閑話 それぞれの戦い
--- マールス宙域
戦火は、地上以外にも広がっていく。
完全中立の共同宇宙基地であるフォボスから自国の宇宙ステーションを目指して、多くの艦艇が続々と出港していく。
フォボス近隣での戦闘は、惑星間協定により禁止されている。
そして、エリシウム戦時協定により艦艇を戦闘に参加させるには、一度自国の宇宙ステーションに向かいそこで準備を整えないと戦闘ができない取り決めになっている。
マールスの外環では、共生同盟とタニア連合王国との宇宙艦隊が、着々と戦闘準備を整えており、各陣営が円環の陣形を作っている。
ナーミャン総指揮官配下、共生同盟宇宙艦隊 68隻。
タニアの戦術士旗下、タニア連王国宇宙艦隊 75隻。
68 VS 75マールス初の宇宙艦隊戦が始まる。
アニメのように数百、数千の艦隊といきたいところだが、惑星国家でないため、建造から維持費を考えるとこれで精一杯、というよりもかなり無理をしている。
この数でもかなりかき集めた方でもある。 そしてエリシウム戦時協定の取り決めは、長い事使われておらずスターウォーズなど夢物語か作り話と笑っていた時代の代物であった。
しかし、ここに来てその無用の長物の条項が役に立っており、民間への被害や混乱もなく戦闘という政治的行為と民間の生活は、上手く分離が成功し民間人の戦時宙域の避難も円滑に進んでいる。
--- サバエア連合艦隊
旗艦ゲリュオンの戦闘指揮所には、オペレータなどの共にナーミャンとその副官がいる。
ナーミャンが戦闘指揮所のモニターから周囲の艦艇の状況を確認する。
「壮観だな」
「ええ。集めに集めた艦隊です」
「こんなことは、これを最後にしたいものだな」
ナーミャンから愚痴が漏れる。 地上からの情報もモニターに映像として表示され、一般放送も流れている。
「地上では、ガレが落ちたようだな」
副官が応じる。
「残念ですが、想定通りでもあります。 ここからの地上の遅滞戦術が、本番であります。 この宙域の死守により消耗戦、またはタニア宙域の奪取による勝利こそが我々の命題になります」
ナーミャンも頷く。 彼女が改めて艦隊の状況をホログラム確認する。
宇宙空間であるため、立体的に配置を確認する必要がある。
「軽巡洋艦・フリーゲート艦を中心に前面にシールド艦を配備か、最新のキャミャエル型有機AI仕様の頭脳を積んだ、戦艦群か。反乱はないだろうな? 」
「お気持ちは分かります。ノーマンズ・ライジングの記録は、薄れていても恐怖は残っております。 私も同意見ですが、エンジニア連中が言うには問題ないとのことです。
電波防護もしてありますので、我々の意図に反した行動はないとのこと」
「そうか……上の連中の危惧した通りになった訳か」
「私には上層部の意図は図りかねますが、優秀な人物を重要ポイントに置くことは理に適っていると存じます」
「煽てても、何も出ないぞ」
照れると耳が動くクセは取れていない様だ。
「事実でございます。 クシャナ閣下」
副官との関係も良好のようである。
--- タニア宇宙艦隊
「本格的な宇宙戦か。やりたくないんだよね。 宇宙戦争とか物語だけでお腹いっぱいなんだけど。 金食うし、人死ぬし。これだけの艦隊維持するコストと建造費っていくらよ? 」
「マルカ閣下。 まだ録音はされていませんが、その様な不穏な発言はお控えください」
副官が諫める。
「愚痴くらいいだろ? 記録前だし」
「既に大佐の御身分ではないのです。 発言には自重をお願いします」
マルカ・ツー・オルト・アリストライド。“タニアの戦術士”としての二つ名を持ち、宇宙軍で活躍している。
ティーファ大陸の農家の5男として生まれ、今や宇宙艦隊の少将までになりあがった。 ナーミャンとの因縁は数多くあるが、最初からの直接対決は、これが初になる。
