【1-5-1】 家族
リムさんに手を引かれながら私は馬車を降りました。冒険者さんたちは私の存在に大層驚き、そして同情してくれました。
冒険者さん達は私に出身はどこなのかを尋ねてきます。ただ私は記憶がないから答えることができません。彼らは『何かショックな事があって記憶を失っているのかもしれない』『先の戦争の孤児だろうか』と話していました。親身になって話してくれているというのに、私は何も出来ずで申し訳ない想いです。
やがて話が纏まり、彼らは私をマグシア城まで連れてってくれると言ってくれました。届出をすれば、もしかしたら知っている人にも伝わるかもしれないと。それまでは孤児院で過ごす他ないそうです。
こんな立場なので私は勿論文句なんていいません。むしろ感謝してしかるべきです。ただ私は出来る事なら、色んな場所を見て回ってみたいという気持ちがありました。孤児院にいる間はどこかへお出かけは許されらるでしょうか。
しかし私にはそれしか選択肢はありません。私は頷いて、今度は彼らの馬車へと乗ります。作りは亜族の人達が使っていたものと一緒でした。
中は私一人というわけではなくて、何名かの冒険者さんも一緒でした。私は隅にコソコソと座りました。遅れてリムさんも同じ馬車へと乗ってこられました。
「お、リーザじゃん。一緒になるとは奇遇だね?」
私は頷いて返します。知っている人がいるのは安心でした。
「これからは孤児院に行くんだっけ? そこなら今よりも安心だろうし良いところだといいね」
私はまた頷きます。
「ん? なんか浮かない顔してる?」
あれ顔に出ていたでしょうか。私は慌てて首を振ります。
「そう? まあ最初は慣れないかもだけどもリーザなら大丈夫だよ。良い子だからね」
リムさんは私を安心させるように笑みを浮かべてくれます。ただ私の想いはそうではないのです。でもそれは贅沢な悩みで、そんなことを言ったらきっとバチが当たりますよね。
「ほら。じゃあ今日はもう休みな。夜も遅いし疲れも溜まっているでしょ」
『私ももう寝るよー』と言いリムさんも横になっています。私も同じように身体を丸めて横になりました。私は目を閉じ、今日までに見た美しい木々や花々を何回も何回も思い返していました。
それから私達は無事に目的地へ到着しました。これで私の旅もお終いかと思うと、やっぱり残念な気持ちです。冒険者の皆さんやスタンさんも私には良くしてくれました。スタンさんは、もしお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかと勝手に想像しちゃいました。リムさんもあれから何度も気にかけてくれました。本当に感謝してもし切れないです。
「じゃここかな? ひとまず話をして受け入れられるか確認して貰ってーって感じかな」
目の前には大きなお屋敷があります。庭には小さい子供達が遊ぶための遊具もありました。
「私もここまでかな。あとは担当の人にお願いするよ」
『宜しくお願いしますねー』と、リムさんは隣に立つ男性に挨拶をしていました。あとはこの人に着いて行けばいいみたいです。
「そんじゃリーザ。少しの間だけでも一緒にいられて楽しかったよー」
リムさんは私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれました。
「じゃあね。これからもいい子にしてるんだよー?」
リムさんはその言葉と共に立ち去ろうとしています。ちゃんとお礼を言わなければならないのに、相変わらず私の口は音を発することも出来ません。口を開けては閉める私の様子を見て、リムさんは『大丈夫大丈夫。分かっているからね』と言ってくれました。
少しずつリムさんと私の距離が離れていきます。私はその背中をずっと見つめ続けました。『ではそろそろ』と隣にいる男性が声をかけてきます。館の中へと案内してくれるのでしょう。
ただ私は全く別のことを考えていて、無意識のうちに駆け出していました。――ダメ! 行かないで! ここでリムさんを行かせてしまったら、もうチャンスはないでしょう。
そしてきっと私は後悔することになります。なら受け入れられるかは分かりませんが、願うだけなら試してもいいはずです。
足音で気づいたのか、リムさんは振り返り驚いた表情を浮かべています。
「え、あれ? どうしたの?」
私はまた口を開き、自分の意思を伝えようとします。
「えっと? お礼は大丈夫だよ。ちゃんと伝わってるからね」
私は首を横に振ります。
「大丈夫だよ。また会いにくるって」
私はリムさんの裾を掴み、そしてまた首を横に振りました。
「ほらそろそろ出ないともう別のクエストもあるしさ」
私はその言葉を聞いて首をブンブンと縦にふります。
「……もしかして、ついてきたいってこと?」
伝わったことの安堵と嬉しさで顔が綻ぶのがわかりました。私は首を縦に振ります。
「……えー。本気で?」
リムさんの反応に私の行いは軽率だったかと頭をよぎりました。そもそも冒険者が子供を見受けするなどあまり無い話でしょう。リムさん側の事情もありますし、私だけ勇み足だった事は反省すべきかもしれません。
ただ、肩を落とした私の様子を見てリムさんは慌てていました。
「いやいや! 嫌なわけじゃないけどね! でもほら。何かと危険だし。もし何かあった時とかにさ」
それは承知の上です。それでもなんとかお願いできないでしょうか。
「うーん、そんな見つめられてもなぁ……」
リムさんはうんうんと唸りながらに迷っています。私は結論が出るまでジッと待ち続けます。
「……いっか。これも何かの縁だし」
ということはもしかして、もしかするのでしょうか? 私は逸る心を抑えきれずにリムさんを見つめます。
「――リーザ、一緒にくる?」
その言葉と共に私は喜びからリムさんに抱きつきます。
「……まぁ本当に孤児なら私の責任でもあるかもだしね。罪滅ぼしじゃないけどさ」
「?」
「あ、いや何でもないよ。じゃこれから宜しくねリーザ」
途中声が小さくて聞き取れませんでしたが、それよりもリムさんと共に暮らすということに頭が一杯でした。
そんな私の様子を見てリムさんは困ったような、でも嬉しそうなそんな表情だったと記憶しています。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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