■ 第2話:待ちくたびれた魔導師、逆走して迎えに来る
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
本編をお楽しみください
【場所:王都から続く街道の宿場町「ロレン」】
筆頭宮廷魔導師エイルは、宿屋のロビーで苛立たしげに貧乏ゆすりをしていた。
彼がここで勇者を待ってから、既に10日が経過していた。
「遅い……。遅すぎる……!」
エイルはガリガリと爪を噛む。
「王都からここまでは、馬車なら1日、徒歩でも3日の距離だぞ?」
「途中にはスライム程度の雑魚しかいない。ヴァレリア団長がいれば瞬殺のはずだ」
まさか、全滅したのか?
いや、あの最強の騎士がついている。それはあり得ない。
となると、何か大規模な魔法的なトラブルに巻き込まれたか?
「くそっ……! 私としたことが、計算外だ!」
エイルは立ち上がった。
「こうなれば、私が迎えに行くしかない。最短ルートで捜索し、トラブルを排除して連れてくる!」
エイルは杖を握りしめ、来た道を逆走し始めた。
【場所:王都から徒歩2日と15分の地点「せせらぎの川辺」】
エイルは街道を疾走した。
捜索魔法を展開し、勇者の魔力反応を探る。
(どこだ? 崖の下か? 森の奥か?)
そして、反応を見つけた。
場所は、王都からほど近い丘の向こう側。
街道から少し逸れた、小川のほとりだ。
「いた! あそこか!」
エイルは藪をかき分け、飛び出した。
「勇者殿! ヴァレリア団長! ご無事ですかッ!!」
勢いよく現場に踏み込んだエイル。
しかし、彼が杖を構えたまま固まる光景が、そこにはあった。
「あ、エイルさん。こんにちは~」
「……む。エイルか。遅かったな」
そこには、小川でズボンを捲り上げ、楽しそうに魚釣りをしているヒナタと、岩の上で昼寝をしていたヴァレリアの姿があった。
「…………は?」
エイルの思考が停止する。
モンスターとの死闘も、怪我も、緊迫感もない。
あるのは、バケツの中で跳ねる魚と、焚き火の煙、そして干された洗濯物だけ。
「な、な、な……」
エイルの手が震える。
「何をしているんですかァァァァッ!!??」
森の鳥たちが驚いて飛び立つほどの絶叫。
エイルはヴァレリアに詰め寄った。
「団長! あなた何くつろいでるんですか!?」
「待合せから10日過ぎてますよ!? なぜまだこんな……王都の裏庭みたいな場所にいるんですか!?」
ヴァレリアは欠伸を噛み殺しながら、ダルそうに答えた。
「うるさいな、エイル。……見ればわかるだろう? 食料調達(釣り)だ」
「この川のアユは絶品なんだぞ。塩焼きにすると最高だ」
「そういうことじゃなーい!!」
エイルは叫んだ。
「魔王討伐はどうしたんですか! 騎士としての誇りは!」
「誇りならあるさ」
ヴァレリアは真顔で言った。
「昨日、ヒナタ殿が作った『露天風呂』の湯加減を完璧に守り抜いた。……あれはいい仕事だった」
「ダメだこの人! 完全に骨抜きにされてる!」
エイルはターゲットをヒナタに変えた。
諸悪の根源はこの勇者だ。
「勇者ヒナタ! あなたですよ!」
「さあ、今すぐ荷物をまとめてください! 私が転移魔法で宿場町まで……」
「わあ、エイルさん。見てください、大物が釣れましたよ!」
ヒナタはエイルの説教をスルーし、ビチビチと跳ねる魚を突き出した。
「うおっ!? 魚を近づけるな!」
「エイルさんもお腹空いてますよね? 今から塩焼きにしますから、一緒に食べましょう」
「食べません! 私は怒って……」
「あ、あと食後に採れたてのハーブティーもありますよ。エイルさん、研究でお疲れでしょう? 『疲労回復』の効果があるミントですよ」
「ッ……!?」
エイルの動きが止まった。
「疲労回復」という言葉に、激務続きの身体がピクリと反応してしまったのだ。
王宮での徹夜の研究、気難しい国王への対応、そして今回の待ちぼうけ……。
彼は、誰よりも「癒やし」に飢えていた。
「……そ、そんな子供騙しで、私が絆されるとでも……」
「まあまあ。座ってください。ここの岩、温かくて気持ちいいですよ」
ヒナタはニコニコとエイルの手を引き、特等席の岩場に座らせた。
そこは、木漏れ日が降り注ぎ、川のせせらぎが心地よいBGMとなり、風が優しく頬を撫でる、極上のリラックス空間だった。
「……あ」
エイルの肩から力が抜けた。
(なんだ……この空間は……)
(王宮の硬い椅子とは違う……。世界の理が、優しく解けていくような……)
「はい、お茶です」
渡されたカップから立ち上る、フレッシュハーブの香り。
一口飲むと、積年のストレスが蒸発していくようだった。
「…………うまい」
「でしょう? よかったぁ」
ヒナタが嬉しそうに笑う。
「エイル、そこにある焼き魚も食え。骨までいけるぞ」
ヴァレリアが串を渡してくる。
「……一本だけですからね。一本食べたら、すぐに出発しますからね」
そう言いながら、エイルは魚にかぶりつき、そして深く深くため息をついた。
魔導師としての効率的思考回路が、「まあ、明日でもいいか」というエラーメッセージで埋め尽くされていく。
こうして。
勇者パーティーは「宿場町で合流」の予定を変更し、「王都から徒歩2日ちょっとの小川」にて全員集合を果たした。
パーティーの「平均進行速度」は、この日をもって限りなくゼロになった。
(第2話・完)
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました!
ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
皆様からの応援が、毎日の更新の最大のエネルギーになっています!




