言えない言葉
「おお、すごいなこれは!」
「ああ、綺麗だ」
目の前には大きな桜の木がある。
まるで春の訪れを祝うかのごとく花が満開だった。
「天気も晴れているし花見日和だな!」
「そうだね」
青が空一面に広がっていた。
今日はいつものメンバーで花見をしようと言う話になり、有名な花見スポットに来ていた。有名な場所なだけあって人はたくさんいる。
人が笑う声や大きな声が飛び交っていた。
その中を佐藤君がずんずん進んでいきちょうど少し離れた桜が見えるところに行く。
「場所、ここにしようぜ!」
「うん。いいね」
「そっち持ってくれ」
「うん」
そうして私たちはレジャーシートを敷き花見の準備をする。
「よし、じゃあいつもどおり楽しくやろうぜ!」
「うん」
佐藤君の言葉を合図にみんな飲んだり喋ったり楽しんでいた。
だけど一人だけ何となく静かだった。
「酒井さん大丈夫か?」
三船君がその様子にいち早く気付き聞く。
「なんでもないよ?」
「そうか。ならいいが…」
三船君の顔は納得している顔ではなかった。
「もしかして、調子悪かった?」
私は小さな声で聴く。
女性にはよくあることなのでそれかもしれないと聞いてみる。
「大丈夫。元気だよ」
「いつでも言ってね調子が悪かったら」
「うん。ありがとう」
そういってにっこりする酒井さん。
酒井さんが大丈夫と言っているのだ。私がこれ以上気にしても仕方ない。
私はそう割り切って花見を楽しむ。
「なあ、みんなで写真撮らないか?」
佐藤君が桜の木の前で手を広げて言う。
「おお、いいな」
「うん」
そうして桜が背景になるように並ぶ。
「じゃあ、誰かに撮るの頼むか」
そういって佐藤君は近くの人に頼みに行った。
そうして待っていると視線を感じる。
そこには酒井さんの視線があった。
「どうかした?」
「あ、えっとね。その、斉木さんはね……」
「おお、すまん。またせた!」
言葉の途中で佐藤君が戻ってきた。
「それじゃあお願いします!」
佐藤君の合図で写真が撮られる。
そうして佐藤君はお礼を言いに行っていた。
その間にさっきのことを酒井さんに聞いてみる。
「ねえ、酒井さん私がどうしたの?」
酒井さんは首を横に振る。
「なんでもないよ」
そういってぎこちなく笑う。
その意味が分からずただ、もやもやしていた。
「なあ、見てくれよ!」
「おお!」
佐藤君が写真を三船君に見せていた。
「ねえ、私たちも見に行こうよ」
「うん」
もやもやしたまま私は佐藤君のもとに行く。
「ねえ、私達にも見せて」
「おう」
そうして見せてくれた写真はみんなが笑顔だが様々な表情をしていた。
喜びの顔。憂い帯びた顔。ぎこちない笑み。迷いの顔。
だが、不思議とその写真は頭に刻まれた。
まるで、何かを訴えるような写真だった。
「いい、写真だね……」
「うん…」
桜は少し夕日の赤が差していた。
「……このままの関係が続けばいいな」
「……そうだね」
私は無意識に答えていた。
だがその問いに三船君と酒井さんは答えない。
「俺は、このままだとは思わない」
三船君は確かな確信を得ているかのようにはっきり断言する。
「私もこのままでいられないと思う」
「……」
佐藤君は少しのどに何かが詰まっているかのような顔になる。
彼にも本当は分かっているのだろう。変わらないもの。そんなものはない。少しづつ変化し変わっていく。それが現実だ。だが、彼は変化を異様に恐れている。
「彩人は変化が怖い?」
「……ああ」
「私もだよ」
そう彼女も彼も知っている。
変わる現実を。
「……でもね、私決めたの」
「……なにをだ?」
「変化を恐れないってこと」
酒井さんのその目には覚悟が見て取れた。
命短し恋せよ乙女。
まさにそれが当てはまりそうな雰囲気だった。
「……そうか」
「……うん。ごめん」
「ばか、あやまるな……」
二人の間には春風が吹いていた。
いや、春風だけが満たしてくれていた。
春風がやみ沈黙が残る。
それを打ち消すかの如く三船君は話す。
「どうなっても俺は二人の友達だから、悔いのないようにしよう」
「雄一……」
「三船君……」
彼の目はその時だけは迷いがなかった。
彼は優しい人だから、納得だ。
それが少し悲しくて、つぶやく。
「三船君も悔いのないようにやり切ってほしい」
「……ああ」
そのつぶやきは確かに三船君に届いていた。
風が私たちを包むかのように桜の香りを運び、鮮明に記憶に焼き付ける。
きっとこの日は分岐ではない。
前に進む日だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この話で一年生編は一区切りとなります。
正直に言うと、
この作品がこの先どこまで進めるかは、
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二年生編から、物語はもう一段深いところに踏み込みます。
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