作戦会議
---アルバテラ オーソン宅
アスクレウスから出発して2日目、日が暮れた中、ようやくオーソン宅に着いた。
それにしてもやたらとコンテナがある。
―― この光景、既視感があるな――家主からクレームが来そうだけど。
「プロメンテの初期のビャーネさん家みたい」
さすがサナエさん、覚えていらっしゃいましたか。
「懐かしい光景だけどいいのかね。 オーソン家からクレームが来そう」
『然るべき料金を払えば問題ないでしょう。そうすれば人は黙るものです。それにアリエフと鄭が乗り込んでいますから、その辺りも抜かりなく対応していますよ』
このトークンなんか嫌な感じに成長している
その言葉の直後、スマイル号の音が聞こえたのかガレージからアリエフさんと鄭さんが、迎えに出てきた。
タツマが車両から降りる。 暗がりであっても、オーソン宅の屋外灯の光と車両のヘッドライトでこちらも向こうも姿が分かる。
「社長。お久しぶりです」
アリエフさんからは、歯痒い名称が飛んでくる。
「二代目、結婚したんだって。新婚じゃないですか」
鄭さんは、相変わらずの口調である。
遠方からこちらに呼びかけるような形での挨拶になる。 親父から事前に派遣者は知らされていた。 事実、両名の戦闘力は、一般水準からすればとても高い。
しかし、改めて両名を姿を確認するとヒルベルト商会の白兵戦戦力の2強がこちらに出向いていなことに対して、若干の不安が残る。
タツマからの挨拶もそこそこに、彼らに質問を投げる。
「随分とコンテナを運び込んだね。 副社長と親父は?」
「バルティスは、いつものように会長のお守ですよ。 全員こっちにきたら、会長も手が回らないでしょうし」
―― 向こうは向こうで何かする気でいるか――此方は、此方のことをするしかなさそうだ。
「了解だ。 でっ? アルバテラに来た詳細理由を聞きたいところなんだけど」
「いいですよ。 では、ガレージ内で」
アリエフが、親指でガレージ方向を指し示す。
「わかった。先に家主に挨拶してくる」
タツマは、足の向き先をガレージからオーソン宅に向ける。
そして、オーソン宅前の呼び鈴を押す。
≪タツマさんですか? ≫
応答したのはケルンである。
≪おう! いま戻ってきた≫
≪今行きます≫
ドアが開きケルンが出て来る。
「タツマさんも相変わらずですね。アガニッペでひと悶着があったんですって」
「今回は巻き込まれただけさ。コンテナ大丈夫かい?
「ええ。 賃貸料も頂いていますし。 両親も副収入でよろこんでいました」
『そうゆうことです』
セレン。 力説しなくても
「また、何かするんですか? 」
「秘密だ」
「私も、もう関係者ですよね? 」
「アルバテラTF-1型の捜索は、助かったよ。 今はそこまでだ」
「私の力が必要になったらいつでも言ってくださいね。 きっとお力になれますから」
「あのねースリリングな冒険じゃないんだから」
「例の四国大戦関してですか? 」
「……ノーコメントで」
「分かりました。 父には、私から言っておきますので、引き続き安心してガレージや離れを使ってください」
「助かる」
取り敢えず、ケルンに挨拶を済ませガレージに向かうが、サナエさんもついて来る。
「一緒に聞くのかい? 疲れているから休んでいた方がいいんじゃない」
「まさか! 車内の話からして碌なことじゃないし。 状況は気になるところ。 それにほとんどが、セレンの運転出し疲れていないわよ」
仕方なくサナエさんとともにガレージに向かう。
--- オーソン宅 ガレージ
簡素な円形のテーブルと簡易の椅子が並べてあり、4人分のティーカップとポットがある。
「社長どうぞ、キャミャエルさんも」
アリエフが、椅子を勧める。
「サナエでいいわよ」
