親友の謎[観察]
私たちは場所を変え、駅前の喫茶店に入っていた。
夕方の店内は静かで、人の視線も少ない。
「それで、相談事って?」
私がそう切り出すと、佐藤君は少し視線を伏せた。
「ああ……実は、あの雨の日に偶然見たんだ。
親友の三船雄一と、俺の彼女――酒井美幸が、雄一の家から出てくるのを見たんだ」
一瞬、言葉を失う。
「……二人に、確認はしたの?」
「いや。怖くてできてない」
それも無理はない。
真実を知るのが怖くなるのも当然だ。
「俺、分かんないんだ。
何がいけなかったのか……」
佐藤君は一度言葉を切り、続ける。
「美幸とは幼馴染でさ。
告白されたのは、高校に入ってからだった」
私は黙って聞く。
「正直、最初は断ろうと思った。
でも……関係が壊れるのが怖くなって」
——壊したくない関係。
「で、付き合った。でも……
好きって気持ちが、いまいち分からなかった」
彼は自嘲するように笑った。
「恋人らしいことも、できてなかったと思う。
だから浮気されても、おかしくないって思った。
……でも、それよりも」
声が少しだけ震える。
「二人に裏切られたって思ったことの方が、きつかった」
感情が絡み合い、整理されていない。
でも、話は嘘じゃない。
「……まず、状況を整理しよう」
「今さら考えても、仕方ないだろ」
私は首を振った。
「まだ終わってない」
「どういうこと?」
「私、人間観察が得意なの」
唐突だったせいか、佐藤君は戸惑った顔をする。
「……いい趣味だね?」
「無理に褒めなくていいよ。
自分でも、あまりいい趣味じゃないって分かってる」
一呼吸置いて、私は続けた。
「私から見て、不思議な点がいくつもある」
「そうか?」
「うん。
まず、三船君は酒井さんのことが好きってこと」
「えっ!?」
「……気づいてなかった?」
「あ、ああ……」
意外そうな反応だった。
恋愛に疎い、という言葉を思い出す。
「それで、もっと不思議なのがね」
私はカップを指でなぞりながら言葉を選ぶ。
「酒井さんは、佐藤君のことが本気で好き。
一目で分かるくらい、好意が隠れてないってこと」
「……確かに」
普段から感じていたのか佐藤君も同意のようだ。
「なのに、そんな彼女が
どうして三船君と彼の家にいたのか」
佐藤君は黙り込む。
「脅されていた、って可能性も考えたけど……」
「それはない!
雄一はそんなことしない!」
即答だった。
「うん。私もそう思う」
「え?」
「彼は普段、とても誠実。
酒井さんに触れないよう、距離まで気にしてる」
「……そうだな」
「そんな人が、無理矢理何かをするとは考えにくい」
佐藤君は、静かに頷いた。
「だから私は――
まだ真相は、分かってないと思ってる」
「……ごめん。俺、冷静じゃなかった」
「うん。でも、希望はある」
「じゃあ……何で雄一の家から出てきたんだ?」
私は、今まで出てきた言葉を頭の中で並べた。
幼馴染。
誠実。
彼女を想う親友。
人目を避けたい場所。
恋人らしくない関係。
不安と焦り。
そして――壊したくない関係。
私はコーヒーを一口飲んだ。
「ねえ、佐藤君。
この悩み、二人には話してないよね?」
「ああ。誰にも言えなかった」
「……分かったかも」
「本当か!?」
「うん。あくまで予想だけど」
「真相は?」
私は立ち上がる。
「今から、酒井さんに確認しよう」
「えっ?」
「それで分かるから」
佐藤君は、しばらく言葉を失っていた。




