タルシス山脈縦断
--- アスクレウス高原
連日戦闘状況が放送され、タニア王国と共生同盟国の戦況が伝えられる。
地上と宇宙とかなり広範囲に戦闘が行われており、どっちが有利なのか不利なのが報道からではわからない。
―― どうせバイアスが掛かっているのは、戦時の常道だからな。
そんな感情もありつつ、報道紙を読んでいく。
「しかし、なぜに、こんなバカげたことをするかね」
タツマが呟く。
アルバテラの好景気に水を差し、食料価格も上がってきている。 人が戦場に駆りだされれば、労働人口の減少により、製品の製造の低下により価格が上がることは自明の理。
『商社プロメンテの生産量は、生産改革に成功していますから、人手不足でもトークンを用いての主要穀物の生産量は増加の一途です。 穀物価格の値上がりで、我々商社プロメンテはウハウハですね』
隣のセレンが悪意なく、そんなことを言っている。 不謹慎と言う人もいるが、事実である。 おそらく、この戦争で商社プロメンテは、間接的に莫大な利益を得ることになる。
戦争で一時的に儲けると、それが成功体験となり次も戦争で儲かるとの錯覚が付いてまわり、最終的顛末は、歴史を見る限りどうしようもない悲劇で終わっている。
そのため、長期的な成長を考えれば、戦争特需は唾棄すべき内容であるのだが、儲けを目の前に人は欲望は抑えられない。
鉱石と穀物価格の上昇。特に生産高が多くなったプロメンテウィードは、市場価格を支配してしまっている。
商売は適正な利益を儲けることが、永続を図る秘訣なのだけど。
――まぁ借金が返せればそれはそれでいいか。 ビャーネさんとは、あとで協議だな。
そんなことを思いながら報道紙を読み進める。
戦況はというと、膠着状況に陥っている。
ガレの上陸をあっさり許し破竹の勢いで進むかと思われていたが、レーベにテッサリア軍とレーベ軍の合同部隊が集結していた。
レーベはともかく、テッサリアの迅速な動きは予想外であった。
タニア連合王国のマールス最強の白兵戦部隊であっても地理的条件と加えてキンメリアの雄がいるため突破に苦戦している。
特にプロクター海の攻略は、策謀と準備をもってしても難航を極めている。 実際にここで前進の推進力を失っているように思える。
特にレーベ側のアイギスシステムの2基の併用化を実施しているため、制空権が取れずにいる。
もし制空権を取るには地上戦でアイギスシステムの撃破をしないといけない状況に陥っている。 そのため、防御側が圧倒的に有利に見える。
一方でタニア連合国も兵站は、アルギューレ海を制圧しているため、兵站こそ長いものの危険ではない状況である。
四ヵ国大戦となり、ドンパチが始まっているが、アルゴスは国境封鎖程度しかできていない。
TF-1型を陸路で運び込まれたら国が飛ぶことは明白になったため、容易に手出しができない状況になっている。 これはタニア連合王国の心理戦勝ちといったところだろう。
*
北半球の夏季も大盛り上がりの22月だが、高地ということもあり、涼しく絶好の避暑地になる。
朝食を取りながら、引き続き報道紙に目を通し目ぼしい情報を探す。
『ところで、タツマ。 報道紙を読みながらの朝食中はやめて欲しいと、サナエさんに言っていましたが? 』
セレンが、朝食中の報道紙閲覧に注意してくる。
「一人だから良いんだよ」
タツマは、温くなったお茶を飲みながら、バンズに色々挟んである総菜パンを食している。
『ご都合的ですね。 それにしても、サナエさんを置いてきてよろしかったんですか? 』
「彼女を潜入工作の任務に同来させることはできない」
『かなり揉めていましたけど。 彼女。 納得していなかったですよ』
「アルプが、説得するからいいだろ。 それにここから先は、ヒルベルト商会の会員限定特別イベントだ」
『カッコつけていますけど。この作戦かなり条件が厳しいですよ』
「まぁね。 しかし、逃走ルートは準備してある。 なんとかなるだろう」
現在の場所は、アスクレウス山 登山口の集落の喫茶店でセレンと会話しながら朝食を取っている。
事実、タニア連合王国とテンペ大陸南部も戦争中であるが、マリネリスの断崖を挟んで両軍にらみ合っているだけで特段の戦闘には発展していない。
そして戦闘地域から遠いこの地はまさに銃後であり、いつもの日常を謳歌している。
夏季ということもあり観光客は、かなり多い。
避暑地の観光客と共に登山客も加わり、観光地らしい賑わいが見られる。 パワードスーツ装備の本格的登山者や軽装のハイキング連れの親子もいる。
湖にボートを浮かべている様子も見えており、観光シーズン真っただ中である。
山肌や平地の草原には、鮮やかな緑と夏季の花が咲いている。
景色も夏季らしく活き活きしている。 まさに平穏と言った状況である。
*
今回のヒルベルト商会の会員限定の特別イベントのパーティーは、アリエフさん・鄭さん・セレンとしてケルンが、付いてきた。
