■第172話:王都サイレント・ハザード! ……えっ、完璧な隔離の裏で「サプライチェーン攻撃」と「論理爆弾(ロジックボム)」が進行中ですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・第1開発会議室】
「……フ、フフフ……アハハハハッ!!」
神ドラマスは、メインモニターに映る『隔離テントの前でドヤ顔をしているヒナタ少年』を見下ろし、狂ったように高笑いを上げた。
「ドラマス様……我々の第一ペイロード(村のゾンビ)が物理サンドボックスに隔離されましたが……」
「構わん!! むしろあの少年が『インシデントは完全に封じ込めた』と誤認してくれたことこそが、我々の真の狙いなのだからな!!」
ドラマスは、血走った目で別のモニター群を指差した。
そこには、王都へと続く街道を進む「数台の行商人の馬車」が映し出されていた。
「彼が村に到着する『半日前』。村で最初に感染し、まだ発症していなかった(潜伏期間中の)村人と接触した行商人たちが、すでに王都へ向けて出発している! 物理ファイアウォール(隔離テント)が展開される前に、マルウェアはすでに正規のポート(街道)を通過していたのだ!」
開発主任の天使が、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「はい。今回のゾンビ・アルゴリズムには『48時間の潜伏期間(時限式トリガー)』をコーディングしてあります。検疫システム(王都の門番)は、熱もない健康な行商人を『正常なパケット』としてスルーする。そして王都の内部に入り込み、人口密集地に完全に紛れ込んだタイミングで……一斉に発症(ペイロードが実行)するのです」
「その通りだ! 局地的なP2P感染などただの『囮』。我々の本命は、正規の物流ルートに悪意あるコードを混入させる『サプライチェーン攻撃』と、指定時刻に一斉にシステムを破壊する『時限式論理爆弾』の複合コンボよ!! さあ、天才QAテスターの少年よ! 自分の足元でシステムが完全にクラッシュするまで、せいぜい勝利の美酒に酔うがいい!!」
【場所:人間界・王都の活気ある中央市場(村の事件から2日後)】
「う〜ん、やはり王都の市場は活気がありますねぇ。最新のガジェットをメンテナンスするための部品も揃えやすくて、最高の環境です」
ヒナタは、四次元リュックを背負い、平和な王都の通りをリラックスした足取りで歩いていた。艶消しマットの iPhone 17 Pro Max の画面は、あの村の隔離テントの監視カメラ映像を映しているが、異常は「ゼロ」のままだ。
「いやぁ、勇者殿のあの見事な『サンドボックス化』のおかげで、恐ろしい化け物の増殖を未然に防ぐことができましたな! 王国は今日も平和ですぞ!」
宰相セバスチャンが、ホクホク顔で屋台の串焼きを頬張った。
「当然です。自己増殖型マルウェアは、初動の検知と物理的ネットワークの遮断が全てですからね。私の完璧なインシデント・レスポンスに死角はありませんよ」
ヒナタは、得意げに胸を張った。
そのヒナタの背後で。
串焼き屋の店主が、ゴホッ、と重たい咳をした。
「……おかしいな、急に寒気が……」
店主の顔色は、うっすらと土気色を帯び始めている。
少し離れた路地裏では、村から仕入れた野菜を運んでいた行商人が、ふらふらと壁に寄りかかり、焦点の定まらない目で空を見つめていた。
「……アァァ……」
彼の首筋には、村で誰かに引っ掻かれたような微かな傷跡が、どす黒く変色して広がっていた。
王都の至る所で、水面下で『バックグラウンド・プロセス』が異常なリソースを消費し始めていた。しかし、表面上はただの「風邪の流行」にしか見えず、誰もそれがシステム崩壊の予兆だとは気づかない。
「そういえば、勇者殿。今日はなんだか、風邪を引いている者が多いようですな。衛兵の詰所でも、熱で休んでいる者が数人いるとか……」
