バレンタイン狂騒曲[違和感]
「はあ」
夕日が差してきていた放課後。
佐藤君は盛大にため息を吐いていた。
「この季節が来たな…」
「この季節?」
「ああ、バレンタインのことだよ」
「バレンタインが嫌なの?」
「そりゃ、嫌いにもなる……毎年毎年知りもしない女性から告白を受けていたらな…」
ああ、なるほど。
モテるからこその悩みと言うやつだ。
「お前はいいだろ別にモテてるんだから」
これまた盛大にため息を吐いていた。
「三船君はモテないの?」
「俺がモテるように見えるか?」
自分を指さして自虐する。
「うん」
「そうだよなそんな……」
三船君は固まっていた。
「聞き間違いか?肯定してなかったか?」
「聞き間違いじゃないよ。モテると思ってた」
「……」
三船君は少し口が開いたままその場で固まっていた。
「ふふ、不思議でしょ?」
「酒井さんもモテると思ってたのか?」
「うん。だって優しいし誠実だし女子に持てる要素だらけだよ?」
「い、いや!俺は知っている!女の子は少し危ない男が好きなはずだ!」
「それ誰情報だよ?」
「……か、母ちゃん……」
一瞬場が静まり返る。
だがすぐに笑い声であふれる。
「ぶはは、雄一、母さんの言う事真に受けたのか」
「ふふ、純粋だね」
「うん。純粋だ」
三船君は顔が赤くなってうつむいてその場で体育座りをする。
「…死にたい…」
「まあ、気にすんな嘘ではないと思うぞ?」
「そうだよ。全員ではいけどそういう男性が好きな人もいるよ?」
「ほ、本当か?」
「うん。だから元気出して」
そう私が言うと体育座りをやめて立ち上がる。
「……元気が出てきた」
顔にはいつもの元気さが戻っていた。
「それでいいの?」と聞きたかったがあえて言わない。
なぜなら今の三船君の方が私の心はいいと言っているから。
「じゃあ、そろそろ俺行くから」
「どこに行くの彩人?」
「ラブレターもらったからそれの返事しに行く」
佐藤君はやはり誠実で真面目だ。しかもイケメンだ。
それはモテるわけだ。一つ一つ丁寧にお断りしているのだから不評が立つこともないのだろう。
「わかった。じゃあ私たちは校門で待ってるね」
「すまん。助かる」
そうして佐藤君は去っていった。
「じゃあ校門に行ってるか」
「そうだね」
私と三船君は教室を出ようと歩き出す。
「ごめん。私少し気になるから先に行ってて」
「うん……分かった」
私は返事をして三船君とこう喪に向かって行く。
「……やっぱりまだ好きなんだな」
「……そうだね」
少し低い声が強い声で話す三船君。
その声には少しの未練や彼なりの前に進む意思が感じられた。
「……なあ、斉木さん」
「……なに?」
「もし俺が彼女のことを忘れてすぐほかの女の人を好きになったら軽蔑するか?」
その少し震えた声に私は答える。
「思わないよ。絶対」
静かだけど確かに意思を込めて安心してほしいと、味方だと伝えたくてはっきり伝える。
「そうか……」
彼は何もしゃべらなくなる。
ただその沈黙した空間はとても暖かい気がした。
そうして三船君と校門で待つこと30分後佐藤君たちは戻ってきた。
だけど彼の表情は少しむすっとしていた。
「どうしたんだ?」
「……来なかった」
「相手が?」
「ああ、しばらく待っていたんだけど誰も来なかった」
「私も心配でつい陰から見てたんだけど誰も来なかったよ」
「……それもやめてくれ」
「ごめん……」
空気は重く連なっているようだった。
空気を換えるため私は言う。
「いたずらだったかもしれない。気にしないでおこう」
「ああ、そうだな」
そうしてその日はみんなで帰った。
そして翌日。
「佐藤君女の子たちが呼んでるよ」
「うん?分かった」
佐藤君が教室の入り口に行く。
遠くて聞こえないが何やら女の子たちは怒っているようだった。
一方的に責められているようだった。
次の瞬間女の子が佐藤君にビンタをした。
教室に響く音が反響していた。
「最低!」
そう言って女の子たちは去っていった。
教室は一瞬静まり返る。
だが、すぐに喧騒が戻ってくる、
佐藤君は混乱しているようだった。
おぼつかない足取りで戻ってきた。
「どうしたの彩人?」
「いや、分からないんだ。まったく」
本当に全く分からないのか首をかしげていた。
「なにがあったの?」
「あ、ああ。どうも女の子たちが言うに二人は待ち合わせの時間に待ち合わせの場所の校舎裏に来てたのに俺が来なかったって言うんだ」
二人?
ラブレターは一通だったはずなのに。
それに校舎裏といってもこの学校には校舎裏は二つある。新校舎と旧校舎だ。そこも引っかかる。
「え?彩人ずっと待てたよね?」
佐藤君の顔はあの雨の日を彷彿させた。
「落ち着いて佐藤君」
「……ああ」
少なくても彼は悪くないはずだ。
私はそれを証明するために思考をめぐらす。
彼は嵌められた。
私はそう感じていた。