ケルンに関しては、タニア連合王国の地理に詳しいから連れて行けと無理やり付いてきた。 コンバットスーツがあれば、初心者でも戦闘プログラムによりある程度の銃撃戦や戦闘も可能になるため道案内として連れてきた。
我々の目的は、メンドゥーサ・レーダーサイトの無効化であるが、アリエフさん・鄭さんのヒルベルト商会年配チームは、どうやら親父からのお使いで別件があるらしい。
そのため、タニア連合王国に入るまでの同行になる。
「二代目。朝早いですね」
鄭さんが、声を掛けてくる。
農業や工事作業に従事していたからね。そのため、夜も早いけどね。
「社長。 報道紙なんか読んで……吉報はありました? 」
アリエフさんが、起きてくる。
「特に何にも。煽動的なプロパガンダと作戦成功の文字ばかりだ。 成功しているなら戦争は既に終わっているのにね。 まぁ代り映えの一進一体の攻防戦だろうな」
「タツマさん。 早いですね」
ケルンも起きてきたようだ。
本日が出発の日になっている。
準備は整えて、いざアガニッペ山中集落になる。
各々が起きて朝食後、装備の最終確認を実施する。
「トークンが10体と大量の特注バグドローンね……これで二代目の班は、いけるんですか? あの巨大施設の無効化ですよね」
鄭が、何とも言えない表情で言ってくる。
「対峙する相手に対して、小規模すぎません? 大丈夫ですかね」
ケルンも不安そうに尋ねてくる。
「人数が多ければいい訳でもないし、そもそも完全に隠密行動になる。 大物かつ大量物資の移動は厳しい。 最低限に絞るしかない状況だ」
タツマは2人の質問に回答する。
「カーゴ車両は、アガニッペ山岳集落からティファ―大陸のアルシア山麓集落までの山岳道をこっそりと移動するしかないありませんから。 確かに多くの物資の運搬には不向きですね」
アリエフが、状況を説明する。
「その通り。 故に不足分は地元住民の伝手を使って現地調達しかない。 それこそ、母上殿の知名度に頼ることになるかもね」
タツマが回答し、続ける。
「それにケルンとセレンもいる。君達には期待しているよ」
完全に敵地内での潜入工作活動だ。人数が多いと逆にバレやすくなるため最小人数での対応になる。 カーゴ車両2台が、アスクレウス山の山中に入っていく。
--- アガニッペ街道 山中集落
緑深い場所であり、山道には木々が覆い茂り鳥の声が聞こえてくる。
道も補強され広くなっており、車両の走行やすれ違い交差も容易になっている。
周辺地域の設計や施工の準備をしていると聞いているが、事前のインフラ整備は、着実に進んでいるようだ。
セレン、ケルン、タツマ組とアリエフさん・鄭さんの2人は、別カーゴに登場し2台で山道を進んでいる。
「山中集落の住民も随分と乗り気ですね」
ケルンが、話しかけて来る。 山の中過ぎてここにはラジオすら聞こえない環境になる。
「まぁね。 自分達を追い遣ったタニアに一矢報いる機会なんだろう」
タツマが応じる。
「廃坑道を利用しての進行ですか。 タニアの目を潜り抜けられますかね? 」
「アガニッペの主要道路は、管理されず落石で通行止めとの認識だろう。 それに坑道はタニア人でなくテンペ大陸の山岳民族に掘らせていたんだろう?
奴らに鉱山の詳細情報があるとは思えない。 せいぜい税の取り立て程度の認識か無いはずだ」
「なるほど……この戦争終わりますよね。 絶滅戦争なんて嫌なんですけど」
「さぁな。 TF-1型の使用を想定している以上どうなるか分からん」
タツマの方は、テラ人であるためマールス人ほど、深刻に考えていない。
しばらく車内に沈黙が訪れる。 セレンとケルン氏の両名で、華がない絵面である。
アスクレウス山の登山口の集落を出て、代わり映えしない緑のトンネルを走り続けて半日以上経過すると、ようやくカーゴは例の山岳集落に到着する。
「長いですねー」
「道が狭いし、速度も出せないからね」
タツマの発言を聞きながら車両は、上り坂を上がっていく。
大きな門が見え、先にアリエフさんの車両が着いたため、開門の手続きをしている。
門が開く。 集落の家屋は、木材のバラックから漆喰の建築に変更されている。
これも投資効果である。 社長がまずは住民生活の向上と際して住居の変更から手を付けた。
サナエさんと山を駆け巡った際には、冬の寒さが堪え、スマイル号内で夜を明かしたものだ。
中央広場に数名の人が待ち構えている。 広場にカーゴを留めて降りる。
「タツマさん。お待ちしておりました」
集落の現リーダーが、出てくる。
“何気に遠いなー”
“しかし、緑が多くて癒されます。 こんな場所のドライブはいいものですよ”
アリエフさん・鄭さんの2人の会話が聞こえてくるが、ここは流す。
「少し空いたね。 準備はできている? 」
集落の現リーダーにタツマが話しかける。
「ええ。 相談があった日から全てを整えてきました」
「集落から案内人は?」
「2名です。 地理には詳しい人間ですので問題ありません」
