【1-6-2】
「頼みたいクエストというのは、ある人物の討伐だ」
「……ある人物の討伐?」
「ああ。マグシアの建国後、まだ統治が進んでいない部分が多いことは知っているだろう?」
それは知っている。先の戦争で多くの人が亡くなった為に一部の治安の維持・改善が進んでいないという話だ。
「ワシらも自分達のとこの整備で目いっぱいでな。中々手が届かんところがある。ソイツもそんな部分に潜んでるわけだ」
「ふむ? それで? 何が問題なのさ?」
『まあ待て』とガリオンが手で静止してくる。
「そいつはある場所に拠点を構えていてな。何かこちらに害を与えてくるわけでもない」
「それなら別にいーじゃん。放っておけば?」
「そうもいかん。なんせそいつは、スーニャを名乗っているのだよ」
「……あーそういうこと?」
マグシアにもメンツがある。大罪人であるスーニャがいるとあっては見逃すことは出来ないのだろう。
「……でもそれって、手が足りないとはいえマグシアで処理すべき事なんじゃないの?」
敵がわざわざ名乗って拠点まで構えているのだ。探す手間が省けていいというものだろう。
「私としても、スーニャが討伐されたってなれば安心して暮らせるわけだしさー」
私も枕を高くして眠れるというやつだ。今も気にしてないだろうって? うるさいやい。
「お前さんがそれを言うかね……」
ガリオンは呆れた顔でこちらを見ている。まあ一部の人達は私がスーニャである事は知っている。今回の事もニセモノが何か言っていて目障りだというくらいの印象なのだろう。
「僕たちもただ放置していたわけではないのですよ。こちらから送り込んだ調査隊もいます」
「あ、そなんだ?」
「……ただ一人も帰るものはいません」
「まあ、私に頼むくらいだからそういう事だよね……」
構わないが、フレイといいガリオンといい本当に人を便利屋か何かと勘違いしてないだろうか。
「無論報酬は弾む。如何かな?」
ガリオンとジルベルトがこちらをジッと見つめている。もちろん私の回答は決まっていた。
「ま、お金がよければ何でもやるよ」
ガリオンは満足そうに、ジルベルトはホッとした表情を浮かべていた。
「ただこの子も一緒でいーかな?」
さっきから隣でチョコンと座っていたリーザの頭に手を置く。ガリオンは怪訝そうな顔を浮かべる。
「フレイから話は聞いていたぞ。まさか今度は子連れとはなぁ。お前さんには驚かされてばかりだな」
『まあ好きにしたらいいさ』と言ってくれたので今回もリーザを連れてのクエストだ。あの時と同じようにならないよう気をつけないとね。
「必要なものがあればこちらで用意する。気にせずに言ってくれて構わんよ」
「ありがと。こっからどれくらい掛かるところなの?」
「二、三日といった所だな。折角だ。今日明日くらいはこの里で英気を養ってくれ」
お。それは助かる。フレイのクエストを終えてからすぐにこの獣人族の里に来たのだ。途中は移動だけといえど、どうしても疲れが抜けきらない。特にリーザなんてまだ子供なのだ。表情には出さないが少し休ませてあげた方がいいだろう。
「実は今日は食事の席も用意してある。付き合って貰えんかね?」
それは有難い話だけど……。リーザをチラリと見る。流石に気まずいだろうか?
「うまい酒も用意してあるんだがな?」
む……。それは是非とも飲みたい。最近では竜人族の里でお酒を楽しんだが、獣人族のそれはまたどんな味なのだろう。
リーザは私の服を引いてコクリと頷いてくれた。気を遣わせてしまったようだが、でもここまでお膳立ても済んでいるならお言葉に甘えさせてもらおう。
「じゃ折角なので」
ガリオンもジルベルトも私の返事に喜んでいた。
その夜にはガリオン、ジルベルト、それに私とリーザの四人で食事を取った。周りには給仕が控えていた為に些か仰々しくはあったが、出された食べ物はそのどれもが絶品だった。
「本当に美味しい。お世辞抜きでね」
隣で夢中になって食べていたリーザもコクコクと頷いている。
「そいつは良かった。せっかくの客人の口を満足させられなかったなんて、獣人族の沽券に関わるからな」
『ほら酒も呑んでくれ』なんて自ら瓶を持ち、私にお酌をしてくれる。私は慌ててグラスを持ってそれを受け止めていた。
うむ。美味い。何かの穀物の蒸留酒だろうか? 度数が高い為に喉を焼くような感覚に見舞われる。ただそれもまた心地よい。グラスの中の琥珀色のそれを飲み干み、酒臭い息を吐く。
「竜人族や人族のそれとはまた違うだろう? 気に入ってくれて何よりだ」
「お世辞抜きに美味しいよ。それにこの料理にもよく合う」
獣人族の料理は、種族柄か肉類のものが多く味付けや調理は最低限であることが特徴だ。ただ素材を活用する術を熟知しているようで、その良さを余す事なく引き出していた。
「いやーなんだか悪いねここまでして貰っちゃうと」
まさかこんな歓待を受けるとは。他の種族の連中にも見習って欲しいものだ。具体的にはあのトカゲっぽい種族系の我儘なお姫様みたいなのとか。
「いいさ。お前さんはワシ達にとっても恩人でもある。反感を持つものもいるだろうが、ワシはそれはないよ」
その言葉に私は驚いてしまう。ガリオンは獣人族、いやマグシアにおいてもかなりの影響力がある存在だろう。それが率直にこんなことを言ってしまっていいのだろうか。
「……僕も同感ですね。貴方がいなければ獣人族は滅びていたかもしれませんからね」
ジルベルトからもお礼を言われる。ただそんな事言われる筋でもないのだが。
「……言ったでしょ? 私は自分の好きにしただけ。何か言われる所以はないね」
私は目の前のグラスを一息に飲み干す。
「で、なんか他に面白い話はないわけ?」
そこからはただの雑談だった。レオに求婚して断られた男性がゆうに三桁人数に達しただとか、やたら最近強いモンスターが多く出現して困っているだとか、スーニャをいまだ仕留めていないマグシアに対してアヌ教が随分とブーブーと文句を言っているのだとかそんな話だ。
それにしても、まさかこんな風にこの人達とお酒を飲む日が来るなんて思いもしなかった。それはジルベルトも一緒だったようで『今度はレオさんも呼びましょうか?』なんて笑っていた。ただ丁重にお断りさせてもらった。レオとお酒なんて飲んだら、お説教でも始まりそうだ。残念だと笑う彼を見て私もまた笑ってしまった。
マグノリアとラフェシアが合併した後、世界にマグシアという大国が生まれた。その国は歴史上初めて人族、亜族が融和した国家だ。最初誰もが上手くいかないと考えた。種族を隔てる憎しみの壁は消えることはない。すぐにまた別離に至るだろうと。
しかしひとまず今日までその国は在り続けている。支えているのは過去の流血を乗り越え、新しい未来、平和を築こうとするもの達。その意思は着実に広がり世界を変え始めていた。
「よかったね。レオ」
随分と心配していたみたいだけども、上手くいってるみたいで安心したよ。
「え? どうかしましたか?」
ジルベルトが怪訝そうな表情を浮かべる。隣でリーザも何事かと私を見ていた。
「いーや、なんでもない。ほらもう一杯ー!」
改めて今日は美味しいお酒が飲めそうだ。
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