第1話:俺が異世界アンチになるまで
--もし異世界に転生できたら
そんな事誰しもが一度は考えるだろう。
俺もその一人だ。
神様やらに選ばれて異世界に転生して『何らかの特別な力』なり所謂『チート能力』を得ちゃったりさ。
突然だが信じられないことを言う。
俺は本当にその異世界転生ってやつをしてしまったんだ。
ただまぁ【理想とする物】ではなかったけども。
俺はその日、自転車で登校していた。
閑散とした街並み、灰色に敷き詰められるコンクリートの上を走る。
(さぁ、右に曲がるか)
そして曲がってすぐ右からトラックがッ。
と思ったら別にそんなことは無かったが、話はここからだ。
10m先くらいに猫が道の真ん中で寝ているのが見えた。
しかも運悪くその先からトラックが来ている。
しかも居眠り運転。
--猫がッ!猫が……!
気づけば俺は死んでいた。
そして今に至る……
「何なんだよ……!神様は?契約悪魔は!?チート能力は?何の特典もなし!?」
俺は人で賑わう城下街の中、落胆しながらそう叫んでいた。
周りから引いた視線を感じるがそんなのどうでも良かった。
「うわあああ!!異世界転生でチート無しってそれつまりあの異世界の定番0から始まるあのアニメに近いじゃん……」
絶望した。このままだと絶対嫌な事が起きる。
ほら例えば10代後半くらいの悪質な盗賊に出会して裏路地で金を奪われるとか……!
この世界の金は持ってねぇけど。現金ならある。
あ、この現金ってのは現実の金ってのと掛けて……
「お前うっせぇよ!邪魔だッ」
グハッ……
い、いてぇ……なんか蹴られた。
「……はぁ。いきなり異世界からの洗礼か」
「ん?お前、見かけねぇ服着てるな」
ふと顔を上げるとそこにあったのは10代後半と思われるそこそこな兄ちゃん。
水色の布服を着ていてこっちからしたらお前こそ見かけねぇ服だよって感じだが。
腰に巻いてある短剣を見たところ盗賊ってところか。
そいつは上から目線で言う。
「--ふん。そうだな。お前金持ってそうだし……」
その後の展開なんて想像に難くないだろう。
裏路地で俺はそいつとそのグルと思われる五人組にポッケやら学校のバックやらを漁られる。
「何だこの金……見た事ねぇ!変なおじさんの絵だな!?」
「ボスゥ。こいつ俺たちをからかってんじゃねぇですか?」
「そうか!腹立ってきたな」
六人組の盗賊達がニヤニヤして俺を見てきた。
(あ、終わった)
その後は言いたくもないが……
みぞおち蹴られたり顔面殴打の嵐。
盗賊六人組が立ち去った後、俺は路地裏で惨めに嘆いた。
「--許さねぇ……!俺はただ楽しみたいだけだッ!」
血がついた拳を壁に叩きつける。
そして俺は続ける。
「--だがっ。もういいっ!これより……
俺は生粋の《異世界アンチ》となる。
闇魔法のロマン?たかが暗いだけの魔法だろ?
悪の宗教団を倒して欲しい?くだらねぇ。
世界征服を企む魔王が現れた?全てワクワクしねぇよ!」
「異世界アンチに俺はなる!」
なんか某海賊王みたいになったが……
ダサすぎるだろ俺ぇ!
ひとまず情報収集だ。
異世界のことなんぞハッキリ言ってもう知りたくもない。
でも知らなきゃ多分詰む。(さっきみたいな事が起きるだろうなッ)
城下街の商店街を見渡す。
服屋なり、果物屋なり、武器屋なりが見えるが……
ふんっ。くだらんな。
「う、うあああぁぁ!やめてくれぇ!」
中年の男の悲鳴が街中に突然響く。
(何だよ。うるせぇな……)
振り返ると衝撃の光景がそこにはあった。
ダイヤモンドの大剣を握る機械仕掛けの巨体が中年を引き裂いていた。
血と内臓が飛び散る。--グロいッ。
「……ッ」
その巨体は大剣を肩に担いだあと、俺の方を向いてきやがった。
「待て待て待てッ!こんなのアリかよ!どう見ても序盤で出会う相手じゃないだろッ」
異世界テンプレならまず序盤はスライムとかの雑魚魔物とかにしてくれ!?
(てか本格的にこれはまずいな。奴、見るだけで分かるが)
「--強いな」
巨体は既に音速で俺の前に飛んできていた。
正直俺はもう諦めていた。
ああ、チート能力さえあればッ!!
「く、くそぉぉぉぉおぉぉ!!」
「--《光力・シャドウレイン!!》」
ふと、ソプラノの声と共にその呪文は街路に響き渡る。
その声の主を探し俺は顔を踊らせる。
(--あの子か!)
白と黄色を基調としたローブを着こなした金色のロングカットのその子は焦燥が入り混じった顔でそこにいる。
弓矢を撃つような姿勢を取ってそこに……。
気付けば光と闇が混ざり合ったような巨矢がダイヤモンドの大剣を持つその身体に突き刺さっている。
「--やったか!?」
俺は咄嗟にフラグ発言をしてしまったが結果は?
(--てかっ、どこ消えたアイツっ!?)
そう思ったのも束の間だった。
巨体はその子を蹴り飛ばしていた。
地面から数百メートル離れた空まで飛んでいく。
「マジかよ……」
唖然として虚空を見上げていた俺だが、そのすぐ後。
--ズドンッ!
衝撃音が街路のタイル状の小麦色コンクリートに走る。
機械仕掛けの巨体は半壊になっていた。
「つ、強いっ」
ーーそして。
100m上空から白黄のローブを着た女の子をお姫様抱っこしながらそいつは地上へ現れた。
「ーーまだまだだねぇ。ヒカリ?」
白と黒を基調としたゴシックロリータの格好。
肩まで届く薄金色のツインテール。
水色の団子の様に連なる水晶体のアクセをそのツインテに付けていた。
推定14歳。
そしてーー『とてつもなく美少女』だった。
「師匠!邪魔しないでくださいッ!」
お姫様抱っこされた金色ロングカットの子はそう煩わしそうに叫ぶ。
推測するに『師匠』は白黒ゴスロリの女の子か。
邪魔ってことはあの機械仕掛けの巨体を倒したのはコイツ?
「ごめんね。でもあのままじゃ死んでたよ?」
「あと。今から"処理"するから」
抱えていた弟子を離すとそいつは巨体へと近づき呪文を唱えた。
「《ホワイトサンダー》」
目に見える白色の電撃波がそいつの手から放出されそれが巨体へと触れた瞬間、その姿が完全に消えた。
「なんのマジックショーだよっ!」
思わずそう言わずにはいられなかった。
俺のその発言にそいつは首を傾げて見てきた。
品定めするような視線を感じる。
「ふーん。なるほどっ」
「な、なんだよっ?」
「別に♪」
この会話をつまらなさそうに見ていた例の『師匠』より1歳くらい年下であろう白と黄色ローブの子が口を開く。
「師匠!使徒は倒しましたしっ。行きましょう?」
「倒したのノエルなんだけど?」
そして二人は街路の先へ消えて行った。
(ふんっ。何がホワイトサンダーだよ。お菓子かよ!)
俺は今の印象が濃い二人の事など知らぬフリしていた。
あれもテンプレだ。
ほら、『序盤、主人公の前に現れた強敵を軽々しく倒す』
よく考えればありがちじゃないか。
俺はそう言い聞かせて街から出て行く。
ーーとある目的があるからだ。