席に座ると、鄭がお茶を注ぐ。 お茶のいい香りが、周囲に薫る。
その香りのなかで、タツマが、お茶も手を付けずに早速切り出す。
「それで、きな臭い情報は聞いたけど、実際どうなの? 」
アリエフとサナエさんは、お茶を息で冷ましながら、カップに口を付けている。
「概ね聞いているとおりです。マールス内の主要4ヵ国でドンパチしようって状況です。 それも3対1です。 酔狂の類ですよ」
鄭の説明が終わり、彼もお茶に口を付ける。
「1は、タニアか。勝算なんてあるのかい? 」
タツマが、視線をアリエフ・鄭の両名に向ける。
「残念ながら、3ヵ国でようやく何とかなる国力ですね。おやっさん……ダイゴさんからおおよそ起きるだろう進行予測草稿を持ってきました」
鄭さんから、タブレットを渡される。
親父が今後の推移をまとめた資料のようである。
その資料を読み込むタツマ。
「何々? 何が書いてあるの」
サナエさんが興味深々で聞いて来る。
「……ハァー。止めようよ。悲劇しかないじゃない」
タブレットをサナエさんに渡すと、彼女が読み込んでいく。
*** 進行予測 ***
“タニア連合王国の予想進軍路”
タニア連合王国の海上戦力が、ガレへの上陸を敢行
宇宙艦隊からの軌道降下部隊によるサバエア大陸の南部制圧を実施
メレア街道を通ってキンメリア大陸へ進行
進行は、キンメリア南部の主要3都市を降伏の後、征服を持って完了
“本作戦に対しての対抗策”
サバエア・キンメリア両大陸の海上戦力をもってしてもタニア連合王国の海上戦力を退けるのは困難であるため、サバエア大陸の地上戦は遅滞戦術とアイギスシステムの守りに徹する。
本戦の要は、マールス宙域会戦の勝敗になる。
特にサバエア大陸の宙域の確保が重要になってくる。
サバエア大陸の宙域を保持できれば、敵の進行を大幅に遅らせることが可能となる。
またタニア連合王国の宙域がさえ押さえれば、こちらにも勝機が出てくる。
宇宙艦隊には、タニアの戦術士がいる。あれの撃破は容易ではないはず。
こちらは、陸軍から強制派遣したナーミャンとTF-1型で敵の殲滅を図り事態を好転させる。
艦隊もキャミャエル型で改修されているため、精度は奴らよりも上である。
勝機はあるが、宇宙会戦となると被害が大きく、戦後の処理に大きな負担が発生する恐れがある
*** 終了 ***
「私の名前が使われているんだけど? なにキャミャエル型って」
「サナエさんのアルプですよ。あの理論をもとに改良したAIを宇宙戦艦に積み込んだんです。 命中率の飛躍的上昇が見込めたため、全戦艦に導入したようです。 兵器は、命中精度や品質が最重要項目になりますから」
鄭さんが、回答する。
『アルプが複数いるとうことですか』
セレンが要約してくる。
――なんとも
都市国家エリスとして、新技術の導入の躊躇のなさにタツマも驚きがある。
「人の研究成果を勝手に~」
サナエさんは、あまり好意的ではなさそうだ。
しかし、エリスの国家機関での研究であり、金もそこから出ていたのであれば、やはりこんな使われ方は仕方のないこと。
それに、戦艦性能が上がるとなれば、戦場での生存率も上がる為、導入実施は、正解であろう。
そうなると、エリスは、事前にタニアとの一戦を想定したことになる。 実績のあるナーミャンを空に上げた理由が、なんとなくわかってきた。
「ところで、タニアの戦術士ってだれ? 」
「エリスの天敵ってやつだ。こいつがトロイ島ときの捕虜奪取やガレ攻略戦の撤退戦を指揮した人物とのことだ」
鄭さんが、回答する。
強敵には、強者をぶつけるかー。 双方とも準備万端で開戦不可避のように思えてくる。
―― TF-1型を使用する前提なのが、かなり気になるが、大丈夫なのか?
