■ 第1話:最速の騎士と、最遅の勇者
本日から新連載スタートです!
本作は『『神様ざまぁ』シリーズ ~理不尽な設定は、主人公たちが規格外の手段で粉砕します~』の第4弾となりますが、完全に独立した物語ですので【本作から(本作だけでも)100%楽しめます】! 初見の方もどうぞご安心ください。
魔王討伐? なにそれ美味しいの? と言わんばかりに、異世界を全力で遊び尽くす規格外のマイペース勇者の物語です。肩の力を抜いて、クスッと笑いながら楽しんでいただければ幸いです。
それでは、ヒナタによる異世界スローライフ蹂躙、開幕です!
【場所:異世界・王城「グランベル」謁見室】
「おお、勇者よ! よくぞ参った!」
玉座の間にて、国王の威厳ある声が響く。
さらに、天界からも荘厳な声が降り注いだ。
この世界を司る『激動の神・ドラマス』の声だ。
『勇者ヒナタよ! 魔王軍の脅威が迫っている!』
『貴様には「最強の加護」を与えた! さあ、仲間と共に疾風の如く駆け抜け、世界に平和をもたらすのだ!』
召喚された青年、日向は、リュックを背負ったままニコニコと頭を下げた。
「はい、初めまして神様。素敵なご招待ありがとうございます」
「世界を救うボランティアですね。お散歩がてら、頑張らせていただきます~」
『うむ、素直で良い子だ! では頼んだぞ!』
『私は忙しいのでな。……また忘れた頃に、貴様らの勇姿を見に来よう!』
神の声は、期待と信頼を残して途切れた。
残されたのは、ヒナタと、彼を護衛する一人の騎士だった。
「勇者ヒナタ殿」
鋭い眼光の女性が、カカッと音を立てて跪いた。
王宮騎士団長、ヴァレリア。
「剣聖」の異名を持つ、国内最強にして最も生真面目な騎士だ。
「私の剣は貴方のものです。……さあ、行きましょう! 一刻も早く魔王城へ!」
ヴァレリアは立ち上がるなり、キリッと城門の方を指差した。
「私の足なら、次の宿場町まで半日で到着できます。勇者殿も『神の加護』があるならついて来れるはず!」
「あ、はい。よろしくお願いしますね、ヴァレリアさん」
ヒナタは穏やかに微笑んだ。
この時、ヴァレリアは確信していた。
この素直な勇者となら、最短記録で魔王を討伐できるだろう、と。
【場所:王都から続く街道(出発から数時間後)】
「……あの、勇者殿?」
ヴァレリアが足を止めて振り返る。
先頭を歩く彼女と、後ろを歩くヒナタとの距離が、どんどん開いていた。
ヒナタが遅れているのではない。
止まっているのだ。
「どうされましたか? 足を挫きましたか?」
ヴァレリアが慌てて駆け寄ると、ヒナタは道端の草むらにしゃがみ込んでいた。
「見てください、ヴァレリアさん」
ヒナタが指差したのは、なんの変哲もない野花だった。
「この花、花びらが3枚で可愛いですねぇ。図鑑に載ってる『ミチシルベ草』かな?」
「は、はあ。そうですが……」
ヴァレリアは困惑した。
「そんな雑草を見ている場合ではありません。魔王軍は待ってくれませんよ?」
「でも、急いで歩くと、こういう小さな出会いを見落としちゃいますよ?」
ヒナタはスケッチブックを取り出し、サラサラと花の絵を描き始めた。
「せっかく異世界に来たんですから。景色を楽しまないと損です」
「ぐっ……。し、しかし……!」
ヴァレリアは反論しようとしたが、ヒナタのあまりに無垢な笑顔に、言葉を詰まらせた。
(神様も「お散歩がてら」という言葉を許していたし……少しくらいなら……)
「……わかりました。では、10分だけ休憩しましょう」
「ありがとうございます~。あ、お茶淹れますね」
【場所:王都から「徒歩2日」の地点・風の丘】
そして、出発から2日後。
本来なら、とっくに次の街へ到着し、最初のクエストを受けているはずの時間だ。
しかし一行は、まだ王都の尖塔がうっすら見える距離にある、景色の良い丘の上にいた。
「ふぅ……」
ヴァレリアは、岩の上に腰掛けて、遠くの空を眺めていた。
鎧のベルトを少し緩めている。
(おかしい……。私の計画では、今頃ダンジョンに潜っているはずなのに)
(なぜ私は、こんなところで風に吹かれているんだ?)
焦る気持ちはある。
あるのだが――。
「ヴァレリアさーん。スープできましたよ~」
ヒナタの声に、ヴァレリアのお腹が「ぐぅ~」と正直に鳴った。
「あ、すみません……」
「ふふ、いい音ですね。さあ、どうぞ」
ヒナタが差し出したのは、道中で採取したハーブと野菜を煮込んだ、特製ポトフだった。
一口飲むと、優しく濃厚な味わいが、疲れた(といっても殆ど歩いていないが)体に染み渡る。
「……美味しい」
ヴァレリアの口から、無意識にため息が漏れた。
騎士団での規律ある生活、終わりのない訓練、魔王討伐のプレッシャー。
それらが、この温かいスープと、ヒナタの纏う空気によって溶かされていくようだ。
「ここ、いい風が吹きますねぇ」
ヒナタがコーヒーを飲みながら、目を細める。
「今日はここでキャンプにしましょうか。星も綺麗に見えそうですし」
ヴァレリアは、いつもの自分なら「野営など危険です! 進みましょう!」と叫んでいただろう。
だが、今の彼女は、ポットから立ち上る湯気を眺めながら、こう思ってしまったのだ。
(……まあ、一日くらい遅れても、世界は滅びないか)
「そう……ですね。勇者殿がそう言うなら」
ヴァレリアは、自分でも驚くほど穏やかな声で答えた。
「じゃあ、私はテントを張る場所を確保しましょう」
「お願いします~。僕はデザートの準備をしますね」
夕日が沈んでいく。
王都からたった2日の場所で、世界最強の騎士は、剣ではなくペグハンマーを握り、かつてないほどの「充実感」を味わっていた。
まだ誰も知らない。
これが、世界を救う旅ではなく、世界一優雅な「ピクニック」の始まりであることを。
そして、この光景をまだ神様が見ていないことが、後の悲劇(神様にとっての)を生むことを。
(第1話・完)
第1話をお読みいただき、本当にありがとうございます!
緊迫した世界に放り込まれたのに、まったく空気を読まない主人公ですが、これからさらに異世界の常識を(スローに)破壊していきます。
「こいつふざけてるな!」「魔王軍が不憫で面白い!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
ページ下部の【☆☆☆☆☆】をタップして星評価を入れて応援していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!
ブックマーク登録も、ぜひよろしくお願いいたします!




