【1-2-5】
「……貴方が首領であってる?」
「ああ。いかにも」
彼は結局私が近づくまで逃げることはなかった。どうやら亜族、それも獣人族のようだった。
「俺からも聞かせてもらおう。お前はなんだ? 遠目から見ていたがあんな技など見たこともない」
「私? 私はー、ただの冒険者だよ」
スーニャといえば一発で伝わるだろうか? ただまさかミームを殺した元凶であるなどと言えるはずもない。
「……言うつもりもないか。あの技はあのミーム様やガブリエットが使ったというものに酷似していた。まさかそんな関係がここにいようとは思わんが、まさかな」
わーお。まさかこの人がそんな事まで知ってるとは。元軍属かもしれないとは聞いたがそれなりの地位だったのではないだろうか。
「……私も貴方が何者か聞いていいかな?」
「お前が答えないのに、こちらには答えろと?」
まあそりゃそーだ。こっちだけ聞くというのは都合が良すぎか。
「いーさ。俺は見ての通り獣人族の生まれだ。仲間達もな。戦争が終わって生き残っちまったロクでなしだ」
「……軍の所属だったってこと?」
「いや俺らは元々根無草さ。傭兵稼業をしてたんだがな。今はもうこの通り野盗の仲間入りだ」
『ただこれでもそれなりに名も通ってたんだぜ?』確かに先ほどの彼らの動きを見るに疑う余地もなかった。
「……なんで、野盗なんかに?」
そんなことをせずとも彼らほどの実力なら引く手数多だろうに。
「あー? そりゃそうだろ。もう戦争もない。傭兵なんて必要ない。とすると生きてくには他から奪うしかないだろ?」
「ほら獣人族の里に戻るとか、私みたいに冒険者になるとか、他の選択肢もあるんじゃないの?」
「そんな簡単に受け入れられるもんじゃないさ。それに、冒険者になるには俺たちは荒くれ過ぎでね」
笑みを浮かべた牙がキラリと輝いている。
「結局、血がみたいのさ。だから失ったはずの戦いを求めてる。お前みたいのに会えたのはむしろ幸運だな」
「……幸運でなく不運だったかもだけど?」
「ハッ。それは自分で確かめるさ」
彼は手元に抱えた鞘から剣を抜く。それは前世における日本刀に酷似していた。
「そろそろ始めるか?」
私が頷くと同時に、彼は私へと突進してきた。
彼は獣人族であるが、攻撃は斬撃によるものが主体だ。ただそのスピードが異常に速い。こっちは避けるのに精一杯になる。攻撃されても問題の無い身体ではあるのだが、一応今は身を隠しているわけであるし目立つ事は控えておきたかった。
それであればと私は身体に魔素を込める。力が神経を通して身体の隅々に直接流れ込んでくる。久方ぶりの感覚に身体が震えた。
彼は私の様子に違和感を感じたのか、距離を取り様子を伺っていた。こちらとしては都合がいい。時間も無いのだ。早急に終わらせないと。
魔素に幾つかの使い方がある。その中の一つが身体の強化だ。
私は剣を取り出し彼へと向ける。彼は警戒しつつも、先ほどと同じように私へと攻撃を仕掛けてきた。今度はその動きが一挙手一投足までよく見える。私は彼の攻撃を交わしつつ攻撃の隙を探す。
明らかに私の動きが変わった事を受け、相手は一瞬動揺を露わにした。
「――油断、だね」
私の剣が彼の心臓を貫く。彼は信じられないと驚愕な表情を浮かべていた。
「……ゴホッ。お前、本当に何者だ? この俺が少しも動きが見えないだと?」
「言ったでしょ。ただの冒険者だって」
「ゴボッゴホッ。ああそうかよ。ったく。こんな所でこんなあっさり終わるとは。……あ? その赤い髪その強さ。いやまさかお前、スーニ――」
その言葉を言い切る前に剣を引き抜く。貫通した傷口からは血が溢れた。
「その反応、やっぱりそういうことか! ハハハッ! ああお前が相手なら不足ない! いい土産話だ!」
「……ったく。まあいいか。仕方ない」
