不思議な女学生3[解決編]
「まず、昼休みのことだけど」
私は、順序を整理しながら話し始めた。
「その子は、人に言えないことをしていたわけじゃなかったんだよ」
「え? どういうことだ?」
「人に言えない=やましい、とは限らないってこと」
「つまり……やましいことじゃないけど、本人にとっては言いづらかった?」
「うん。本人にとっては恥ずかしいことだったんだと思う」
それは、誰かを傷つけるような行為でも、後ろめたいことでもない。
ただ、知られたくなかっただけ。
「放課後の件も同じ。夕食を作っているから急いで帰るっていうのは、嘘じゃないと思う」
「本当なのか?」
「あくまで予想だけどね」
「でも、何でそう思ったんだ?」
「人は嘘をつく時、無意識に真実を混ぜることが多いから」
「……なるほどな」
佐藤君は少し考えてから頷いた。
「確かに、全く的外れなことは言わないか」
「うん。それと、昼休みの行動と放課後の行動は、実は一つに繋がってる」
「繋がってる?」
「そう。夕食を作る、って一点でね」
「じゃあ結局……昼休みに何をしてたんだ?」
私は、少し間を置いてから答えた。
「スーパーの特売情報を見てたんだと思う」
「……は?」
佐藤君が完全に固まる。
「そうなるよね。私も最初は自分の考えを疑った」
「いや、話は繋がるけど……いろいろおかしくないか?」
「例えば時間のこと、でしょ?」
「そう! 特売情報を見るだけなら、そんなに長くトイレにいなくてもよくない?」
「私もそれ、気になってた」
酒井さんも頷いた。
「それが時間の話になる」
「時間?」
「そのスーパー、毎日十二時過ぎに特売情報を出すんだよ」
二人の視線が私に集まる。
「だからその子は、昼休みになるとすぐトイレに入って情報を確認する。
それを見ながら、買う物を選んで、夕食の献立を考えてたんだと思う」
「……なるほど」
「だから昼休みを丸ごと使ってたんだね」
「でも、それ教室でもできることじゃないか?」
「まあ、智也ならできるかもね」
「は?」
「これは感性の問題なの」
「うん。人によっては平気なことでも、恥ずかしいと感じる人もいる」
「……まあ、そういうものか」
佐藤君は、ようやく納得したようだった。
「でも、そこまでして節約しないといけない理由は?」
「はっきりとは分からない。でも……たぶん、お母さんのため」
「お母さん?」
「体が弱いって話だったでしょ。看病じゃなくても、医療費とか、働けない日があったりとか……家計がきつい可能性はある」
「……きついな」
佐藤君の声は、少し沈んでいた。
「うん」
私は、それ以上何も言えなかった。
その表情は、あの雨の日とどこか似ていて。
何か言えたはずなのに、言葉が見つからない自分が嫌だった。
「そんなこと、ないんじゃないかな?」
不意に、酒井さんが口を開いた。
「え?」
スマホの画面を、私たちに見せる。
そこには、友達がその子と話し合い、これからは協力することになった、と書かれていた。
「大変なことではあるけど、それだけじゃないでしょ?」
「……ああ」
佐藤君は、少しだけ笑った。
「そうだな」
私は、そのやり取りを静かに見ていた。
酒井さんは、自然に人の心を軽くする。
私にはできなかったことだ。
分かっていたはずなのに――
胸の奥が、ちくりと痛んだ。