とはいえ。タツマとしても今回は、自分の出番はなしと踏んでいる。 そもそも、宇宙戦争なんぞ規模が大きくなり過ぎており、自分の手に負えないイベントなのは明白だ。
―― 戦争なんか好きな奴だけが、勝手にやっていればいいんだよ。
そんな考えをしながら、鄭とアリエフ、両名の作戦内容の説明を聞き流している。
そんな心在らずのような状況から不意に、アリエフが、地図を広げ、あるポイントを指す。
「で、会長からの指令なんですが。ここを破壊してくれと」
唐突な指示が飛んでくる。 タツマが一瞬固まるが、アリエフはその状況に構わず話を続けていく。
「施設は “メンドゥーサ レーダーサイト” になります」
アマゾニス海に面しているエリアになり、東には、タルシス山脈が北にはオリンポス山があり、海流や火山灰の影響もあり通常の航空ルートから外れたエリアである。
タニア連合王国の裏口に当たるところで戦力は手薄だが、アイギスシステムにより防衛されているとのこと。
画像を見せられる。断崖絶壁に場所に10階建てのビルの大きさの建物がある。中心部に亀の甲羅のようなレドームがある。
「またデカいの造ったね。……これを破壊しろって? 無理だろう! ロケット砲の直撃でも破壊は無理だ。 ミサイルでようやく何とかなる代物じゃないか! 」
アイギスシステムであるため、そんな航空兵器は届く前に撃墜されるのが、オチになる。
「会長曰く、もしかしたらこの施設が今回の戦の肝になるそうです。 戦いを早期に終わりにするにもここの破壊が、絶対になります」
「無理だ! 潜入してようやく何とかなる代物だ! 外部からの破壊は不可能だ」
「マールスの戦火をこれ以上広げないため、お願いします」
アリエフさんが、頼み込んでくる。
「二代目。 これ以上悲惨な光景は、俺達も見たくない」
鄭さんも同様に頼み込んでくる。
―― 馬鹿じゃないの。
「必要なものがあれば揃えるとのことです」
「例の兵器を使えばいいだろ? 」
タツマが言い放つ。 ここに来た当初、保険としてマールス軌道に浮遊している禁忌兵器がまだ残っている。
「大義を失うので却下。とのことです」
アリエフが、無碍もなく却下する。
―― 親父もお見通しか。 まぁ自分が使うなって言っている手前、迂闊に使えないか。 しかし、“神の杖”でもない限り不可能だぞ。 といっても、ここでは、地上で衛星兵器や核兵器を使えば、非人道的と非難を浴びるか。
しばらく考え込み、タツマが口を開く。
「考えるけど――可能か否かは、わからないぞ。 この地域の地形データと気象情報をお願い。 過去10年分」
マールス人には、ノーマンズ・ライジングの記憶がしみ込んでいる。 自分達自身が生み出したものにより、自らが絶滅寸前に追い詰められる恐怖。
「分かりました。 準備します」
間接的原因であるAIと直接的原因である自分たちを殺した兵器への忌諱感。 故に使用した側が断罪される道理。
―― くっそ! 親父の無茶ぶりにもほどがあるだろう!
衛星兵器・核兵器・生物・化学等のこれらの兵器は、パーリア兵器としての括りになる。 ここにトークンやドローンなどの無人兵器は、記載されていないが入るとする見解もある。
そしてこのパーリア兵器の地上での使用は、エリシウム戦時協定により禁止されている。
故にマールス人の一部の※1トークン嫌いが、自身の意見を正当化するのに、このことを用いることが多い。 トークンは、パーリア兵器の一部である。
それら危険兵器を使用するか否かの瀬戸際に追い込まれる戦争に駆り出されるタツマ。 戦火の拡大を最小に抑え込むため、再びの貧乏くじを引き受けることになる。
※1トークン嫌い:過去の資料からAIで制御されたトークン達が、再び自由意志の下に自分達に歯向かてこないかの危惧をしており、これ以上の発展を好まない傾向がある。 ちなみに、現在の軍事用のトークンの技術水準は、人間からの細かい指示によって隊列を作って人の盾になること前提であり、曖昧な指示で強襲を掛けられるほどの能力はない。




