濡れてない傘の秘密[観察]
「うーん。分からないな」
「そうだな」
私達はみんなで頭を抱えて考えるが今一つ真相は不明だった。
「まあ、戻ってきたわけだしいいよ」
「まあ、そうだな」
「……いいのか?」
三船君が温かみのあるなんといえばいいのだろうか、まるで繊細なガラスのような優しい目で聞いてくる。
「うん……」
「……分かった」
そうしてその日はみんな解散となった。
そうして私は三船君に家まで送ってもらっていた。
二人の間を雨音だけが満たしていた。
ここで佐藤君なら何か言っているのだろう。
だけど、三船君はなにも言わない。
ただ、それは決して冷たさから来ている物でないと感じる。
確かな温かさのあるものだと。
「なあ」
「なに?」
「もう一杯コーヒー飲みたくないか?」
「え?」
「い、いや。何となく口がコーヒーを欲しているというか……」
三船君は少し顔を背けつつ提案する。
その様子に少しほほえましくなって答える。
「うん。そうだね」
「よ、よかった」
三船君も方から力が抜けるのが分かる。
「心配だったの?」
「そりゃあ、断られるかもって少しは心配するさ」
少しではなかったような気がするが。
そんなことを言わずに私たちはカフェに来た。
店内は静かで意外に雨だが人が少なかった。
「ここにしよう」
「うん」
私達は窓辺を選んで座る。
「ブラックでいいか?」
私は頷き三船君がブラックを二つ注文してくれる。
「飲めるの?」
「い、言っただろ?コーヒーの口なんだ」
目が泳いでいる気はするが面白そうなのであえて無視する。
そうして運ばれてきたコーヒーを二人は一口飲む。
「うっ……」
「ふふ」
やはりきつそうだった。
ただ何となくかわいく思えた。
「なあ、聞かせてくれないか?」
「え、なにを?」
「さっきの傘の話だよ」
「気になっているんだろ。俺に話して解決はしないけど、整理は出来るだろ?」
「何で分かったの?気になってるって」
「……斉木さんはいつもそうやって違和感があるとずっと気にしているからな。解決しないのは気持ちが悪いんじゃないかってな」
「顔に出てた?」
「いや、顔はいつも通りだった。ただの俺のおせっかいだ」
いつにもまして心配そうに聞いてくる。三船君。
それが少し面白い。
「うん。ありがとう。あたりだよ」
「そうか……ならよかった」
そう言ってコーヒーカップの縁をなぞる。
「で、聞かせてくれないか?」
「うん」
私は、改めて頭の中で整理する
名前付きの傘。
盗難ではない。
翌日帰ってきていた。
濡れていない。
悪意はなさそう。
「私は思うんだけどこれは偶然じゃないかってことなの」
「偶然?」
「うん」
私はコーヒーカップを軽く持ち上げて一口飲む。
コーヒーカップを置く音が、店内に反射して響く。
「今回のことは、どう見ても悪意はないと思う。だからほかにあり得るなら偶然しかない」
「そうだな」
「だから私の傘だったのもおそらく偶然」
「見て盗む可能性はないって話だったからな」
「うん」
「と言う事は、取ってしまった人は何らかの事情で傘を間違えたってことか?」
「そうだと思う。ただそこが分からないの。急いでいたとかなら傘が濡れてないのは不自然だから」
「……なるほどな」
店内は凪が来ているように静かで、そこには私たちの話声だけが波のように聞こえていた。私はあまりの静けさに雨がやんでいるのかと窓の外を見る。
外は相変わらず雨が降っていた。
外には雨宿りしている人もいた。そこに車が一台止まる。
雨宿りしている人が車に乗る。
きっと誰か家族や恋人に迎えを頼んだのであろう。
私はその光景から目を離せなかった。




