【1-3-2】
私は何かに追われていました。とにかく逃げなければなりません。捕まったらお終いです。私は走って走って走り続けました。誰かも一緒でその人は私の手を引いてくれました。誰か確かめようとしたのですが、その人は前を向き続けているので見ることが出来ません。でもその手は随分と安心出来るものでした。
突然その人はいなくなってしまいました。私は寂しさから声をあげて泣いてしまいます。どこに行ったの? 帰ってきて。どんなに叫んでもその人は現れません。……私はこれが夢だと気づきました。だって私は声が出ないんですから。
やがて夢から覚めて、私は賢人さんに言われた通りに進みました。森を抜けると大きな道に行き着きました。道なりに進んでいけば、きっとどこかの街に行き着くんでしょう。私はテクテクと歩きます。
途中に疲れてしまったので道の端っこに座ることにしました。体力温存作戦です。またお休みしたらさっきの夢の続きを見るでしょうか? 目を閉じて意識を手放すまで暫く待っていると、ふと物音に気がつきました。さっきまではいなかったのに、今は目の前に人族の方々がいて私の様子を伺っているみたいです。残念。どうやら夢の続きは見る事が出来そうもありません。
彼らは私を見て何やら話していました。みんなが話しているので細かく聞き取ることは出来ませんでした。でも私の頭を撫でて抱き抱えてくれました。人の温もりというのが、こんなにも温かいということを初めて知りました。
彼らは私を馬車に乗せてくれました。お水や食べ物もくれました。私は喉はカラカラお腹はペコペコだったので、夢中になって頂きました。それを見て彼らは微笑んでいました。驚いたことに甘いものまでお腹いっぱい食べさせてくれました。早速夢の一つが叶ってしまいました。幸先の良い出発です。
彼らは私に何度も話しかけてくれました。ただ私の声はやっぱり出ません。どうしたら伝わるだろうと沢山試しました。結果として、口をぱくぱくさせてながら手でバツを作る事が一番分かりやすいと分かりました。
私の言葉が出ない事を分かると彼らの中には泣いてくれる人もいました。『もう大丈夫』『これからは幸せな生活が待っている』そんな言葉掛けてくれるなんて思っても見なかったので、私は喜びや安心よりも戸惑いの方が強かったです。でも私の曖昧な笑みを見て彼らは満足していました。
彼らは私が話せなくても沢山の事を話してくれました。彼らは行商人で今はルドリアというところへ荷下ろしのために向かっているようです。最近はマグシアという大きな国が出来たのですが、まだまだ不安定で野盗や人攫いも増えているのだとか。だから私が一人でいたところを見てビックリしたと言っていました。
最初は罠かと思ったみたいで通り過ぎようとしたのですが、やっぱり様子がおかしいと話しかけてくれたみたいです。よかった。もし彼らに拾って貰わなかったら一人で歩き続けるところでした。
彼らは陽気で優しい、良い人達でした。一緒にいて何か不快になることもありませんでした。こんな人達とともにいられたらきっと幸せな人生を送る事が出来るのでしょう。
夜中に私が起きていると、彼らの一人が私に気付いたようで話しかけてくれました。『遅くまで起きていると怖い人が現れてしまうよ?』なんてまるでちっちゃな子供みたいな扱いで失礼しちゃいます。『今はスーニャっていう怖い人が世界にいるから、その人が悪い子をお仕置きに来るんだからね?』とも言っていました。
スーニャという人がどんな人かは分かりませんが、そんなにも恐ろしいのでしょうか?
『その人が扱う炎はどんなものでも燃やし尽くしてしまうんだ。それに、スーニャ自身はどんな傷を負ってもその炎と共に復活してしまうんだよ』と教えてくれましたが、そんな人本当にいるのでしょうか? もしいるとしたらそれはまるでおとぎ話のような存在だと思います。
私がよく分かっていない事を理解しているのか、話してくれた人は笑っていました。彼は『君は良い子だから大丈夫だよ。アヌの太古の神々が守ってくれるからね』と言いましたが、その言葉を聞いて私の頭に頭痛が走りました。
痛みから呻き声をあげてしまいます。突如苦しみ始めた私を見て、彼も慌てていました。いったいどうしてしまったのでしょう?
痛みはすぐに引きました。本当にさっきのことは嘘のように何ともありません。彼は私が問題ない事を確認し『きっと疲れもあるのだろう。遅くにつき合わせてしまって悪かったね。もう寝なさい』と引き上げていきました。
それから数日、私は彼らと共に行動しました。彼らは『飽きてしまうだろう。申し訳ないね』なんて言っていましたがとんでもないです。草木やお花、モンスターに、途中にすれ違う人達。全てが私には新鮮で一つも見落とさないようにする事が大変な程でした。
以前の記憶はありませんが、もしかしたらこのような風景は見た事がなかったのかもしれません。世界というのがこんなにも美しいなんて、私は初めて知りました。
彼らは何でもない風景をじっと見つめる私を笑っていました。それでも私は見続けました。もっともっと色んな世界を見てみたいと、そう思っていました。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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