【1-4-1】 責任
「まったく。アンタに何かをお願いするなんて不本意なんだけど」
「いや呼んだのはそっちでしょうに。こっちこそビックリしたよ。――フレイ」
私を呼び付けたその人は、不満そうに尻尾で床をピタピタと叩いていた。
「……それぐらい猫の手も借りたいってことよ。誰かさんのせいでね」
彼女はフレイという名前で、亜族で竜人族だ。竜人族はそれこそリザードマンのような見た目の人もいるのだけれども、フレイは人寄りの見た目をしていた。
しかし彼女が言っているのはマグシアの関係だろうか。なら確かに私に一部責任があるとは認めるけど、全部が全部私だけのものでもないような……。
ただ彼女の神経を逆撫でしそうなのでやめておく。なんせすでに『何か文句あんの!?』と怒っているのだ。
「報告を受けてピンと来たのよ。絶対アンタだって。まさか冒険者なんかしてるだなんてね」
『自分の立場わかってる?』なんてまた睨みつけられる。いやもうとっとと本題に入ってほしい。隣でリーザも居心地悪そうにしてるし。せっかく中々来る機会のない竜人族の里にいるのだから、観光して回ろうと約束してたのだ。
「……で、フレイさんは何にお困りなので?」
「最近モンスターの苦情が多いのよ。こっちも頭数が減ったから全部が全部をすぐに対応は出来ない」
「じゃ私がそのモンスターってのを倒せばいいんだ?」
「そういうこと。アンタならどんな相手でも大丈夫でしょ? お誂え向きよね」
いやそんな便利屋みたいなスタンスで言われても。
「だってアンタと今この世界で互角に戦える人なんて、数えるくらいしかいないでしょ?」
フレイは『癪だけどもね』と付け加えていた。それは真実ではない。あの時にミームを倒せたのは沢山の助けや偶然が折り重なってのことだ。けして私が太古の神々よりも強いというわけではない。
しかしそれを今彼女に説明した所でそれでもやれと言われるだけだ。なら別に口を挟む必要もないだろう。ただそれとは別に確認しておくべき事があった。
「……いーけどさ。これってギルドを通さなくても大丈夫?」
そもそも竜人族の里へ来たのはクエストの関係だ。警護の依頼を受けてここまで付いてきたわけだけれども、有難いことにめっぽう腕が立つとご評価頂いた。
そしてそれを聞きつけたフレイに呼ばれたというわけだ。本当は仕事も終えてリーザとのんびりするつもりだったのだけれど。
「問題ないわ。これはあくまで私個人の依頼。別にギルドに依頼しているわけでもないし」
そう、なのか? なんだか良いような悪いような。
「ちなみに、報酬は弾むわ――「――乗った」
フレイは私の回答の早さに若干引いていた。でも仕方ないだろう? お金は大事なのだ。
「……まあ一応マーニャレスカには言っといてあげるわ。こっちで借りるって」
ああそれなら助かる。彼女がオーケーなら私は何もいう事はない。
「じゃ具体的な話ね。今回アンタに倒してほしいのは――」
私たちはフレイから話を聞き、早速その目的地へと向かう。ここから大きくは離れていないが、ただ数日は掛かるであろう距離だった。
「ーーごめんね〜リーザ。またお仕事なっちゃって」
ここに来るまでも疲れたはずなのに、休む間もなくクエストだ。観光の約束もお預け。文句を言われても仕方なかった。
「これが終わったら今度こそ観光しようね! 噂に聞いたドラゴンのステーキ串とか、ワイバーン飴とかさ」
正式な名前があった気もするが忘れた。ただ内容は間違ってないはずだし伝われば良いのだ。リーザもコクコクと頷いていた。よしよし終わったらたらふく食べさせてあげよう。
「へー! これがアスーラ山脈かー!」
竜人族の里を離れ私達は北へと向かい、辿り着いたのは荘厳たる山脈だ。青々としたその姿は圧巻という一言で、私の拙い語彙力では表現しきれないものだった。
「ほら見てリーザ! 綺麗だねー!」
リーザは私の言葉に反応も出来ないほどに目の前の光景に見惚れていた。彼女があまりにも魅入っているために、私は声を掛ける事なく満足するまでそのままにしてあげた。
この世界には大陸を上下に分ける山脈がある。西側はアスーラ山脈、東側はディーヴァヌ山脈と呼ばれているが、アスーラ山脈に訪れたのは今回が初めてだった。
アスーラ山脈を越えると国家ニンフェアの統治する領土になる。ただそれがどんな国なのかっていうのは私も未だによく分からない。誰に聞いても明確な回答を得られないのだ。
どうもその国は他国との交流を殆ど遮断していて、交流もなければ物流もない。ましてや山脈に囲まれており強いモンスターも出没する。とあっては他国から望んで訪れるものも殆どいないのだとか。
そんな秘密のベールに包まれた国なら一度は見てみたいと思ったりもするのだが、いつか機会があれば、だ。
さて私達は山脈のふもとから登っていく。アスーラ山脈は草花といった緑が延々と広がっており、登山自体への懸念はなくスイスイと登っていけた。
ちなみに今回目的とするワイパーンは中腹にいるらしく、時たま平地へ降りてきては人々を襲うらしい。そろそろ目印と言われたポイントだった。
「――あ、もしかしてアレかな?」
遠目に確かにワイバーンらしき姿も見えた。しかも都合のいいことにこちらに背を向けている。
「よしじゃあ早速いこっかね。リーザはちょっと後ろに待ってて」
彼女はコクリと頷き近くの岩陰に隠れる。ヨシヨシいい子だ。すぐ終わらせるからね。
私はワイバーンに気取られないよう警戒しながら、ゆっくりと近付いた。
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