【1-7-6】
私達は馬車まで戻ります。そしてようやく一息をつく事が出来ました。ふぅと息を吐くと、驚いた事にリムさんが抱きついてきたのです。
「!?」
私は驚きのあまりジタバタと暴れてしまいます。でもリムさんの力はとっても強くて離れることは出来ませんでした。ただ少しだけ、リムさんの身体が震えているような気がしました。一体どうしたのでしょうか。
「……かった」
え? なんでしょう? 小声で聞き取れませんでした。
「……よかったって言ったの」
その言葉と同時にリムさんは私から離れました。確かにその表情は安堵に包まれていました。
「こーの、本当に心配させちゃってこの子はー!!」
私の頭を髪の毛ごとワシャワシャーと撫でます。あ、ちょっとちょっと! 髪の毛がボサボサになってしまいます!
「嫌がってもダーメ! それくらいの事はしたんだから!」
『私が満足するまで、我慢しなさいー!』なんて言われると、うむむ。確かに今回は私が悪かったでしょう。甘んじて受け入れるしかないのです。
その後も暫くワシャワシャして、リムさんも満足したのか私の頭から手を引きます。ようやく解放されるのかと思ったら、今度はほっぺたを掴みぐに〜と伸ばしました。私は勿論抗議の視線を向けます。ただ、こんな状況なのにリムさんは真面目な顔をしてこちらを見ていました。
「……これから先はホントにやっちゃダメ。死んじゃうかもしれなかったんだから」
そんな風に言われてしまうとこちらは何も出来ません。だってその言葉は深い悲しみの色を含んでいたのです。
「私がどれだけ心配したか、分かってる?」
私はコクリと頷きます。
「じゃあこれからは同じ事はしないって約束できる?」
もう一度頷きます。やっぱり今回の行いは軽率でした。自分でも反省です。
「よし、いーよ」
リムさんが手をパッと離します。頬が少しだけヒリヒリしました。
「じゃあ今度こそ帰ろうか」
私は改めてペコリとリムさんに頭を下げます。勿論謝罪の意を込めて、です。それを見て今度は優しく頭を撫でてくれました。
それから私達は荷車に乗って獣人族の里へと戻りました。道中には何も起きる事はなくただ車に揺られながらに外の景色を眺めていました。
「帰ったら、やっぱりちょっとリーザに魔法教えてあげよっかな……」
え! そんな事をリムさんがポツリと溢しています。私は期待に胸躍らせます。
「でも教え方がなぁ……」
早速期待が打ち砕かれます。それはそうなのですが何か方法は無いものでしょうか。
「……ちょっと考えてみるよ」
なんでしょう。その笑みは、温かくもありながら何故だか悲しげでした。
その後獣人族の里に戻り、早速ガリオンさんとジルベルトさんに報告をします。
「……まさか死人族に生き残りがいたなんて」
二人とも私達の報告に驚いているようでした。ザビさんは死人族が滅ぼされたと言っていましたので、辛くも逃げ延びたのでしょう。
「恐らく屍人達を使って訪れる者たちを倒していたんでしょうね」
「ああ。その倒したものすらも手下に加えてな」
確かにあの時の屍人さん達は夥しい数がいたように思います。
「しかし貴方の得手は炎ですからね。相性が良かったですよ」
『打撃や斬撃では効果が薄いので、彼らと獣人族は相性が悪かったんですが』とジルベルトさんが言っています。なるほどです。
「一番効果的なのが光魔法や炎魔法ですからね。死人族からすれば貴方はまさしく天敵でしょう」
「ふ〜ん〜、まあ何でもいーけどさ。そもそも死人族って何なのさ?」
その言葉に若干ガリオンさんが呆れたような表情を浮かべました。
「……お前さんはもう少し世界全体を見た方がいいのではないか?」
『なんだよー』なんて言いますが、私も興味があります。
「死人族は元々は精霊族の分系だ。先の戦争の前ごろに滅ぼされた」
「滅ぼされたってラフェシアに?」
「いや、フクローランにだ」
「フクローランって確か……」
「ああ。……つまりはアヌ教だな」
