てる人間にもその事を物心がつく前から教え込む。

 そうでなければ、人間は感情に溺れ、容易に道を誤るからだ。


 その為の人材育成には十五年を予定していた。

 長いようだが、道士の育成としては短すぎる期間だ。

 その成否が今後の計画の成否を分ける事になると久遠は考えている。


 (かね)てからの計画に従い貨幣の製作も始められていた。

 (さと)では物々交換が主で、金銭など下の村を通じての外との取引でしか使われてはいない。


 それも年に一度か二度のことだ。

 それを考えてのことではなく、この(さと)を将来の日本の社会モデルとしていく為の経済活動の推進だ。


 土地を含めた(さと)と村の総資産を農協が接収し、それを貨幣として換算したものを平等に分配させる予定だが、それだけでは流通が起こり難いので、食品や家電などを農協で販売することで経済活動を学ばせる予定だ。


 貨幣は現状では金属元素の収集より珪素などの収集が容易である為、晶貨や陶貨を生産することにしている。

 晶貨は宝石であり陶貨は精密な彩色技術で作られたものなので、(さと)の外では、設定された価値を遥かに超える価値がでるだろうから、対外経済では有利になると見越してのことでもある。


 来月からは情報収集を兼ね、外部の物資を収集させる為に、農協の‘商士’として‘式貴’を数体、九州から奥州まで派遣する予定だ。

 教官として‘武士’教育をしている‘式貴’の性能を考えれば、単独での派遣も充分可能なので手分けして行わせるつもりだった。


 ‘式貴’を乗せる為、飛行と潜水も可能な生体船(バイオシップ)の建造も行われている。

 この船は、一見、和船に見えるが、‘霊波術’で改造された樹で強度は高強度合金とセラミックで作られた現代の船に勝る代物だ。


 不老不死研究の一環として植物の変異体を創る研究の初期で創られたもので、その研究自体は、美亜や自分のコピーの誕生によって完成しているが、まさか今になって使うことになるとは思っていなかった。


 現在は、山中の広場で全長数十センチの大きさにまで成長している。

 最終的には全長二十メートルを超えるサイズになる予定だった。


「久遠さまはお疲れですか~?」

 年賀の挨拶に訪れる客の波も収まり、考え事を続ける久遠に、母さよの声がかけられる。


「いえ、大丈夫です。少しお腹は空きましたけど」

 まるで食べ物の事を考えていたかのように久遠はさよに微笑って答える。


 もちろん、そんなわけはないのだが、十歳ほどの子供の姿で言うと実にそれらしく聞こえる。


「そういえば、もうこんな時間。客の御相手は主様に御任せして御膳をいただきましょうか」

 もう一人の母りつがそう応え、すでに夕餉(ゆうげ)を終えていた国光もにこにことそうしなさいとうなづく。


 戦国の世の終わりはこうして始まろうとしていた。

 それが武士や朝廷の終わりになるのかどうか、それはまだこれからの事である。









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用語解説 これで君もSF通、ハードSFを柔らかくする100の方法(民明書房)より抜粋



収集が容易:

 ナノマシンでの物質変換は元素変換ではない為に、収集、加工、形成という過程が必要となる。宝石や陶器は金属元素を収集する手間を省ける為、貨幣の原料として選ばれた


金属元素を収集:

 海水や地中の微量元素を収集することは可能。

 


陶器:

 だから久遠の作った家電や機械はプラスティックとセラミック製。



生体船:

擬似的な無重力下である水中で生物の巨大化が見られることから、バイオテクノロジーで宇宙船を創るという発想で生まれたSF的装置。本作では不老不死の肉体を作って自分の精神をコピーするという研究の基礎づくりの為に行われた様々な創作物の一つ。











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