【1-2-3】
「……今日は薬草集め。終わったら外壁の修復。明日はペットの捜索。それでその次は――」
指を折りながら予定を確認する。はぁ〜とため息をつく。出稼ぎが始まってからいったい何回溜息をついたろうか。
あの一件以来、借金返済に追われた日々だ。リムさん達は言う通り協力はしてくれず、私は一人慣れないクエストをこなした。
『住まいだけはこちらで用意したんで使ってもらって構わんですよ。ただもし逃げ出そうものなら、分かってますよね?』とマーニャさんには再三念押しをされた。
逃げた時には即刻スーニャとしてマグシアに通報するだとか。家を見繕ってくれたのはありがたいが、私が逃げずにいることを確認する意味もあるのだろう。こっちからするとある意味では牢屋だ。
「あーあー、まったくもう。お酒が美味しい毎日だこと」
家から近くにある酒場は瞬く間に私の行きつけになった。値段も手頃で料理は美味しい。仕事帰りには大体ここにきていた。
「大将、もういっぱい追加でー」
「……ん」
グラスを掲げてヒラヒラと振る。ここの良いところは大将が寡黙でほとんど干渉もしてこないのだ。こちらの様子を気にも留めてないようだし遠慮なしにくだを巻くことが出来た。
「んっ、んっ、ぷはぁー。あーうまい」
これが労働の喜びというやつか。前世ではテレビで見るくらいしかなかったが、サラリーマンが何故あんなにもお酒を飲むのか今となっては理解出来た。
「……あー、なんか良い稼ぎ口ないかなあー」
「おー? なんだ? こんな所に見慣れねえヤツがいるな? こっち来て酌でもしろや」
「あ゙ー?」
入ってきたのは見るからにならず者といった風貌の男達。若干赤ら顔であることから、すでに酒も入っているのだろう。
「なんだよ可愛い顔してんじゃねえか。今晩付き合えよ? なぁ?」
首にはギルドの飾りがぶら下がっている。あの模様は確かDランクの印だ。……こんな奴でも私よりも上のランクなのか。納得いかない。
「なんだよ怖がっちまったのか? 大丈夫だって。ちょーだっとだけ俺たちと仲良くしてくれりゃいーんだからさ」
ギャハハと笑い声が響く。せっかく良い気分だったのに全くもって台無しだ。
「……あー、アンタ達? 冒険者でしょ?」
「お! なんだなんだ。もしかしたらお前もか? なら同じパーティに入れてやるよ。なーに戦いは俺たちに任せりゃいいさ」
こういう奴らって本当にいるんだなぁと怒りを通り越して感心する。
「じゃあさちょっと話聞かせてよ。ここじゃなんだから場所も移してさ」
「お! なんだよ乗り気じゃねーか! いいぜいいぜ!」
大将にお勘定だけ渡し店の外へと出る。大将は大丈夫か? と言いたげな表情ではあったが、問題ないと手をヒラヒラとさせ伝えた。
「それでそれで? 近場の宿だったらさ――「――いいからそこの路地裏にまずいこうか?」
『おいおい随分と大胆じゃねーか!』と口笛を鳴らし私の後をついてくる。
「……よしここなら、誰にも見られないだろ」
「ああここならバッチリだ。まさかこんな奴に会えるなんて今日はツイて――」「――で、私が呼び出した理由はね?」
私はさっきから頭だって喋っていた男の口を掴む。私の雰囲気が変わった事、そして私の腕を振り払えない事に男達は驚いていた。
「なんかさー、良いクエストとかないかな? 私どうしてもお金が必要でね。見ての通りにFランクなんだけどさ、高ランクのやつは受けたくても受けれないし」
私は自分の首飾りを男達に見せる。
「アンタ達が知ってるわけないとも思ったけども、藁にも縋りたい状況なわけ。ね、何でもいいから情報ない?」
「……んな事より、まずその手を離せや!」
後ろに控えていた男達がそーだそーだと声が上がる。屈強な男達が徒党を組んでいるのだ。それなりに迫力があるものだがいかんせん私には通用しない。
「で? 何かある?」
「……舐めやがって。容赦しねーぞ!」
その声と共に男達が武器を持ち始める。こんな所でそんなものまで、と思うが彼らは本気のようだった。
「あーひとまず黙ってくれる?」
空いている手で彼らを指差し、下へと向ける。それだけで彼等は急に地面へ倒れ伏す。倒れたというよりは押さえつけられたかの様子だ。言うまでもなくそれは私が魔素を使って圧力を掛けたものである。命まで取る必要もないが喧しいので喋られない程度の強さにはしていた。
「!?」
私が直接押さえつけていた男は再度驚愕の表情を浮かべている。ただそんなことは関係ない。私はただ情報が欲しいだけなのだ。
「やっとゆっくり話せそうだ。で、何か知ってるかな? 知らなくても何とか引き出してよ?」
こちとら折角のご機嫌タイムが邪魔されたのだ。多少キツく当たったって致し方ないだろう。
その後、彼から無事情報は得ることが出来た。どうやら近々ある行商の護衛クエストが出るらしい。通常そんなクエストはFランクでは参加出来ないが、今回は頭数を集める必要があり私も参加資格があるのだとか。
予定している進行ルートには、最近野盗の一団がでているらしく、迎撃のためにとにかく数を集めているらしい。さらにもし相手側の首領を討てば特別ボーナスも出るとのこと。
「おっけー。いい情報ありがと」
彼等をみな解放してやる。途端に男達は青い顔をしながらに走り去っていった。
折角なのだ。私も一口乗させて貰おう。そのクエストに参加できるように予定も調整しとかないと。
「――まあ、まずは飲みなおしかなー?」
そうしてまた酒場に戻ると、大将は相変わらずの無表情だったが、若干苦笑いを浮かべたように思えた。
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