【2-1-1】黎明
この世界に生まれてからの出来事は全部覚えている。初めて見た世界の様子もお母さんの顔も、それ以外も全てだ。
私は祝福されて生まれてきたに違いない。だって私を見てこんなにも皆んなが嬉しそうな表情をしているのだから。きっと幸せな人生が待っているのだろう。そんなことをぼんやりと考えていた。そう、信じていた。
しかし事態は一変する。どうやらお母さんが私を産んだ影響からか亡くなってしまったのだ。周りの大人達はガヤガヤと何やら話している。空気は張り詰めて、さっきまでは好意的であった空気は一気に色彩を変えていた。
まあでもこんなものだろう。誰しもが自分の物差しで物事を図る。もし自分の意図しないものが現れればそれは受け入れ難いものである。……嫌というほど見慣れた光景だ。
もう寝てしまおうと目を閉じる。見たくもない光景を見続けるよりは夢の景色の方がよっぽどマシなはずだ。
ただ、この世界は思ったより捨てたものではないようだ。
「――それなら私達が育てましょうか?」
シンと静かになる。私は閉じた目をゆっくりと開ける。目の前には二人の男女がいて、女性はどうやら身籠っているようだった。
「一人も二人も変わりませんからね」
そんなことを言って笑っているこの人達が、私の育ての父親と母親になった。――きっと、この時が私の運命の始まりなのだろう。
「……ーニャ」
「……ノ。だめだ……。だっ…て、回復してな……」
誰かが近くで話している。どうやら夢を見ていたみたいだ。まだ意識は朧げで身体はなんだかフワフワとしている。
「……も、ご主人が起こ……って」
「私か……主人に言っ……おくから」
段々と意識がハッキリとしてくる。ああ、なんだかこの二人に起こされるのも久しぶりだ。
「……大丈夫だよ。モノ、ジー」
「あ、おはよスーニャ」
「おはようございます。スーニャ」
「ん、おはよ」
前の時は随分な起こし方だった気がするが、今回は普通で安心する。起きかけに顔があったりとかビックリするからね……。
「お身体は大丈夫ですか?」
ジーが心配そうに声をかけてくれる。
「……正直に言うと、若干だるいかな」
身体がやけに重く感じるし多少の頭痛もあった。はて、何があったのだっけ?
「ええ。そうだと思いますよ。……私達もびっくりしましたから」
『本当に無事で何よりです。ご主人を呼んできますね』と、ジーはパタパタと部屋を後にした。
「……スーニャ、だいじょぶ?」
モノも心配そうな表情をしている。私は大丈夫だと彼女の頭を撫でてあげた。
「大丈夫だよ。すーぐ元気になるからね」
私はニコリと笑顔を浮かべる。ただそれでもモノは不安そうな顔をしていた。
「……それでえっと、どうしてここにいるんだっけ?」
私の問いにモノはフルフルと首を振る。
「……スーニャ、突然現れてビックリした。しかも血だらけ」
血だらけ? 怪我をしていたのだったか。でも並大抵のものなら一瞬で治るだろうになんで治らなかったのだろ――いや待て。私は争っていたんだ。太古の神々であるギィと。
「――ふむ。思ったよりも元気そうじゃないか?」
現れたのはリムさんだ。少しずつ頭がハッキリとしてきた。そうだ。私達は何とか助かり、そして今はグンネラの隠れ家にいるのだ。
「……おかげさまで。でもまだ本調子じゃないですね」
「そうか? まあここらの魔素を吸い尽くされても困る。程々に回復すればいいさ」
クックと笑う姿は、以前から何一つ変わっていない。
「しかしこちらも驚いたぞ。転ばぬ先の杖として持たせていたがな。こんな早くに使われるとはな」
『だがひとまずはアレもまた効果があると分かった。これも研究成果といえよう』なんて言葉を聞くと、こっちは実験台かと文句の一つも言いたくなってしまう。……ただどうせ言ったところで、肯定されるだけなんだろうが。
「……それでなにがあったんだ? 貴様は曲がりなりにもそう易々と倒される存在でもなかろう?」
「……ええ。自分でもそうだと思いますよ。だから正直油断してました」
「油断していた?」
「ええ。……まさかまた太古の神々と対峙することになるなんて」
過去ミームやガブリエットと対峙する時には油断も慢心なく準備も万全だった。ただ今回はあまりにも突然過ぎた。リムさんはフゥと息を吐く。
「……相手は?」
「……ギィ=フクローラン。貴方達の長姉ですよ」
リムさんがチッと舌打ちをした。
「ギィか。厄介なヤツに目をつけられたな。……アイツは貴様が生きている事に勘付いているのだろう?」
「ええ。そうだと思います」
「……奴は貴様を探すだろうな。まだ私との関係は気づいてないだろうが時間の問題か」
『全くもって面倒な限りだ』とリムさんがため息を吐く。私としてはリムさん達に迷惑をかける申し訳なさもあったが、それよりも確認しなければならないことがあった。
「色々とすみません。でも一つだけ先にいいですか?」
それは起きてからずっと気になっていたことだ。リムさんは視線だけをこちらへ向け話を促す。
「私と、一緒にいた女の子はどうしていますか?」
意識を失う直前に私は、リーザをリムさんに託した。
「ああ、あの小娘か?」
「ええ。リーザっていうんですが」
「それは聞いたぞ。貴様が意識を失いながらに言っていた」
あそうなのか。全然そこの記憶はない。
「貴様は、なんでもいい。何とかしろと頼み込んできたからな。まったく。この私にあんな口を聞くものなどいないぞ?」
「……状況が状況だったんです。だから勘弁してください。それでリーザは無事なんですか?」
「ああ安心していいぞ」
私はその言葉に胸を撫で下ろす。しかしお礼を言おうとリムさんの顔を見て、私はギョッとしてしまった。
「――奴は生きている。貴様の肉体の一部を移植してな」
『その回復力の一部を受け継いだのかもしれん。全くもって稀有な例だ』と嬉々として語るその様子は、私にとって悪魔にしか見えなかった。
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