彼は笑いながらに程なくして息を引き取った。しかし、これから先は咄嗟の反応も気をつけないようにしないと。
「スタン? 待たせたね」
「あ! リムさんご無事でしたか。首領も倒されたんですね!」
「うん。こっちも大丈夫そうだね」
私はすぐ野営へと戻った。親玉を相手にしている間にスタン達が部下達を倒してくれていたらしい。
「ええ。多少犠牲は出ましたが依頼主達や積荷も無事ですよ」
『リムさんのおかげですね』と言われ、そんなことないと返す。ただ無事戦いも終えたし、あとは目的地まで送り届けるだけか。
「あ、そういえば連中積荷を持っていたらしいですよ?」
「積荷?」
「ええ。何か金目のものでもないかってもう皆んな確認しに行っていますが、リムさんも興味があればどうですか?」
えそういうのもありなのか。もし何か貰えるのであれば、それは是非とも受け取りたい。『あちらの方角のようですよ』とスタンから聞き私は足早に向かう。
向かった先には、確かに幾つかの荷車があり数人の冒険者達が先に戦利品を探しているようだった。
こういうのって勝手に取っていいものなのか? と疑問が無いわけでもないがそこは暗黙のルールなのだろう。
私はまだ誰も踏み入れていない様子の荷車の中へと入る。予想に反して中はガランとしていて、何か荷物があるわけではなかった。ただ一人人族の少女がチョコンと隅に座っていた。
「……えっと? 貴方は?」
彼女は私に答えるでもなくただこちらを見ている。薄金色の髪に蒼い瞳が美しい。将来有望そうな女の子だ。
「恐がってるのかな? 大丈夫だよー。危なくないよー」
我ながら不恰好だ。今まで少女と接する機会はあったもののそれは特殊な人たちばかりで、この子のような普通の子と接する機会はなかった。
「まさか野盗の仲間じゃないだろうし人攫いにあったのかな?」
彼女はそれでも反応しない。思えば自分の身体には血も付いている。警戒されても仕方ないだろう。
「ね? 私はリムっていうんだ。貴方の名前は?」
警戒がとけるよう極力穏やかな声を心がける。彼女は口を開くも声を発することはなかった。
「あーやっぱり難しいよね。でも大丈夫だよ。何か酷い事をするつもりはないからさ」
それならと出て行こうとする私に対して、彼女は首をフルフルと横に振った。
「ん? なにかな?」
また彼女は口をパカパカと開き、両手でバツを作っている。そして再度顔を振っていた。
「……もしかして、喋れない、のかな?」
コクコクと頷く。そうか彼女は反応していなかったわけではない。元々声を発せられなかったのだ。
「そっか。じゃあ名前を聞くことはまた今度だね。ひとまず――」
彼女は私の手を取る。何事かと身構えてしまったが彼女は人差し指で私の手の平に文字を描き始めた。
「――り、い、ざ?」
彼女はコクコクとまた頷いている。
「そうか。リーザっていうんだね」
ここにきて初めて彼女は笑顔を見せてくれたのだ。
これがリーザとの初めての出会い。彼女は彼らに攫われ閉じ込められていたようだった。さらにいえば彼女は過去の記憶も無くしているらしく、覚えている事といえば自分の名前だけ。
そんな状況のために、ひとまずは孤児院に渡すという話もあった。ただひょんなことから私が彼女の身請けをすることになったのだ。
そこからはクエストの日々。借金のために不自由もあるだろうが、それなりには二人楽しくやれていると思っている。
「ほら、リーザ今日のクエスト行くよー」
後ろからパタパタと追いかけてくるリーザの姿が視界に映る。さて昔を思い出すのはやめて、今日も労働に汗を流すことにしますか。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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