【1-6-4】
「よし、じゃいきますか」
リーザもコクリと頷いている。私達は荷物を持って馬車へと乗り込む。
「行き先の説明はいらないかな?」
「ええ。ジルベルト様から伺っていますよ」
「じゃしゅっぱつー」
おー! なんて手を振り上げるとリーザも照れた顔をしながらに手を上げていた。
「いやー獣人族の里も面白かったねー」
これから気を引き締めないといけないと分かっているものの、まだ到着するまで時間もある。雑談をして気でも紛らわしてもいいだろう。
獣人族の里の話を振ると、リーザも笑顔になっていた。彼女もきっと里を見て回れたことを喜んでくれていたようだ。それに買ってあげた短剣は殊更に気に入ってくれたらしく、何度も自分の首元から出しては眺めていた。
「ね? リーザも楽しかった?」
私の言葉に彼女はまたコクリと頷いていた。私もなんだか嬉しくなりリーザの頭を撫でてやる。まったく可愛い子で仕方ないんだから。
「さーて、そのスーニャってのはどんな人なんだろうねー?」
車に揺られながらに今回の目的の人物を考えてみる。うーんとリーザも首を傾げ、見当がつかない様子だ。
スーニャという名前は今の世界においてはある意味タブーに近い名前だ。太古の神々を殺したというのは想像していた以上に世界に与えたあ影響が大きかったようで、名前自体は瞬く間に広がった。
人々はその名前を恐れ、怒り、嫌悪する。この世界においては神の天敵、悪魔と称される存在。それがスーニャだ。
とはいいながらに戦争の後、その名前を騙るものは多かった。自分がスーニャであると宣言する事で、人々を畏怖させ、従属させたのだ。沢山のスーニャが散見し世間は混乱した。
しかしそれに対するマグシアの対応は早かった。即座に討伐隊を編成し各地の偽スーニャを打破し続けた。やがてスーニャを名乗るものは現れなくなった。
皆が気づいたのだ。その名を騙れば逃れようのない死が待っていると。
そんな中でまだスーニャを名乗っているものがいて、マグシア、獣人族からの進攻を防いでいる。となると並大抵の相手ではないだろう。
ただガリオンやジルベルトからはあまり情報を得ることが出来なかった。二人が隠しているというわけではなく、純粋に情報が無い様子だった。
彼らが言っていたのは、送り込んだ兵士は一人も戻ってきてはおらず、そしてその人物がスーニャの名を騙り何か悪事を働いているわけでも無いということだ。
他者を自分の都合の良いように隷属させるわけでもなく、私利私欲を肥やすわけでもない。ただその名前だけを騙る。一体何が目的なのだろう。
いやまあ私からしたら別に何でもいいし、なんならそのまま本当にその人がスーニャになって貰ってもいいんだけどさ。
そんな事を考えていたらチョンチョンとリーザが私を突いてきた。
「ん? どしたのリーザ?」
彼女は私の手を取りイソイソと文字を書き始める。
「えーと……もしかして本物のスーニャさん、なのでは? そしたら相手にするのは危ないって?」
今更ながらではあるがリーザには私がスーニャであることは伏せている。もしかしたらバレてるんじゃないかって何度も思っていたけれども、そんな事はないようだった。
「うーんー、どうなんだろうね?」
何と答えるべきかわからず曖昧に回答を濁す。まさかあなたの目の前にいるのがスーニャですよー、なんて言えやしないしなぁ。
そしてもう一度リーザは私の手を取って、何やら書き始めた。
「ん、今度はなになに? スーニャはどういう人なのか? か」
そんなの聞かれても困る。ただ世間に知られている事を伝えるくらいしか出来ないだろう。
「スーニャって奴は太古の神様を殺したんだよ。……え、なんでそんな事をしたのかって?」
もっともっと、とリーザが目で訴えかけてくるので少し考えてしまう。まさかこんな所で改めて自分の行いを分析することになろうとは。
「……理由は分からないけどさ。きっとそいつは、そうしなければならなかったんだ。例えそれで世界を敵に回そうとも。その名前が忌むべきものとして知られようとも、ね」
そう。そうだ。私は化け形族の仲間、家族の為に復讐を誓いやり遂げた。だからそこに悔いなんてない。
「ん。え? まだ質問? 今日は随分と聞いてくるね〜。そんなにスーニャの事が気になったのかな?」
普段とは違い随分とグイグイと来る。リーザの中で何か琴線に触れるものでもあったのだろうか。
「今度はえっと……。これは」
思わず口篭ってしまう。それは思いもよらない質問だった。ただリーザは私の様子を見て、なぜそんな態度なのかと不思議そうにしていた。
「……スーニャは、悪い人なのか?」
リーザは質問が伝わったと、満足そうにコクリと頷く。私はどう答えればいいのかわからなかった。そんな事、考えた事もなかった。
この世界において、太古の神々は絶対だ。それを殺したというのは本来あってはならないことである。ただ、私はそれを知っていてもなお自分の想いを貫いた。自分が世界の決まりからは外れているという事が分かった上で、だ。ならば私は悪い人ということだろうか。
「……うん。きっとスーニャは悪い人、だよ」
私がいなければ、今とは違う未来が生まれていたはずだ。私がいたせいで、失われた命も数え切れないほどあるだろう。それを考えると、とても良い人、なんて言えやしなかった。
「だって、自分の為に神様だって殺しちゃったんだから。それは悪い人でしょ?」
その言葉を受けて、リーザはまた私の手のひらに文字を書き始める。でも私ももうそろそろ切り上げようとした。
「リーザもそろそろお終いにしよーよー? そんなスーニャの話ばっかり聞いてたら本当に現れて襲われちゃうかもよー?」
リーザに覆い被さり脇腹を擽る。彼女は身を捩って私から逃れようとする。キャッキャっという声が荷車の中に響く。この後にはその話題も終わり、私達は外を眺めたり自由に時間を潰した。
最後リーザが私の手に書こうとしていたのは『スーニャはどうしたら救われますか?』という文章のようだった。
私は一人自嘲する。救いなんて与えられる筈もないだろう。こんな私に与えられるのは、天罰で然るべきなのだから。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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