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異世界転生したら、世界の敵になりました。【続】  作者: 篠原 凛翔
【第1部】 うつろう世界

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【1-3-1】曙光

 目覚めた時、私は一人でした。覚えているのは自分の名前だけ。なぜこんな森の中にいるのかもわかりません。ただただ訳も分からず歩き続けました。そうしなければいけないように思えたんです。記憶もないのに変な話ですよね。

 

 食べ物は森に生えていた果実を食べました。飲み物は川の水があったので困りませんでした。川に映った自分の姿を見て初めて自分がこんな顔をしているのだと知りました。自分の薄金色の髪と青い瞳を見ると、なんだか胸から温かい気持ちが溢れてきました。


 同時に悲しさも湧き上がり、涙が止まらなくなりました。何故なのか理由は勿論分かりません。

 

 何日かすると冒険者さん達に会いました。彼らは私を見て大層驚いていました。私もビックリして腰を抜かしそうになりました。


 彼らは私に声を掛けてきました。こんな所で何をしているのか? 他に仲間はいないのか? 口早に尋ねてきます。私もここがどこなのかを聞きたかったので都合が良かったです。


 ただどんなに喉を振るわせても声が出ないのです。喉を押さえ力を込め、声を出そうとします。それでもやっぱり声は出ません。私はここで初めて自分が喋られないのだと気づきました。

 

 彼らは返事をしない私のことを不審に思ったのでしょう。暫くして私の元を去っていきました。私は彼らを追いかけます。でも途中転んでしまって追いつくことは出来ませんでした。それにやっぱり声は出ません。

 

 それから暫くはまた誰とも会うことはありませんでした。今にして思えばモンスターに遭遇しなかった事は奇跡だと思います。もし襲われていれば私は今生きている事はないでしょうから。

 

 何もすることがないので私は自分が誰なのかを思い出そうと努めました。頭をブンブンと振ってみたり、逆立ちしてみたり、色々試してみましたが、うんともすんとも記憶は戻ってきません。


 ただなんだか思い浮かぶ光景? はありました。それは白と赤が入り混じったもので、最初はお空かな? と思いましたが雲や夕焼けの色とはちょっと合わない気がしました。いつか実際のものを見たら思い出す事が出来るでしょうか?

 

 ここを出た後にしたいことも考えました。まずは甘いものや美味しいものを沢山食べたいです。大きなお家でフカフカのお布団に寝てゆっくりお休みするのもいいですね。

 

 でも、私にそんな人がいたのかも分かりませんが、家族やお友達とささやかにでも幸せに暮らす事ができたら、それ以上に素晴らしい日々なんて無いのかもしれません。だって、今はなんだかずっと寂しいのです。

 

 その日は雨でした。私はどこかで雨宿りが出来る場所を探しました。見つけたのはとってもとっても大きな樹です。きっと私なんかじゃ想像もつかない程に長生きさんなのでしょう。


 私は樹の下にお邪魔して雨が止むのを待っていました。何もする事はなかったですが、シトシトと降り注ぐ雨粒を眺めていたので暇という訳でもありませんでした。


 身体も多少濡れてしまいましたが、まだ比較的温かな季節であったために救われました。寒い季節であったら身を凍えさせてきっと命を落としていたでしょう。

 

 私はだんだんと瞼が重くなってきます。少し寝てしまいましょうか。でももしモンスターが近づいたら分からなくなってしまいます。自分との戦いです。むむむ……。

 

「これ、これ、そこなお嬢さん?」

 

 突然声が聞こえました。私は驚き過ぎて腰を抜かしてしまいそうになりました。それは確かに目の前の大きな樹から発せられていました。

 

「驚かせてしまって、すまないね。こんな所で一体どうしたんだい?」

 

 その声はとても優しいものでした。でも逃げた方がいいんでしょうか? 悪い人は大抵優しく接してくると聞いた事があります。いえ記憶は相変わらず無いのですが。

 

「怖がらなくていいんだ。君をどうこうするつもりは無くてただ喋り相手になって欲しいだけなんだ」

 

 ふむ。どうしたものでしょうか。ただ間借りしているのは私の方なのです。少しくらい歩み寄りも必要なのではないでしょうか。

 

「おお! そうか! いやなに誰かと会話するなど久方ぶりだからな。この通り動く事も出来ないし、せっかくだからと話しかけてみたんだよ」

 

 確かに地中に根が張ってしまっていますし、この大きさですと動けたとしても周りの木々を倒すことになってしまうでしょう。

 

「ああそうなんだ。昔は冒険者達に話しかけていたが、怖がって逃げられてしまったり、私をモンスターと思って攻撃してきたりでね。途中でやめてしまったんだ」

 

 確かに失礼ながらに見た目はモンスターそのものです。ただ言葉を解するという事は、賢人さんなのでしょうか?


 あれ? 今更ながら私はなんで彼と会話が出来ているのでしょう?

 

「ふふっ。まず私は賢人だよ。人の形を持たない、言ってしまえば言葉を解するモンスターが賢人でいいのであればね。それと君はどうやら喋る事が出来ないようだね? だから思考を読み取らせて貰ったんだよ」

 

 そうなんですね。という事は今もこれで会話が成立しているという事でしょうか?

 

「ああ大丈夫だ。君は随分と物分かりが早いようだ」

 

 なるほど状況は掴めました。さてじゃあ何をお話ししましょうか。

 

「君はどこから来たんだい?」

 

 私は自分の状況を説明します。記憶も無く何故ここにいるのかもわからないことを。

 

「……そうなんだね。でも君はあまりその事を気にしていないようだね?」

 

 そうでしょうか? ……そうなのかもしれません。覚えてないからこそ何も気負いがないのかもしれません。

 

「記憶が無くとも君は君だ。自分の姿に嘘も偽りもありはしない。ただあるがまま、自分の思うがままに生きればいい。それこそが君の存在を示す証となるのだから」

 

 そう言われるとそんな気もしてきました。私は賢人さんにお礼を言います。それから私たちは沢山お話しをしました。やがて雨もあがりました。

 

「名残惜しいけれど、そろそろ時間のようだ。進むのなら、向こうの方角がいい。暫くいけばこの森を抜ける事が出来るよ」

 

 大っきな樹さんは枝を揺らして示してくれました。私はまたお礼を言います。何も覚えてはいないけれども、進まなければいけない気がするのです。

 

「どうか君に幸多からんことを」

 

 私は別れを告げてまた歩き出します。

 

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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