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鬼の森  作者: 芙美
1/4

 1 祠

 人里から離れた、草木が生い茂り陽の光が届かない薄暗い森の奥に、その祠はあった。

 この森は、全体を禍々しさに覆われていた。 草も木も悪意を持ち息をひそめて、ふとした瞬間に襲い掛かってくるような、そんな不気味さで行く手を遮る。

 草木をかき分けてどうにか進んでいくと、突然開けた場所に出る。 三メートル四方ほどの空間には短い草がまばらに生えていて、頭上を背の高い木が光を遮る為やはり薄暗い。

 この中心に、祠が置かれている。

 祠の周辺は夏でもひんやりとして空気が張り詰め、妖しく不吉な空気が漂う。


 祠は何年も何十年も、そこで誰かが来るのを待っていた。


  *


 祠に近づく、二つの影がある。

「さとるちゃん、見て!なにかあるよ」

 無邪気な子供が冒険に来たのだろうか、祠を前にはしゃいでいる。

「美咲、もういいだろ。帰ろうぜ」

 さとると呼ばれた少年はこの森の雰囲気に怯えていたが、美咲と呼ばれた少女は気にすることなく突き進んだ。さとるはしぶしぶついていく。

 さとるは不安気に辺りを見ていた。美咲がいなかったら、全力で走り出していただろう。恐ろしさに叫んでしまいそうだったが、必死にこらえた。

 息が苦しくなるほどの、押しつぶされるような重く静かすぎる空気。静かなのに誰かがいるような気配。少し気を緩めると、それらが目に見える形で現れるような気がして、さとるは無意識のうちにこぶしを握っていた。

「ドアの前に紙が貼ってあるよ」

 観音開きの戸がお札で封印されていたが、まだ小さい美咲はお札の存在を知らず、テープのようなものだと思った。しかし紙には何か書かれていて、それがただのテープではない特別なものだと感じとり、美咲の目はより一層輝いた。

「美咲、もう帰ろう。鬼が出る……。この森は鬼が出るんだって、みんな言ってただろ」

 さとるは顔を青くして祠を見た。本当は見るのも恐ろしかったが、見ておかないと中から何か出てきそうで、目が逸らせない。

「早く帰ろう。ここ、普通じゃない」

 震える声でつぶやいた。

 さとるとは対照的に、美咲は日常と離れたこの場所に興奮しきって、引き返す様子がない。

「もうちょっと、見てみようよ。ちょっとだけ。私中を見てみたいなあ」

 いつもの、わがままを押し通す笑顔に、さとるは何も言えなくなる。無言のさとるを、美咲は了解と受け取った。

 美咲は周辺をうろうろと歩いた後、階段を上り戸の前に立った。

 どうにか中を覗こうとするが、真っ暗で見えそうにない。

 やはり、封をやぶるしかない。

 美咲はお札の前に手をかざした。札を取ろうというのだろう。

 しかし、手はとまったままで、動かない。心の中で、封をとこうとする者と邪魔する者が戦っているような、緊張感が漂った。

 さとるはどうにかして美咲を止めたいのに身動きができず、祈りながらただ見守った。

 空気が、張り詰める。

 やがて美咲は動きだし、無言のままお札を取った。

 戸が開いたわけでもないのに、さとるは反射的にぎゅっと目を瞑った。

 あんなに固く戸を閉ざしていたお札は、たいして力もない美咲の手で簡単に剥がれてしまった。

 お札がなくなり、これで中に入ることができる。それなのに、さっきまであんなにはしゃいでいた美咲が大人しい。

 自分は何か取り返しのつかない、恐ろしいことをしてしまったのかもしれない。

 漠然と、美咲は不安を感じていた。美咲はどちらかというと怖がりで、本当は森に入ってからずっと怖かったのに、何故あんなにはしゃいでいたのだろう。

「さとるちゃん、戸を開けよう」

 美咲がさとるを呼び、さとるは青い顔をしたまま何も言わず美咲の傍まで来た。

 二人は、恐る恐る戸を開けた。



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