【1-1-3】
ゴブリン達のいる住処はここからそう遠くない場所にあるらしく、徒歩での移動だ。
「ゴブリンねー。いかにもファンタジーって感じ? 個体個体は大して強くないけど、集団でいる生態はどこの世界も変わらないねー」
私の言葉にリーザは不可解そうな顔をしていたので何でもないと濁す。私は実は異世界から転生してきたーなんて、説明しても信じてくれないだろう。
「それで今回のゴブリン達は森の中の洞窟にいるんだっけ? 森に訪れた人たちを襲うから、その駆除がクエストだったよね?」
リーザが私の言葉を肯定するようにコクリと頷く。
「でも何匹くらいいるんだろうねー。巣穴をやっつけちゃえば自然といなくなるのかなー?」
我がことながらに冒険者稼業もすっかり板についたものだ。ただ最初期のFランクやEランクの仕事はキツかった……。本当に雑用みたいな仕事ばかりで、家の掃除やらペットの散歩、お使いなんてものまであった。
まるで家政婦のようで、それが少しずつ薬草の採取や獣の素材の収集などのそれらしいものになってきて、今みたいなクエストを受けられるようになったのも実際最近だ。
思えばリーザにもだいぶ負担をかけてきた。ランクがあがれば今よりは多少見入りも増えるだろうし、そうしたら少しくらい贅沢させてあげたっていいだろう。
「よし着いた。あの洞窟がそーかな?」
森の中を抜けて一つの洞窟が見つかった。事前に聞いていた情報とも合致する。あれが今回のクエストの目的地だ。
「じゃリーザはここで待ってな。で私が中に入って倒してくるから」
彼女はフルフルと首を振り、ついてくると意思を示す。でもそういうわけにもいかない。私はどんなに傷付いても問題はない。比喩表現ではない。本当にそのままの意味でそうなのだ。
だがリーザは違う。彼女がもし敵に囲まれたりしたらそれこそ取り返しがつかない。ならここで待って貰っていた方がいいだろう。
「気持ちは有難いけどもダメ。それに中には人もいるらしいじゃん? 逃げだした人たちを介抱してほしいってのもあるんだよね」
むーと顔を顰めつつ、仕方ないと首を縦に振る。よしよしいい子だと頭を撫でてやる。彼女は恥ずかしそうに俯いていた。
「じゃ行くねー。すぐに終わらせるから晩御飯の献立でも考えてて」
リーザはもっと緊張感を持てとばかりにペシペシと叩いてくるが、ただそんな肩に力を入れすぎても駄目だろう。何事もこれくらいがいーのだ。
「はいはい。適当に気をつけて行くから、ちょっと待っててね」
それだけ言い残して洞窟と進んでいく。リーザは言った通りに外で待っているようで着いてくる様子はなかった。
洞窟の中は思ったよりも涼しかった。どこかの水源に近いのかポタポタと雫が滴っている音が聞こえる。モンスターの住処としてはうってつけだろう。
今回のクエストはゴブリンの駆除という名目だが、それだけではない。奴らは襲った人を生きたままに自分の住処へと連れ帰り繁殖のために用いる。既に十近い人達が連れ去られたと報告がある。その人たちの救助もまた私の仕事の内なのだ。
足取りを止めることなく奥へと進む。少しずつだが臭気が強まって行く。獣臭とすえた匂いがした。
「……近いかな?」
大分気配が強くなっている気がする。私は手から炎を出し辺りを照らす。――思わず声を上げてしまう。そこには無数のゴブリン達がいて捕まえた人達に群がっていた。そして夥しい数の目玉がギョロリとこちらを向いた。
「うーわー。……私、お邪魔?」
『ギャアギャア』という声と共に彼らが一斉に向かってくる。私は慌てることなく手を前方へと向ける。
「まーほらアレよ。一度言ってみたかったやつ。……相手が悪かったね?」
彼らへと魔素そのものを叩きつける。それと同時にその身体は耐えきれずに爆散する。捕まえられていた人達にはショッキング過ぎる映像だろうが、ここで魔法なんて使っては洞窟自体が持たないし、この数相手では手数が足りない。そのためにシンプルに魔素の攻撃が一番だった。
「しかし凄い数。そりゃ被害も大きくなるわけだ」
ゴブリン達を倒しつつ少しずつ奥へと進んでいく。
「ほら貴方はまだ生きてる? 貴方も? 動ける? よし。じゃあ外に私の仲間がいるから。じゃ急いで」
倒れていた人達に声を掛け外へと逃す。その間もゴブリンを倒しながらだ。
「モンスターってやっぱり繁殖能力が高い事が強みだよね。もし彼らが徒党を組んだりしたら、世界なんてあっという間に支配されちゃうんじゃないかなー」
それはまるで前世の世界のようにだ。あの世界は人間という種が支配していたが要因の一つにその繁殖能力が挙げられるだろう。
「お、そろそろ一番奥かな?」
先ほどまでわんさかといたゴブリン達がいなくなったと共に一際臭気が強まる。
「……間に合わなかった人たちにはゴメンだね」
見ると骨が転がっているだけではない。亡くなって間もないのか虫がたかっている遺体もあった。そしてそれらの真ん中には一際大きなゴブリンが、玉座とでも言いたげな椅子に座っていた。
「アンタが親玉?」
口の端から涎を垂らしながらにグルルルと唸っている。
「……まあアンタ達だけが悪いとは言わないけどさ、今の世界ではこうなんだ。目を付けられたのは運がなかったね」
私はまた彼へと手を向ける。彼は実力の差が分かっている様子ではあったが、それでも私へと襲いかかってきた。
「ん。それがきっと正解。じゃバイバイ」
洞窟から出るとリーザが逃げた人達を診ていた。
「どー? みんな大丈夫そー?」
私を見て彼女はコクリと頷く。
「それならよかったよかった。じゃ早いとこ帰ろう。もうすっかり身体も汚れちゃってとりあえずお風呂に入りたいんだ」
身体はゴブリンの血やら何やらでベトベトだ。それに捕まっていた彼女達は言葉を発せないほどに憔悴し切っている。ひとまずはバルディアへ向かうのがいいだろう。
「今日も疲れたしお酒を一杯だけでも、――あウソウソ。リーザごめんて。冗談だから許して」
私はリーザに小突かれながらに帰路へと着く。多少なりとも報酬に色がついたりしないかなーなんて思いながら。
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