「了解だ。 アルシア山麓の鉱山街まで頼む」
「別班は、王都ラビリントスまでの道案内ですよね」
「ああ。 作戦内容を聞きたいのであれば、向こうに聞いてくれ。 同じチームであっても機密らしいからな」
「無理に聞く気もありませんよ。 直ぐに立たれますか? 」
「半日走っているから、向こうの状況次第だな。 少し休憩が欲しいかもしれないし。 こっちは問題ない」
「わかりました。 向こうさん次第ということですね」
*
暫くの休憩の後、集落からの案内人が、荷物をカーゴに入れ、運転席に乗り込んでくる。
「道案内をお願いね」
タツマが案内人に挨拶をする。
「任せてください」
4名がギチギチで運転席に座っている。
キャラバン隊が出発する。
「それとタツマさん。 例の代物は、カーゴ側に入れてありますので」
「了解だ」
カーゴ車両は、再び集落の住民のナビのもと廃坑を目指す。
集落の裏に温泉に続く山道が新たに整備されている。まだ舗装はされていないものの山道にしては広く、路面は固められているため走りやすい。
「鉱山夫達が、“疲れた体を癒した場所”を聞いたことがあったと、グリーンレイクの社長さんに教えたら、直ちにこの道ができましたからね。あの社長の行動力は凄いですね」
アガニッペの案内人が、話題を振ってくる。
「あの時は無我夢中だったからね」
タツマも一緒にその場所をコンバットスーツで探し求めた。
「そうそう。ナーミャンはどんな感じ? 」
「“かしら”の娘さんですか? 毎月“かしら”の所に面会に行っているようですね。 手紙を書けるようになったと手紙も送っているようで。 私も面会に行きましたが、娘の成長に涙していました。
“かしら”もこの集落を必死で守ってくれた人ですからね。 あの人がいなければ、今頃マフィアの縄張りになっていましたよ」
少しずつ平穏になりつつあるのか?
「それに集落の状況も知っているらしく、肩の荷が下りたような表情になってきました。今まで、気を張って生きてきましたからね」
確かに、色々あったことは想像に難くない。 小さいながらも武装組織を率いてきたんだよな。
「今でこそ新リーダーがいますが、彼も“かしら”が居ればと、常に言っています。 今でも、この集落の精神的支柱ですよ」
日が落ちかけているため、広葉樹の森はかなり暗い。 昼間であれば、鳥のさえずりが周囲に響き、このまま森林浴を楽しみたい気分になりそうだ。
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ようやく鉱山跡地のような雰囲気が出てくる。
広い開けた場所に朽ち果てた建屋が見えてきた。となりに燃料車輛が駐車してある。
『旧鉱山の宿舎や搬出エリアです。 ようやく出発ポイントに到着しました』
セレンからのアナウンスが響く。
ここまでが以前到着したエリアになる。温泉はこの上の方になる。
「タニアは独自の監視衛星を持っていますが、大丈夫でしょうか? 」
ケルンが、不安げに質問してくる。
「地上で多くの車両が走っている。山道を走っている車両など気にも留めないだろう? それに、おそらくテンペ大陸との自然境界であるマリネリス断崖付近に注力しているはずだ」
タツマが回答する。
「楽観的ですね」
それに呼応するケルン。
「それにこちらは、首都ラビリントスから離れている。 加えてやつらも戦闘中だ。ただの車両2台に注意を払うとは思えない」
タツマの回答にそれなりに納得するケルン。
山岳地帯を通って大陸を横断するのが、この作戦の最初のミッションになる。
山岳地帯に点在する集落には、タニアから逃れているものも多い為、それなりに支援が受けられる体制には、なりつつある。
しかし、山賊はそうはいかない。 この辺りは何とかなっているが、タニア側に行けば管理されていない地域になるため、山賊からの奇襲や襲撃は、大いに予測される。
故に、武装もしっかりと準備している。
山岳道は、本来も目的は鉱山を運びだす重要な通路になっていたため、それなりの広さと強度で作られている。 坑道内も、大きめに掘削しているため
この辺の坑道は、カーゴも通過できるようになっている。
アリエフさんらが、燃料車から燃料を車両に入れる。ここまで大分使っている。 鄭さんは、武装準備をしている。
こちらもコンバットスーツを装備して、武装のチェックに入る。 向こうの給油が終わったらこちらの番になる。
準備をし得終えると周囲はすっかり真っ暗になる。 車両のヘッドライトのみが唯一の光になる。 漆黒の森にエンジン音と人工の光だけが、頼りになっている。
「さてと。 行きますか! 」
タツマの号令。
『了解です』
「了解」
タツマ組の応答
「おうよ! 」
「やりますか」
アリエフ班からも応答がある。
準備が整い、いざティファー大陸!
閑話が続きました。 宇宙戦闘編に関しては、後ほど断章などで回収しようと思います。 暫しお待ちください。