セバスチャンが、鼻をすする通行人を見てふと言った。
「季節の変わり目ですからね。セバスチャンも、ちゃんとビタミンをとって免疫力を常に最新の状態にアップデートしておかないとダメですよ」
ヒナタは、iPhone の『村の監視モニター(正常)』だけを見つめ、目の前で静かに広がっている未曾有のパンデミック(ゼロデイ攻撃)の兆候を、完全に『ただの風邪(正常なエラーログ)』として見落としていた。
そして――。
潜伏期間である48時間が経過した、その日の正午。
王都の中央時計塔の鐘が、ガーン、ガーンと鳴り響いた瞬間。
『シャァァァァッ!!』
串焼き屋の店主が突如、白目を剥いて獣のように咆哮し、目の前にいた客の首筋に猛然と食らいついた。
「ぎゃああああッ!?」
客の鮮血が飛び散り、悲鳴が市場に響き渡る。
「な、なんだ!? どうした!?」
セバスチャンが振り返った。
しかし、悲鳴は一つではなかった。
路地裏から、大通りから、建物の2階から。昨日まで普通に笑っていた町民たち、行商人、果ては警備の衛兵までもが一斉に土気色の顔の化け物へと変貌し、無傷の人間たちに次々と襲いかかり始めたのだ。
『ガァァ!』『ウゥゥッ!』
「助けてくれェェッ!!」
「いやあああっ! 誰かァァッ!!」
噛まれた人間は、わずか数秒で青筋を立てて起き上がり、新たな感染者として隣の人間を襲う。
1が2に、2が4に、4が16に。
基本再生産数(R0)が文字通り「爆発」し、王都のメインストリートはたった数十秒で、おびただしい数のアンデッドがうごめく地獄の絵図へと変貌した。
「ひぃぃぃぃッ!! 勇者殿ォォッ!! あの村の化け物が!! なぜ王都のど真ん中に大量発生しているのですかァァッ!!」
セバスチャンが腰を抜かし、絶叫した。
「ブモォッ!?(ヒナタ!! 前も後ろも化け物だらけだ!! 盾で塞ぐなんて次元じゃねぇ!!)」
ゴズが戦斧を構えるが、全方位360度から押し寄せる感染者の群れ(トラフィック)を前に、物理的なチョークポイント(隘路)を作ることすら不可能な状態だった。
「…………ッ!!」
ヒナタは、手元の iPhone 17 Pro Max の画面を見た。
先ほどまで緑色(正常)だった王都の広域ネットワーク・マップが、凄まじい速度で真っ赤なエラー・ドット(感染者)に塗りつぶされていく。
「し、しまった……!! 私たちが隔離したあの村は、ただの『ハニーポット(陽動用の囮)』……!! 最初の感染ノードは、私たちが検知するより前に『正規の物流』に乗って、王都のファイアウォール(城門)を内部から突破していたんだ……!!」
ヒナタの顔から、テスターとしての余裕が完全に消え失せた。
「しかも潜伏期間を悪用した『時限式の論理爆弾』!! 発症のタイミングを人為的にズラして、対象領域(王都)のど真ん中で一斉にペイロードを実行させるなんて……!! これは、完全に私のQAチェックの抜け(監視体制のザル)を突かれた『ゼロデイ攻撃』だ!!」
『ウガァァァッ!!』
ヒナタたちの周囲を、数百、数千のゾンビが完全に取り囲んだ。
最早、スマートテントで隔離できるような規模(データ量)ではない。王都というシステムそのものが、自己増殖マルウェアによって物理的にクラッシュ(陥落)しようとしていた。
「ゆ、勇者殿……! 終わりましたぞ……! 王都は、我々はもうおしまいです……!!」
セバスチャンが絶望の涙を流す。
完全な油断。
天才少年テスターのロジックを逆手に取った、神ドラマス執念の『サプライチェーン攻撃』。
ヒナタたちは、一切の対話が不可能な数万のアンデッド(暴走したマルウェアの波)のど真ん中で、絶対絶命の窮地に立たされていた。
(第172話・完)
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