重なる気持ち
「ここが、美幸の家だよ」
佐藤君が指さした先には、大きな一軒家があった。
思わず足を止めてしまう。
「……立派だね」
「で、隣が俺の家」
そちらも同じくらい大きい。
私の住んでいる安アパートとは、あまりにも違う。
佐藤君は慣れた様子で酒井さんの家のインターホンを押した。
「はい」
「あ、おばさん。俺です。彩人です」
『あら、彩人君。ちょっと待ってね』
すぐにドアが開き、綺麗な女性が姿を現した。
「今日はどうしたの?
……あら、そちらの方は?」
「ああ、クラスメイトの斉木さんです。
美幸に用事があって」
「うふふ。本当に仲がいいわね。
美幸なら部屋にいるから、上がってちょうだい」
「ありがとうございます」
「お邪魔します」
私たちは家の中へ通された。
⸻
二階の部屋の前で、佐藤君がノックをする。
「はーい。……お母さん?」
ドアが開いた瞬間、酒井さんは固まった。
「……え? 彩人?」
「おう」
「どうしたの?
今日は用事があるって一人で帰ったんじゃ……」
私を見る。
「……まさか、浮気!?」
「ち、違う!
誰が彼女の家に浮気相手連れてくるんだよ!」
正直、そう見えても仕方ない。
「初めまして。
斉木光といいます。佐藤君のクラスメイトです」
「……は、初めまして」
「今回は、佐藤君から相談を受けて、
確認のために来ました」
「確認……?」
「俺が話す」
佐藤君は一歩前に出て、酒井さんをまっすぐ見た。
私は、その横で黙って聞いていた。
「……見られてたんだ」
「ああ」
「……ごめんなさい」
酒井さんは深く頭を下げる。
「理由、聞かせてくれないか?」
沈黙。
二人とも、言葉を探している。
その間に、私は口を開いた。
「確認なんですが……
三船君に、相談していたんですよね。
佐藤君とのことを」
酒井さんの肩が、わずかに揺れた。
「……どういうことだ?」
「おそらく、佐藤君と同じだったんです」
「俺と?」
「はい。
酒井さんは、佐藤君との関係が壊れるのが怖かった」
「……どうして?」
「気づいていたんだと思います。
佐藤君が、無理をして付き合っていることに」
佐藤君が息を呑む。
「……本当か? 美幸」
「……うん」
酒井さんは、ゆっくり話し始めた。
「最初は嬉しくて、全然気づかなかった。
でも……だんだん、彩人が無理して笑ってるって分かって」
「……ごめん」
「いいの。彩人は悪くない」
酒井さんは首を振る。
「でも、気づいてしまったら怖くなったの。
元に戻れなくなる気がして……」
「だから、三船君に相談したんですね」
「うん。
一番早く、異変に気づいてくれたから」
「……でも、何で雄一の家だったんだ?」
「人に見られない場所で、
佐藤君に気づかれない場所だと思ったんですよね」
「……うん」
「それでもリスクがあると分かっていたはずです。
でも、それ以上に――
関係が壊れる方が怖かった」
「……ごめんなさい」
酒井さんは泣き出した。
佐藤君は、そっと彼女の頭を撫でる。
「いいんだ。
元は俺が悪かった」
「違う! 私が無理させたから……!」
「違うよ。
俺が、ちゃんと向き合えてなかった」
二人の間に、静かな時間が流れる。
「……悲しいすれ違いだっただけだと思います」
私は、静かに言った。
「お互い、こんなにも大事に思っているなら。
大丈夫です」
「……斉木さん」
佐藤君は、酒井さんに手を差し出す。
「改めて……幼馴染として、仲良くしてくれるか?」
「……うん!」
酒井さんは泣きながら、その手を取った。
私は、その様子を少し離れたところから見ていた。
理解できても、寄り添えないことがある。
それでも、人の心は確かに動く。
私は、そんな二人を静かに見守っていた。