「おまけにTF-1型とかいうイカレタ兵器だろ――? 」
「ティル・フィングですか」
「宇宙であれば何してもいいというのは、どうかと思うけど? 私は、トツカ弾核ですら使いたくないのにさ。 終戦の落としどころなくなるよ」
被害が大きくなれば、引っ込みが付かなくなり泥沼の消耗戦に陥ることを危惧しているようだ。
「お気持ちはわかりますが、相手も所持していることをお忘れなく」
「ナーミャンか。厄介な相手に厄介な兵器ね」
「数的不利を覆すには、十二分な兵器になります。ご留意を」
両者とも所有していることは知っているが、所有数は、不明である。
「まったく。先に使用して、相手を削り切れればいいが、失敗すれば切り札を失いことになる。 加えて魚雷での運用であるため、推進速度が遅く、電磁加速砲で撃ち落とされる可能性がある。 カードの切り方を間違えれば直ちに不利になる……ね」
「はい」
「しかし、まぁ小難しいことは後だ」
各艦隊の配置、通信回線接続状況、戦闘準備の最終確認の報告が上がってくる。
宇宙空間では、摩擦がゼロにより慣性により永遠に動き続ける。そのため、艦隊陣形も円を描くような環状陣形をとり、固定位置を形成する。
両軍は、回転する独楽のような陣形をつくり徐々に近づいていく。 傍から見れば喧嘩独楽のようにも見える。
時折の威嚇弾丸もあるが、撃ち落とされている。
作戦要綱は事前に通達済みである。
「さて、これも仕事だ。――しかし、厄介な案件だな」
マルカが呟く。
その間にも両軍が、攻撃可能ポイントに近づく。
マルカが、自軍の全艦隊に向けて、一斉放送が流れる。
「目標! 前方! 共生同盟艦隊! 投射!! 」
マルカ少将の号令からマールス人類初の宇宙戦が開始される。
75隻の艦隊の電磁加速砲の一斉掃射が始まる。 もちろん、ナーミャン艦隊からも加速された弾丸も向かってくる。
マルカ艦隊とナーミャン艦隊の中間位置では、おびただしいほどの発光現象が起きている。遠目で見れば幻想的であるが、実際は電磁加速砲の弾丸が衝突している光になる。
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この世界にレーザー兵器やプラズマ兵器はない。 弾幕は、実弾だけである。
重ければ重いほど、速ければ速いほど威力が高い、いたってシンプルな仕組みである。
バリアにより防ぐと言いたいが、残念ながらそれも存在していない。
弾丸は撃ち落とすか、避けるか、受け止める。 これしかない。
AI処理性能と光学処理性能が飛躍的に向上しており、敵艦の砲塔の向きから弾頭の軌道計算を実施し、防御弾幕で対応し、かちあい弾で防御する。
攻めこそ最大の防御を地でいく戦法である
戦艦の装甲も、高密度化装甲や弾性装甲など、弾丸の衝撃を緩和したりする装甲を用いる。そのため、シールド艦やディフェンス艦などの弾受け専門の艦も存在している。
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≪斉射後の戦果。わが軍の命中率……2% 被弾率……3%≫
オペレータから初撃の戦果が伝えられる。
マルカとしても初めての大規模宇宙艦隊戦である。
相手にいくつの弾丸を穿ち、穿たれたか。宇宙空間なる開けた場所での弾丸の打ち合い。
かちあい防御で9割以上は防げていると感じている。しかし、
「キャミャエル型有機AIか……噂には聞いていたが、能力差は実戦で明確になるな」
戦艦の数も重要であるが、それ以上に精密射撃が行えるAIの性能がモノ言うようになってきているようにも感じてきている。
TF-1型の開発に予算をかなり割いたため、宇宙戦艦の改修が後手になっている。
この1%の差が戦況にどう影響してくるか。
マールス宙域 艦隊戦は、始まったばかりである。




