破かれるドレスと破れる恋[観察]
「どうして……」
酒井さんの顔に色がない。
それを見て佐藤君が駆け寄る。
「大丈夫だ。予備がある」
「でも、せっかくみんなが似合うのを選んでくれたのに……」
「誰も怒らないし、美幸に何か害になることがなかったんだからみんな納得してくれる」
「そうだよ。大丈夫」
「おお、気にすんな」
クラスのみんなが慰めている。
それを私は静かに見守ることしかできない。
いや、できなかった。
「ちょっといい?」
私は破かれたドレスの近くに行って裂け目を確認する。
それを見た瞬間、胸がもやもやした。
「どうした?斉木さん」
「佐藤君……これは人為的なものだよ」
「ああ、かもしれないな」
「なら!犯人を捜さないと!」
私はらしくなく声が大きくなっていた。
「斉木さん。落ち着こう。犯人捜しはいったん後だろ?」
佐藤君は私の肩に手を置き目を合わせて静かに言う。
「……ごめん」
私は落ち着くために教室の外に出る。
頭を冷やすために私は中庭の椅子に座っていた。
「ほい」
佐藤君が温かい飲み物を渡して呼びかけてくる。
「……ありがとう」
「どうしたんだよ?」
「分からない……ただ、許せなかったの犯人が」
強い風が私の髪をなびかせる。
「怒っているのか?」
「怒っている?」
「ああ、斉木さんは優しいから友達の衣装を破かれて怒ってるんじゃないのか?」
「私が優しい?冗談だよね?」
「うん?冗談じゃないぞ?」
「でも私は酒井さんに何の慰めの言葉もかけられなかった……」
木から枯れ葉がひらひら地面に落ちていく。
「そうだな。でも優しさってなにもそれだけじゃないだろ?」
「そうかな……」
「……初めて斉木さんと会った日。あの雨の日に俺は斉木さんの勇気に、そして優しさに俺は救われた。確かによくわかる優しさではないかもしれない。でも確かにそれも優しさで斉木さんにしかない特別なものだと思う」
雲の間からは光が差し徐々に目の前を明るくしていく。
「だから、諦めないでくれ。自分のことを信じてあげてほしい」
その言葉に、視線に、そして行動に私のもやもやは晴れていった。
「ありがとう…」
「おう」
そうして少し休憩して私はまた教室に戻ってきた。
そして改めて破かれたドレスを確認する。
「やっぱり人為的だね?」
「そうみたいだな」
「衣装が管理されていた教室の鍵は私たちが先生のもとに取りに行っていたからそれ以外の人は犯行が無理」
「てことは内部の犯行なのか?」
「……正直それしかないけど、でもそれはないと思う」
「理由は?」
「あまりにも犯行動機がなさすぎるの。今回は私たちが主催でしかもみんな酒井さんに感謝していた」
ミスコンに、心から出たい人は少ない。
酒井さんもそうだった。主催側から誰も出ないのは問題だからとみんながお願いして出てもらうことになったのだ。
そんな、みんなに酒井さんを陥れる動機などあるとは思えない。
「どうする?」
「気になっていることがある」
「うん?なにが気になってるんだ?」
「出場者たちが気になってるの」
「出場者?」
「うん。ミスコンのドレスが破かれた。つまりミスコン出させないように」
「自分が優勝するためにっていうことか?」
私は静かに頷く。
「うん。仮に予備があっても酒井さんに似合うかは分からない。そこまで考えてやった可能性は高いね」
「計画的ってことか……」
佐藤君は何か考えているのか腕を組んで唸っていた。
「もしかするかもしれないな……」
「どういうこと佐藤君?」
「美幸に個人的に嫉妬していて優勝したいってやつには心当たりがある」
「……知り合い?」
「ああ、俺の一つ上の先輩の三上翔子さんだ。彼女は俺に告白してきてくれたんだけど、その時は美幸と付き合っていたし断ったんだ」
彼女のことは私も知っている彼女は美人で有名だ。
佐藤君は少し影を顔に残して続ける。
「ただ、そのあと美幸は呼び出されて別れてくれないかと言われていたらしい。それを俺が聞いて先輩にやめてくれるように言ったんだ。その場は大人しく了承してくれたんだが、美幸が俺にそのことを言ったことにすごく腹を立てていたらしい」
「つまり逆恨み?」
「ああ、それもあると思う。けど、その……」
佐藤君が顔を背ける。
「うん?どうしたの?」
「えっと、なんというかその……」
はっきりしない。
「男でしょ?はっきりして」
「は、はい!」
佐藤君は背を正して深呼吸をして言う。
「実はミスコンに真剣に出てもらうために条件を出されていて。その条件がもし優勝したら付き合ってくれってことになっているんだ」
二人の間に重い沈黙が流れる。
「佐藤君?」
「は、はい!」
私はこめかみがはちきれそうだった。
「何でそんな条件飲んだの?」
「えっとなんというか……」
佐藤君の声が尻つぼみに小さくなっていく。
「はっきり」
「は、はい!斉木さんの期待に応えたくて飲んでしまいました!」
「はあ」
私は深い溜息を吐く。
「つまりかっこつけたかったの?」
「はい……」
「あのね佐藤君。佐藤君はは十分かっこいいから頑張らなくていいと思うの」
「い、いや……」
「思うの」
「はい……」
私は一呼吸置き続ける。
「はあ、今回のことは私と佐藤君が原因みたいなものだね」
「はい……」
終始佐藤君は落ち込んでいた。
「良かった。ここまで来たならあとは大丈夫」
「え?犯行方法は?どうやって教室に入ったんだ?」
「それは分かるよ。普通に鍵を先生からもらって入ったんだと思う」
「え、あの人が来たなら美人だし先生も分かるから外部の人間には鍵を渡さないと思うんだが?」
「美人だからこそなんだよ」
美人というのは人に強い印象を与える。
だからこそできることだったのだ。
「どういうことだ?」
「ついてきて」
「え、ちょっと待ってくれ!」
そういって私は衣装が管理してある教室に行く。
今の時間はみんな準備に忙しくて誰も入らない。
「なにをしているんですか?」
「!?」
私は教室に入ろうとしていた生徒に声をかける。
佐藤君は困惑して言う。
「え、君は誰?」
そこにはこのクラス名簿にない生徒がいたのであった。




