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真・仙極無双 戦国破壊伝  作者: 悠樹 久遠
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一の段其の幕間 養殖と栽培







 魔獣。物の怪。怪異に化生。 妖怪。悪魔に祟り神。

 そんなものなどありゃしない。それがこの世の常識だ。


 科学の発展や技術の進歩と共に、かつては信じられていたそれらの化け物達は、唯物論と機械文明の下に、当然のごとく否定されていった。

 今では子供まで、そんなものを信じる人間を、馬鹿よばわりする始末だ。


 だが、それでも(なお)、人々の心の奥には未知なる物への恐怖が眠っている。

 電子機器が日常で溢れるようになってさえ、その便利な道具を組み込んだ怪奇譚(フォークロア)が語られるのが、その証拠であろう。


 まして、それらの存在が生活や教育に深く根付いていた戦国の世ともなれば、それも一入(ひとしお)だ。


 だが、逆に言えば、その恐怖を従えられるものは、魔ではなく神仏の類とされる事となる。


 しかし、久遠は‘式揮’などの人造妖怪を、自らが従えるものとして郷人(さとびと)の前に出すことはなかった。


 その理由は二つある。


 一つは、神秘は日常と別にあってこそ神秘(いましめ)としての役割を果たす為。

 そしてもう一つは、それが恐怖による統治に結びつく心配(おそ)れがあった為だ。


 だが、その方針を曲げて、久遠が郷人(さとびと)の前に(あら)わにした存在(もの)が、これも二つある。


 一つめは、上の(さと)と下の村の中間にある池を拡張、造成した生簀に養殖した大魚である。

 

 大魚とはいっても大きさは1メートル弱。

 人に害を与える事は無く、わずかな餌でよく育つ。

 泥臭さもなく美味で滋養に溢れた白身魚で、寄生虫の心配も無いため、刺身でも食べられる。

 背びれを含む上半分をセラミックの鎧に覆われたこの魚は、(さと)の新たな栄養源として、また将来行われるであろう交易の産物として創られたものだ。


 二つめは、山の一部に植林された木である。

 玉葱のように幾重にもなった樹皮は、上質な紙を作る材料となる。

 金褐色の実は、糖度が高く、人間に必要なミネラルやビタミンを含む上に、皮さえ向かねば腐りにくく、常温で一年は持つ為に保存食として最適。

 葉は茶葉に似たさわやかな香りを持ち、茶の葉よりも除菌効果も高い。

 更に、樹液はゴム状に固まり、抗菌効果を持つすぐれものだ。


 前世で様々な実験を行い、有用で繁殖力の強い生命を創りだそうとした結果、生まれた数少ない成功例だ。

 もし一般に知られれば、軍や政府に目を付けられそうだった為、むろん公開はしていない。

 

 現代なら、過激な宗教団体が刺客を送ってきても可笑しくない代物だが、この時代なら仙界の魚と木であるの一言で皆、納得する。


 むろん、科学技術を発展させる為、何れはこれらの迷信的感覚を徐々に排除していくつもりだが、それは百数十年は後、これから生まれる道士達が寿命でいなくなった後に完遂される予定だ。


 久遠は、急激に増えるであろう(さと)の人口に対処する為に、これらの産物の開発と、同時に本格的な開墾と農業技術の導入を始めていた。


 美亜の記憶データにあった生化学と農学の様々なデータが、こちらの世界でも問題なく通用するかの実験がその手始め(かわきり)だ。


 温室などを使った作物の栽培実験を初め、中でも生化学的に作る肥料と農薬の作成と使用法等、今後、農協を作る為に必要となる様々な技術の実証実験と共に実験工業を開墾された土地に建設することにした。


「作業用の‘式揮’の作成をされてはいかがでしょうか?」

 そんな久遠に、美亜は効率を考えた提言を行って、それを援ける。


 もう夜も更けているために声は小さく、常人には囁きにしか聞こえない程度だが、強化された久遠の耳は、それをはっきりと聞き取っていた。


「そうだな。薪を取りに山に入ることが少なくなったから可能か」

 少し考えて久遠は美亜の提案を受け入れる。

「とすれば素体は猿がいいな。先々、猿を追い払ったり狩ることになるだろうしな」


 今までは郷人(さとびと)の目もあり‘式揮’を使った作業などは行っていなかったが、家電の導入により(さと)から出ての活動が減った為に、それも可能になるはずだ。

 

 この時代、生態系のバランスを考えねばならないほど野生動物は少なくない。

 既に人間は地球上で最も繁栄する哺乳動物ではあったが、自然は身近な脅威であり、人は自然を制しながらも自然に生かされていることを実感する事ができた。


 その中で環境保護を考える人間はいないが、自然への怖れである崇拝があった。

 それらは生態系のバランスなどの知識を持たない人々には必要なものだろう。


 そう考えながら久遠は、早速、猿を使った作業用の‘式揮’作成にどうナノマシンを割り振るかの検討を美亜に指示した。


「では、工場は数キロほど離れた地点で建設を予定します。‘式揮’の作成の為のナノマシン必要量は────」


 深夜、既に皆が寝静まった郷長(さとおさ)の屋敷で、既にほとんど睡眠を必要としなくなった久遠と、もともと眠る必要などない美亜の打ち合わせは静かに続いていた。



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