【1-4-2】
ワイバーン。前世の世界では翼竜とも呼ばれる彼らはこの世界ではモンスターとして知られる。その凶暴さから高ランクの冒険者でないと太刀打ち出来ない存在だ。
ただ以前に対峙した更に大きな龍と比較すると若干迫力不足に感じてしまう。こんなこというと色んな方面に怒られてしまうとは分かっているのだが。
ギャアギャアと鳴き声を響かせながらワイバーンは辺りをキョロキョロとしていた。……こっちには気付かないでくれよー? なんて願う。襲われる事が問題ではない。もし逃げられてしまっては追いかけるのが手間なのだ。
そろそろーと気取られないように近づく。少しずつ距離がつまっていく。良い子だねー。そのままそのまま、なんて心の中で囁く。さああと一息で剣が届く距離だ。私は自分の身体に魔素を込める。
「……ごめんね?」
私は一瞬でその場を駆けワイバーンの首を両断する。
ゆっくりと首がずれ落ち、地面に落ちる。私はふうと息を吐いた。
「……大丈夫かな。リーザー! もういいよー!」
未だにピクピクと痙攣しているワイバーンの身体を見つめながらリーザへ声を掛ける。バタバタと音が聞こえる。こちらに駆け寄って来ているのだろう。
私は彼女の方へと視線を向ける。
「――え、ウソ。リーザ、こっち急いで!」
そこには別のワイバーンがいて、今にもリーザへその爪を突き立てんとしていた。彼女は何とか躱しながらにこちらへと走り向かってきている。
クソッ! フレイめ。まさか複数いるなんて聞いてないぞ!
私は身体に魔素を込め全速力でリーザへと駆け寄る。その爪があわや届くという一歩手前で、私は自分の身体に彼女を抱き込み、背をワイバーンへと向ける。
同時にリーザに届くはずだったその爪は、私の背を切り裂いた。
「――ッ!!」
熱が背中を走り遅れて激痛が襲いかかる。内臓の一部も損傷したようで、逆流した血が口から溢れ落ちた。……あーくそ。久々に深手を負った。先の戦い以来かもしれない。
私はリーザを抱き抱えたままにその場を離脱する。ある程度距離を取ったところで彼女を見ると、見たことも無いような青い顔を浮かべていた。私は『大丈夫大丈夫』と彼女の頭を撫でてあげた。
「リーザ? ちょっとだけ離れててくれる? すぐ片付けちゃうからね」
リーザはフルフルと首を振る。ただ今は説明をしている暇もないのだ。ワイバーンもこちらへ向かって来ている。
「ホント大丈夫だから。ほらちょっとだけ離れてね?」
見るとその両目には涙を湛えていた。いくら伝えてもその手を離してくれない。まあ目の前で人が傷つく所なんて見た事ないだろう。これが普通の反応か、なんて場違いなことを考えていた。
「……リーザなら見せてもいっか。ほら見て?」
意図的に止めていた炎を解放する。私の背から炎が立ち昇り傷口が癒えていく。リーザはそれを驚愕の表情で見ていた。
私の身体は少しばかり特殊で、怪我知らずだ。今のように傷を負ったとしても直ぐに癒える。
「だから大丈夫。またサクッとアイツ倒しちゃうから」
『待っててね?』と伝えその場を離れる。リーザはずっと私の服の裾を強く掴んでいたが優しく引き離した。
その後問題なくワイバーンは討伐した。他にももしかしたらいるのかとも思ったが気配はなく、ひとまずはこの二匹がこの辺りに生息していたのだろう。
「よし今度こそ終わったかな? リーザ心配掛けちゃったね」
リーザは、傷があった私の背中を摩っている。ちょっとこそばゆいんだけど……。
「ね大丈夫でしょ?」
本当に傷が治っている事を確認し終えたのか私から離れる。それでも釈然とはしていないようだったが。
「よし。じゃ帰ろう。でお金貰って豪遊だー。今日はお酒も飲めるかな?」
こんだけ苦労もしたんだ。多少は贅沢してもバチは当たらないだろう。フレイにも吹っかけてやらないとね。
「――ご苦労だったわね。で何? ワイバーンて二匹いたわけ?」
「そ。いや大変だったよ。ほら見てこれ」
竜人族の里に戻り私達は早速フレイに会いに来た。私は自分の背中を見せる。せっかくの服がボロボロだ。
「いやアンタ傷無いじゃない。確かに服は破けてるけど」
「治したんだよ。でも二匹いたのはホントだから」
『ちゃんと報酬貰わないと割に合わないかなー?』と言うとフレイはフンと鼻を鳴らしていた。
「分かってるわよ。そんなケチくさい事言わないし」
『後で使いに渡しに行かせるから』と受け内心ガッツポーズだ。これで多少返済にも余裕が出る。毎日労働のデスマーチだったが、少しお休みを作る事も出来るだろう。
「実はまだまだ頼みたい事もあるんだけど?」
「あそなの? でも今すぐは勘弁かな。ただいつでも言ってよ。お金さえ貰えればこっちはオーケーだから」
仕事が無くならないのはいい事だ。報酬が高ければなおいい。
「……アンタだからワイバーンも楽勝だろうけどね、普通あんなの簡単には倒せないのよ?」
まあ確かにワイバーン自体それなりのモンスターのはずだ。わざわざ兵士を編成し派遣したりする必要もあるだろう。
「こっちも下手に兵士を損耗したくないし、ギルドに頼むと時間もお金も掛かる。そういう意味だとホント便利よ」
「毎度どうもー。じゃあお声がけお待ちしております」
なんて冗談ながらに返す。フレイは呆れたような表情を浮かべていた。
「ま、とりあえず近くに寄ったら声くらい掛けなさい」
「ありがとね。じゃそろそろ」
私はフレイと分かれ部屋を後にする。ようやくリーザとの約束を果たせそうだ。
私もまだ知らない竜人族の菓子や料理に胸躍らせていた。
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