■第4話:初めての魔族遭遇。……えっ、お客様ですか?
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
本編をお楽しみください
【場所:王都から徒歩2日ちょっとの「せせらぎの川辺」】
その日の午後、ヒナタ一行はいつものように、木陰で優雅なお昼寝タイム(シエスタ)を満喫していた。
そよ風が吹き、川の音が心地よいリズムを刻む。
平和そのものの光景だ。
しかし、その平和な空気を切り裂くように、近くの茂みがガサガサと揺れた。
「……ん?」
最初に気づいたのは、元・国内最強の騎士ヴァレリアだった。まどろみながらも、長年の勘で片目を開ける。
「……微弱だが、邪気を感じるな」
元・天才魔導師エイルも、寝転がったまま眼鏡の位置を直した。
茂みから飛び出してきたのは、身長2メートルほどの、牛の頭を持つ魔族(ミノタウロス族の下っ端)だった。
「ブモォォォッ! ここに人間どもがいるという報告は本当だったか!」
牛魔族は、錆びた斧を振り上げて吠えた。
彼の名はゴズ。魔王軍の偵察部隊員だ。勇者が一向に現れないため、しびれを切らした魔王軍幹部が「様子を見てこい」と派遣した、使いっ走りである。
ゴズは、目の前の人間たちを見て、鼻息を荒くした。
「人間め! 俺様が見つけたからには……ん?」
ゴズの動きが止まった。
彼は気づいてしまったのだ。
木陰で寝ている女性……あれは、魔王軍のブラックリスト筆頭、「剣聖ヴァレリア」ではないか?
その横にいる眼鏡の男……あれは、広範囲殲滅魔法の使い手、「賢者エイル」では!?
(ひ、ヒィィィッ!? ヤバい! ヤバすぎる!!)
ゴズの顔色が、茶色から青色に変わる。
(なんでこんな王都の近くに、人類最強クラスが二人も揃って寝てるんだよォォッ!?)
ゴズは後悔した。偵察なんて適当にサボればよかった。
逃げなければ。今すぐ回れ右をして全力疾走しなければ、次の瞬間には首が飛ぶか、黒焦げになるかだ。
ゴズが震える足で後ずさりした、その時。
「んん~……。あれぇ? お客さんですかぁ?」
のんびりとした声が響いた。
二人の最強キャラの間に挟まれて寝ていた、パーカー姿の青年――勇者ヒナタが、目をこすりながら起き上がったのだ。
ヒナタは、目の前にいる筋肉隆々の牛魔族を見ても、全く動じなかった。
むしろ、目をキラキラと輝かせた。
「わあ……! すごい! 立派な角ですねぇ!」
「……ブモ?」
ゴズが間の抜けた声を出す。
「牛さんですよね? この辺りの森に住んでるんですか? 初めまして、最近ここに引っ越してきた日向です~」
ヒナタはニコニコと立ち上がり、深々と頭を下げた。
(う、牛さん……? 引っ越し……?)
ゴズは混乱した。
こいつは勇者じゃないのか? なんで魔族の俺を見て、近所のお兄さんに会ったみたいな反応をしてるんだ?
「あ、もしかして、喉渇いてます? ずっと走ってきたんでしょう、息が上がってますよ」
ヒナタは、ゴズが恐怖で荒い息を吐いているのを、「運動後の疲れ」だと勘違いした。
「い、いや、俺様は貴様らを……」
ゴズが斧を構え直そうとすると、ヒナタがすっと目の前に何かを差し出した。
「はい、どうぞ。冷たい麦茶です」
キンキンに冷えたグラスには、氷がカランと涼しげな音を立てていた。
「……は?」
「さあさあ、遠慮しないで。今日は暑いですからねぇ。熱中症になっちゃいますよ?」
ヒナタの笑顔には、一点の曇りも、敵意もなかった。
あるのは、訪問者に対する純粋な「おもてなしの心」だけ。
ゴズは毒が入っているのではないかと疑ったが、喉はカラカラだった。
恐る恐るグラスを受け取り、一口飲む。
「……ブモッ! う、うまい!」
冷たい麦茶が、乾いた体に染み渡る。魔界の泥水のような飲み物とは大違いだ。
「でしょう? あ、座ってください。今、冷やしたキュウリもありますから」
ヒナタはゴズの手を引き、ヴァレリアとエイルが寝ている横の切り株に座らせた。
「……おい、新入り」
ヴァレリアが寝返りを打ちながら、面倒くさそうに言った。
「ヒナタ殿の麦茶は絶品だろう。……感謝して飲むんだな」
「斧は危ないからしまっておきなさい。……せっかくの昼寝の時間が台無しです」
エイルもあくびをしながら眼鏡を拭いた。
(こ、こいつら……完全に俺を「脅威」とみなしてねぇ……!)
ゴズは情けなさと、安堵感で、目頭が熱くなった。
「はい、キュウリです。お味噌つけると美味しいですよ~」
ヒナタが新鮮なキュウリを差し出す。
ポリポリとキュウリをかじるゴズ。
「……うめぇ。ブモォ……」
ゴズの張り詰めていた緊張の糸が切れた。
魔王軍での過酷な労働。パワハラ上司からの理不尽な命令。安月給。
それらのストレスが、ヒナタの優しい笑顔と麦茶によって浄化されていく。
気がつけば、ゴズの顔は、生まれたての仔牛のように穏やかに緩んでいた。
【場所:天界・管理室】
『バカなァァァァッ!!』
神ドラマスの絶叫が響き渡る。
『なぜ魔族が麦茶を飲んでくつろいでいるんだァァッ!!』
『そこは戦うところだろ! 最初の戦闘イベントだろ! 経験値だろォォォッ!!』
モニターの中では、すっかりヒナタに懐いたゴズが、その怪力を活かして「新しい薪割り係」として働き始めていた。
「わあ、すごいパワー! さすが牛さんですねぇ!」
「ブモォォォ!(任せとけ!)」
『やめろ! 敵を増やすな! いや、味方につけるな!』
『もう嫌だぁぁぁ! 誰かコイツらに「緊張感」という言葉を教えてやってくれぇぇぇッ!!』
勇者パーティー(?)に、新たに「力持ちの魔族(下っ端)」が加わった。
魔王城への道のりは、また一歩、遠のいた。
(第4話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
皆様からの応援が、毎日の更新の最大のエネルギーになっています!




