【1-9-1】 久遠
私が目を覚ますとモノさんやジーさんはいなくなっていました。リムさんに聞くともう帰ってしまわれたのだとか。色々とお世話になったのに満足にお礼も言えない事は申し訳なく思ってしまいます。
ただ実は内心ホッとする気持ちもありました。だって、なんだかあの人達はどこか得体のしれないような、底が見えないような、そんな気がしたのです。それにいくらなんでも、リムさんを傷つけるというのはやり過ぎでしょう?……正直少しだけ苦手に思えました。
それからバルディアへと移動して、私達は普段の生活に戻りました。最近は竜人族や獣人族の里を飛び回ったものですが、ここ最近はめっきり遠出も減りました。リムさんになんでなのかを聞くと『まあたまにはゆっくりしてもいーじゃん?』なんて言っています。私としては腑に落ちない回答ではあるのですが、それ以上追求する気にもならなかったのです。
昼間はクエストをこなして、夜は時には酒場に行き、自宅で眠る。そんな日々の繰り返しです。けしてお金に余裕があるわけでもなかったですが、それでも暮らしていく分には満足でした。もちろんリムさんの借金がなければもっと贅沢は出来るのですが。
「ね。リーザ、少し遊びにいこっか?」
突然そんなことをリムさんが言い出します。私は洗濯物を干しているところでした。今日は天気もいいのでよく乾くことでしょう。
私が首を傾げているとリムさんは言葉を続けます。
「ちょうどさ新しい甘味処がバルディアにできたらしいよ? 一緒にいってみようよー」
ああそういえばそんな話を聞いていました。確かマグシアで人気があったお店がバルディアにも進出してきたのだとか。そこで提供される甘味は一度は食べないと人生を棒に振るとすら言われているらしいです。かくいう私も甘味には目がありません。どんなものかも分かりませんが、胸躍らせることだけは確かです。
「おリーザも乗り気だね? じゃ今日は街の中をお出かけしてみよー」
『折角だからおめかししてほら』と言われ私はワタワタと外行き用の服装に着替えます。別にどこか違う土地へ行くわけでもないので普段着でよいような気もするのですが。
「リーザは折角可愛いんだから、ちゃんとそういう格好もしないとだよー?」
そういう自分はいつも通りの格好をしてます。私が責めるような視線を送ってもどこ吹く風といった様子。……決めました。後でどこか洋服屋さんによって、リムさんは似合う外行きの服を選んでやりましょう。
「……なんか悪いこと考えてる?」
おやバレてしまいました。でもそんなことないと私は首を振って誤魔化します。リムさんは『ホントー?』なんて疑っていますが、コクコク首を振ります。こう言う時は言葉が喋られないのも案外都合がいいものです。
それから二人でお家を出てフラフラとバルディアの中を練り歩きました。目的地は件の甘味処ですが、別に急ぐわけでもないとゆっくり進むことにしたのです。
「なんだかこうして二人でゆっくり歩くのも久々だねー」
確かにその通りです。……いやというよりも初めてなのではないでしょうか?
「……いやもしかして初めてか?」
リムさんもふと眉間に皺を寄せつつに考えているようです。私達は二人で街の中を歩くことはもちろんありますが、ゆっくり出来る暇なんてなかったような……。大体何かに追われていたような気がします。クエストだとか借金返済だとか。アレ? なんだか悲しくなってきました……。
「ちょっとちょっと! リーザ!? 今日はゆっくりできて甘味も食べられるんだから! そんな顔しないで!」
全く誰のせいだと……。でも確かにリムさんの言う通りです。今日は思う存分に羽を伸ばさせてもらいましょう。
それからは二人でのんびりダラダラと時間を使います。街を行く人々を眺めたり、新しく出来たというお店の様子を見てみたり。洋服屋さんにもリムさんを連れていきました。リムさんは、私の為の服を買いに来たつもりのようですがそうはいきません。そもそもリムさんは普段の服に無頓着過ぎるのです。折角容姿が整っている方なのにそんなのでは宝の持ち腐れです。
ですから私がお店の服を隅から隅まで見て、バッチリ似合うものを幾つか選定させて頂きました。いやはや似合う服がいくらでも見つかってしまうというのも中々困りものですね。
「……リーザさん、あの、そろそろ?」
まだダメです。もっと似合うものが、あ、あれとかどうでしょう? ちょっとフリルは可愛すぎるでしょうか?
「……はぁ。もう勘弁ー」
後ろの方からリムさんのそんな声が聞こえた気がしましたが、きっと気のせいですよね?
ひとしきり服を試し終え、気に入ったものは幾つか購入させて貰いました。ちなみに私の服も一緒にです。
「やっと終わった……」
リムさんは何故かぐったりしています。はて? 何をそんなに疲れているのでしょうか?
「でもリーザが楽しそうでよかったよ。さてそろそろ見えるかな?」
リムさんが言う通りに前方の方には元々の目的地であった甘味処が見えてきました。服を選ぶという大仕事も終え、お腹はぺこぺこです。きっとただでさえ美味しいのによりいっそう美味しく感じることでしょう。
私はワクワクと胸躍らせながらに歩みを進めます。ただ何やらお店の前には人だかりが出来ているようでした。
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