後日談 泳げないはずの男
私たちは多田君の様子を見に、救護室まで来ていた。
「あの、先ほど運ばれてきた男性のクラスメイトなんですが、容体はどうですか?」
「ああ、彼なら先ほど目を覚ましたよ。大きな問題はないようだから、大丈夫だ」
ほっとする。
私は一安心した。
「面会できますか?」
「ああ、もう大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます」
私たちは奥の部屋へ進む。
そこには、ベッドに横になっている多田君がいた。
「多田、大丈夫か?」
「うん? 佐藤か?」
起き上がろうとする多田君を、佐藤君が手で制す。
「そのままでいいから」
「ああ、すまない」
「実は、たまたま俺も友達と来ていてさ。お前が溺れたって聞いて、様子を見に来たんだ」
「おお、ありがとう。少し水を飲んだみたいだけど、大丈夫だよ」
「よかった」
二人のやり取りを見ていたが、多田君は少ししんどそうではあるものの、大きな問題はなさそうだった。
「なあ、少しだけ聞いてもいいか?」
「ああ、いいよ」
佐藤君は、先ほど私が話した推理の内容を多田君に伝える。
「――ってことを考えてたんだが、合ってたか?」
「お、おお。そのまんまだよ。すごいな」
仮定は外れていなかったようだ。
だが、私は最後に一つだけ気になっていたことを聞く。
「多田君。私、同じクラスの斉木光なんだけど……一つだけいい?」
「ああ、いいよ」
「多田君は、どうして水深が変わるっていうアナウンスが聞こえなかったの?」
「それは簡単だよ。俺、プールの真ん中あたりにいたからさ。周りの声がうるさくて、聞こえなかったんだ」
私はその理由に納得した。
「確かに、結構うるさかったからな」
「うん。私も斉木さんの話を聞くまで、アナウンスのこと知らなかった」
「俺もだ」
みんなも同じだったようだ。
「まあ今回は、俺がちゃんと調べてこなかったのが悪かったんだよ。テレビで見て飛びついて、よく調べずに来ちゃったからさ」
「そうだな。気を付けないと、日常生活の中でも危ないことだらけだな」
「そうだね」
「ああ」
日常。
それは確かに、同じことの繰り返しが多い。
だが、誤った知識や無知だった場合、いつでも私たちに牙をむく獣なのだろう。




