夏祭り前編[違和感]
夕方の駅前。私は友達を待っていた。
「あ!斉木さん!」
「酒井さん。こんばんは」
「うん!斉木さん浴衣可愛いね!」
「う、うん。ありがとう。酒井さんも似合ってるよ」
「ありがと!」
私は眉がぴくぴくしていた。
言えるわけがない。お母さんが張り切って用意しただけだと。
初めは普段着で行くつもりだったのだから。
そんなことを知らない酒井さんは笑顔が絶えない。
「おーい!」
「すまない。待たせたな」
三船君の声に振り返る。
「全然待ってないから大丈夫。ね、斉木さん」
「うん」
三船君の視線はどこか落ち着かず、あちこちを見渡していた。
「よ、よく似合ってる、酒井さん」
「うん!ありがとう!」
「ああ、よく似合ってるな」
佐藤君も笑顔で褒める。
酒井さんは嬉しそうに顔を輝かせる。
そして、ふと佐藤君の視線がこちらに向く。
私は少し息が詰まった。
「おお!斉木さんも似合ってるな!新鮮だ!」
「そうだよね!」
「おお、確かに新鮮だな!」
みんなに褒められて、のどが渇いたような感覚になる。
「ありがと」と小さく言う。
その後、私たちは夏祭りの会場へ向かう。
雑多な人波、熱気、歓声――全てが入り混じる場所だった。
「わあ!すごいね!」
「ああ、この感じ久しぶりだな」
「去年は受験で行けなかったものな」
私は黙って頷く。初めての夏祭り。
けれど、受験のことは口にしない。
「さあ、遊ぼう!夏祭り!」
そうして行動を開始した――はずだった。
「ここ、どこ……?」
迷子になった私は冷静に考えようと、道端に立つ。
「お母さん!!」
小さな子供が私の浴衣を掴んできた。
顔を見て母親でないとわかると、泣き出す。
「大丈夫、泣かないで」
私は壊れ物に触れるように、そっと子供の頭を撫でる。
「ぐすぐす、お母さんどこ?」
「お母さんはどんな人なの?」
「かいじゅうしろ!」
「う、うん?」
「かいじゅうしろ?」
頭の中で言葉がぐるぐる回る。
「それはなに?」
「かいじゅうしろ!」
「うーん……」
とにかく、他の情報を聞こうとする。
「ほかには?」
「ぷかぷか!」
こめかみに手を当てる。
「あ、風船か」
「うん!」
子供は思い出したようにうなずく。
「つまり、怪獣は白で、風船もある……ってこと?」
「うん!」
でも混乱は深まる。
周りには白い風船がたくさん。どれが本物なのか分からない。
指をさして聞いても、違う、と首を振られるばかり。
「どういうことなんだろう……」
もう一度聞く。
「ねえ、もう一回言ってくれる?」
「うん。かいじゅうしろ、ぷかぷか」
頭の中で整理しようと試みる。
怪獣白、風船……まだ足りない。
「ねえ、他には?」
「みどりかめんらいだー!」
緑の仮面ライダー……さらに混乱する。
胸の奥で小さな焦りがチクリとした。
これだけでは、まだ謎は解けそうにない。




