【1-7-4】
来た道をそのまままっすぐに走ります。広場から抜ければ森の中に入れます。そうしたら姿を隠すのも容易です。
「――ア、あ、ダメ、ですヨ。逃げちゃ、だめでス」
彼女はそんなコトを言っていますが、殺されてしまうと分かっては逃げるしかありません。私は後ろを振り向きますが彼女は追いかけてくる様子はありませんでした。このままならきっと逃げ切れるでしょう。
――と思ったのに、突然何かに足を掴まれました。
姿勢を崩した私はその場に転んでしまいます。咄嗟に手を前に出しましたが身体が地面をコロコロと転がりました。何が私の足を掴んだのでしょうか? 私は慌てて足をみます。
私はこの時自分の声が出ない事を初めてよかったと思いました。だって、そうでなければきっと叫び声が辺りに木霊していたでしょうから。
足もの先にいらっしゃる方は人、であることは間違いありません。ただ、元という言葉がつきます。
皮膚と肉は所々腐り落ち一部には骨が見えています。眼球は残されていますがこちらを認識しているのかは分かりません。死体、であるのでしょうが、なぜこの方は動いているのでしょうか。
「ヴア゙ァアァ……」
何やら呻き声をあげています。私は慌てて立ち上がりまた逃げようとします。
先ほどの道を戻ったり、また別の方向へ向かったり、私は可能な限りに足を走らせこの場から離れようとします。でも進みたい方向にはすでに先ほどの方のような人達が大挙していました。
彼らは私の周りを円のように囲い徐々に距離をなくしています。こうされてしまうと私も逃げようもありませんでした。
「アガァァァ……」
少しずつ、少しずつ、円が小さくなっていきます。私は頭を振り絞りますが何もいい考えは浮かびません。私はただ、リムさんに頂いた短剣を握りしめていました。
ふと彼らがピタリと止まりました。何事でしょう。
「……ア、ちょっとどいてくださイ。ア、アりがとうございまス」
どうやら先ほどの彼女が、皆さんの間を縫ってこちらへと近づいているようでした。彼女はスポンと人々の列を抜け、再度私の目の前に現れました。……流石にここに来て助けてくれるというわけではないのでしょうが。
「……コ、殺してしまう前に、やっぱり、少しだけ、お話したいと思いましテ」
……やっぱり殺されてしまうことは確定なのでしょうか。
「ゴ、ごめんなさイ。デも、スーニャ様に会うには、仕方なくテ……」
それです。スーニャさんと会うというのにこの方は随分とご執心のようでした。
「ワ、私は、死人族の生き残り、でス」
改めて自己紹介をされます。でも死人族というのは聞き覚えがありませんでした。今私の周りにいる方々も皆んな死人族なのでしょうか。
「……シ、死人族は、ご存知か分かりませんが、滅ぼされましタ。今ここにいる子達は、一族特有の魔法で、動かしているだけでス」
その説明で合点がいきます。しかし動かす、と言っていましたが、既に亡くなった方々をもう一度生き返らせる事ができるという事でしょうか?
「イ、生き返らせて、いるわけではありませン。タ、ただ身体を動かしているだけ、でス」
そうなのでしょうか? あ゙ーとか、ゔーとか唸っている姿には確かに知性は感じられはしませんが、ただ意思がないとも言い切れないような気もします。
「カ、彼らには、私がこういうように、動きなさい、って指示をしているだけ、ですかラ」
『ア、ちなみに、屍人さんって、私は呼んでいまス』なんて仰られていますがなるほどです。そこまで言うならそうなのでしょう。
でもこんな風に死んでしまった方がまた動くなんて、もし自分の身近な存在が亡くなってしまったら彼女にお願いしてしまうかもしれません。どうか私の愛する人を生き返らせてください、と。
「……ア、あの、貴方に聞きたかった事は、ですネ」
彼女は私へと何か質問したいようでした。はて一体なんでしょう。しかし彼女の興味を引かないと私の命が危ういです。上手く合わせなければ、です。
「マ、まず、貴方のお名前は、なんですカ?」
思いもしなかった質問にビックリしちゃいます。私はこの方の手を引き掌の上にリーザと書きました。
「リ、リーザ、ちゃン。キ、キヒヒ……」
何やら嬉しそうにしています。独特な笑い方が印象的でした。
「ソ、それで、リーザちゃんは、スーニャ様のこと、知らないんですよネ?」
スーニャさんの事は噂で聞いた程度で、どこにいるのかなどは知りません。元々この場所に来た時ももしかしたら本物のスーニャさんに会えるんじゃないかって思っていた程なのですから。
「……デ、では、スーニャ様の、特徴に当てはまる人、も知りませんカ?」
スーニャさんの特徴? というと何でしたでしょうか。私がうーんと頭を捻っている様子を見てこの死人族の方は慌てて情報をくれます。
「ア、あの、例えば、髪の毛、とかでス……」
『ス、スーニャ様は、赤髪なのですガ……』という声を受けて私も記憶を掘り起こします。ただ赤髪の方って案外いないもので、これといった人は思い浮かびませんでした。
「ジ、じゃあ、綺麗な炎を扱う、方ハ?」
炎を扱う人なんて魔法を扱える人ならみんなそうなのではないでしょうか。でもそんな綺麗な炎なんて……。
――アレ? いや、ちょっと待ってください。赤髪で綺麗な炎を扱うって……。
「……ン、どうか、しましたカ?」
私は慌てて首をブンブンと横に振ります。
いやいや。だってあの人が、まさかそんなことあるはずがありません。……でもあの人は確かに赤髪で、それにあの炎は本当に綺麗で、見惚れてしまうほどで。
「……モ、もしかして、何か心辺り、ありますカ?」
違うとは思っていますが、もしそうであればこの人とあの人を会わせるべきではないでしょう。一体何が起きるかも分からないのですから。
「シ、知っていることがあれば、教えて、くださイ」
私は再度首を振ります。ただ彼女は、私が何かを知っていると勘繰っているようです。
「……ゴ、ごめんなさイ」
その言葉の後に彼女に操られている屍人の方々の中の1人が、私の目の前まで出てきます。
「……ア、あんまり、やりたくはないんだけド。モ、もし知っているのであれば、言っテ、ほしイ」
その屍人さんは私の首を掴み、力を込めます。首が締め付けられる痛みと呼吸が出来なくなっていく苦しさに、私から言葉にならない呻き声があがります。
「……ホ、ほラ。シ、死んじゃうヨ? 早く喋ってほしいナ」
力をどんどんと強くなっていきます。ミシミシと自分の身体の中から骨が軋む音が聞こえます。でも例え死んでしまうとしても、あの人を売る事なんて出来ません。だってあの人は私の恩人で、家族なのですから。
「――ちょっとさー。うちの子に何してくれてるのかなー?」
なのに、どうして貴方は私を見つけてしまうのでしょう。
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