――アヌ教? それは確かこの世界の数少ない宗教で。それ、は。
「当時は随分と世間を賑わしたのだぞ? あのアヌ教がまさか討伐体を編成し、死人族を滅ぼすだなんてな」
「ふーん。でもさアヌ教って確か博愛主義の宗教なんじゃないの? それだったら死人族も慈愛の対象じゃん?」
――トクン。またその言葉を聞き、自分の鼓動が脈打ったのが聞こえます。
「ふむ。それもそうだが、奴らの教義の到達点はアヌ神へ還ることなのさ」
「還る?」
「うむ。奴らの考えでは死したら皆、母なるアヌの一部になるのだとか。そんな中で死人族は死んだもの達を扱うわけだから、異端扱いだったんだろう」
――トクン、トクン、と音がドンドンと大きくなっていきます。
「だから滅ぼしたって? それはまた随分と乱暴だねー。もっと平和的な団体かと思ってたよ」
「とんでもない。奴らはワシから見れば邪教も邪教よ。とても大きな声で言えんがね」
「へー。アヌ教の知り合いもいるけどもそんな感じには見えなかったけどね」
「そりゃそうだろう。まさか表立ってはそんな姿は見せんさ。表面的にはお前さんの言っている通り至極平和的な団体、として活動しておる。ただ内面は真っ黒だろう」
「えー。今度知り合いに話でも聞いてみようかな」
「下手な真似はしない方がいいかもしれんぞ? あそこは盲信的な信徒が多い。それこそ自分の命も鑑みないほどにな」
――もうお二人の会話は頭に入ってきません。ドクンドクンと心臓の鼓動が止まりません。
「あそういえば最近もマグシアとなんか諍いがあったんだけっけ?」
「ああ。アヌ教は名前の通りにアヌを信奉しているからな。その直下の太古の神々が殺された事はとても捨ておけないのさ。で、とっとと元凶を見つけて討伐せよ、と言っているわけさ」
「ああ確かにそんな事言ってたね。まあそこら辺はレオに任せとけばいーでしょ」
「そんな他人事のように……。お前さんももう少し身を隠した方がいいのではないか?」
「冗談。レオも気を遣ってくれたんだ。好きにさせてもらうよ」
「まあ構わんがね。とにかくアヌ教には気をつけた方がいい。最近は奴らも何かときな臭い動きもしている」
「そりゃまたどうして?」
――頭が重い。立っているのが辛くなってきました。
「そりゃお前さんの事もある。それに、だ。どうも内部で何やら揉めているらしい噂もある」
「揉めてるってどういうこと?」
「さてな。ただ最近アヌ教の顔役の一人が突然表に出てこなくなった。もしかしたら何かあったのかもしれん。という噂話はあるがな」
「ふーん。まあ色々あんだろね」
「まったく。聞いておいて興味の無さそうなことだ。一応その顔役は太古の神々に匹敵するくらいにはこの世界では有名なのだがな。名前はダ――」
――ズキンと、頭に痛みが走りました。今度こそ耐え切れそうもありません。私は意識が薄れていくのを感じました。
「――リーザ!? 大丈夫!?」
私の様子に気づいたリムさんが駆け寄ってくる姿が見えます。一体どうしてこんなに痛みが起きたのかはわかりません。ただ今の私にはこの痛みから早く逃たいという事しか考えられませんでした。
その後には私は意識を取り戻すまではベッドで寝かせて頂いたようです。念のために身体も診てもらいましたが、異常もないようでした。もしかしたら疲れが溜まっていたのでしょうか。
それからは数日は獣人族の里に滞在しました。ザビさんが本当にいなくなったのか様子を見る必要もあったのです。その間身体を休めることも出来ましたので、体調はすっかりバッチリ元気いっぱいです。
ザビさんはリムさんの言葉に従ったのか、あの街にはもういないようでした。そうして私たちもまたバルディアへ戻る事になったのです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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