【1-7-3】
その広間はどうやら墓地だったみたいです。白く四角い墓石が一定間隔で並べられています。その真ん中で暫定スーニャさんはジッと立ちずさんでいます。一体何をしているのでしょうか。
ようやくその人は動き始めました。お墓一つ一つに蝋燭の火を灯しているようです。暗闇に包まれていた景色が少しずつ明るくなっていきます。こんな表現は不適切なのでしょうが幽美でとても綺麗な光景でした。
全てのお墓に火を灯して終えた後何やら口ずさみ始めます。そうすると辺り一体に魔法陣が現れ、今度は青色に包まれました。先ほどの灯りの赤や黄色に、青が混ざり、緑や紫に色彩が変わりました。またそれが神秘的で、私は一目散に逃げ出すべきなのに、見惚れてしまい動くことが出来ませんでした。
そしてさらに驚いたことに、突然に暫定スーニャさんはこちらを向き声を掛けてきたのです。
「――サ、先ほどから、貴方はどなたですカ?」
その声は、か細く自信のなさそうなものでした。静かな夜だからこそ私も聞き取ることが出来ました。ただ私はそれでもびっくりしてしまって、腰が抜けそうになったのですが。
「モ、もしかして、スーニャ、様、ですカ?」
思わぬ言葉にまた私は動揺してしまいます。この人がスーニャさんであるはずなのに、どういう事なのでしょう?
「エ、えっと、あノ?」
反応を返さない私を見てどうやら不審がっているようです。若干オロオロとしている姿を見るとなんだか悪い人ではない気がしてきます。
「ナ、何か、返してもらえるト……」
もしかしてこの人は私達が探していたスーニャさんとは別人なのでしょうか?
「……ア、あれ? もしもシ?」
きっとそうなんでしょう。だってもし本当にスーニャさんだったら、このような問い合わせはされないですし、今この場ですぐに襲われてもおかしくないのでしょうから。
私は彼女へと近づきます。もしこの人がスーニャさんと関係ないのであればここにいるのは危険です。それになにかスーニャさんの話を知っているかもしれません。
「……ア、出てきてくれタ。エっと、どちら様ですカ?」
偽スーニャさんに近づいて改めてどんな人なのかを眺めてみます。黒くボサボサとした髪の毛に黒い瞳。いや、やっぱり少し灰色掛かっているでしょうか。黒と紫を基調にした服をきておられますが、ブカブカとしていてただそれもまた可愛らしく見えます。
「……エっと、おはようございまス」
ペコリと頭を下げてくれました。おはようございますには少し遅いな気もしますが、夜におはようという方もいると聞いた事があります。きっとこの方もそういう人なんでしょう。
私は自分が喋られないことを彼女へ伝えます。そうしたら彼女は合点がいったという様子で安心した表情をしていました。
「ヨ、よかったでス。モしかして、私が上手く喋れていないのかト……」
随分と腰が低い方です。私が関わる冒険者の方や商人の方は、基本的に荒々しい気性の方が多いので少し新鮮でした。
「ソ、それでどのようなご用件でしょうカ?」
私は身振り手振りでここは危ないと。スーニャさんがこのあたりにいるはずだと伝えます。
「……エっと、ごめんなさイ。分からなくテ」
……やっぱり伝わりません。私はガックリと肩を落とします。魔法の練習をする前に喋る方法を探した方がいいでしょうか。
とりあえず私はこの場から離れるよう彼女の手を引きます。彼女は『エ、え、どちらに行くんですカ?』と抵抗しています。
確かに何も説明せずでは当然ですが、でもリムさんに会わせてあげれば会話も出来ます。それに何より安全でしょう。ただ彼女は私がグイグイと引っぱっても中々足を進めてはくれません。
「チょっと、アの、あの、貴方はスーニャ様、ですカ?」
『カ、髪の毛や、見た目は聞いていたものとは違うようですガ』とまたオロオロしながらに私を見ています。
そういえば最初に質問されていたのでした。私は彼女の言葉にフルフルと首を振って否定します。
「ヤっぱり、ス、スーニャ様では、ないのですネ……」
俄然ガッカリした様子を見ると、なんだか申し訳ない気持ちになります。でもこの人はスーニャさんに一体なんの用事があるのでしょう?
「ソ、それであれば、貴方はどなたですカ?」
私は喋る事が出来ないから、今一緒にリムさんの所へ行こうとしているんです。私は手振り身振りで説明します。
「……ソ、そっちには貴方の仲間がいるんですカ?」
おお! とうとう伝わりました。声が出なくても意思疎通ができる事が今証明されたのです。
「……ア、貴方たちは、もしかして、冒険者、ですカ?」
え、そんな事まで分かるなんてもしかして私も冒険者としての風格が出てきたのでしょうか。なんだか誇らしいです。ふふんと胸を張る私を彼女は不思議そうに見ていました。
「ア、あの、それでどうなのですカ……?」
コクリと頷いて肯定します。彼女は『ヤっぱリ、ではその人達もスーニャ様じゃないのですネ……』とポツリと溢しました。そして彼女は真っ暗な夜空を仰ぎ見ます。
「……ア、ああ、ス、スーニャ様は、一体いつになったら来てくれるのでしょうカ」
彼女はスーニャさんに用事があるみたいでしたが、もしかしてずっとここで待っていたのでしょうか。
「ア、あの方に会うために、今日までずっと、待っていたというのに、いつまで経っても、会いにきてはくれませン……」
やっぱりそうです。彼女はずっとここで一人スーニャさんを待っていたのです。……あれ? ということはもしかして。
「……ソれなのに、訪れる人達は、私をここから追い出そうとする、冒険者達だケ」
一度は弱くなった魔法陣の光が再度強くなります。先ほどと同じ光のはずなのに今度は禍々しいものに思えました。
「……アぁ、スーニャ様。ワ、私の神様、お慕いしてまス。ハやく、ハやく」
手を引いていたはずなのに今は少しも動きません。……なんだか、いや多分不味い気がします。
「……今まで、たくさんの冒険者を殺して、来ましたが、まだ足りないんですネ」
私は彼女の手を離して、少しずつ後退りをします。
「……スーニャ様。ワ、私の神様。アぁ、早くお会いしたイ。ネ、貴方もそう思うでしょウ?」
それと同時にまた魔法陣が強まります。直視出来ないほどの光です。
「アなたを、殺せば、今度こそスーニャさんは来てくれるでしょうカ」
その言葉と同時に私は一目散に走りだします。逃げないと、殺されてしまう気がしました。
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